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77話 決闘(4)

久しぶりの投稿になってしまいました。すみません。

普段より少し長めになっているので、分けて投稿しようかとも思いましたが、この分量のまま投稿してみました。休憩しながら読んでください。






 アルは最近覚えた「隠密」のスキルを駆使して屋敷を出る。



 今日は決闘の日ということもあり、屋敷の使用人たちの半数ほどが会場へ向かっているし、その分屋敷の仕事も忙しそうだったので、アル一人がいなくなってもバレることはないだろう。



 昼ご飯までに帰ってさえいれば。


 そんなことを考えながらも、それなりに早い速度で足を進める。そして、頭の中ではこれからの行動について考えをまとめていく。



 ジンクス・ホークスハイム。


 『鑑定眼』を用いて見ても、噂通りの「凡才」であった。しかし、ある一つの部分を除いて。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ジンクス・ホークスハイム(26)

種族:人間(魔族化)

称号:ホークスハイム侯爵家長男 気狂い

HP:1,000/1,000

MP:1,000/1,000

魔法適性:闇


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レベル:3(俊+20,知+5,他+10/毎)

筋力:120

防御力:120

知力:110

俊敏力:140

スキル:片手剣(1) 礼節(1) 豪遊(3)

ギフト:なし

加護:なし




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 スキルの少なさやレベルの低さ、それに一つだけ伸びている「豪遊」から、彼の性格やこれまでの生活様式まで、容易に想像が出来た。


 ステータス値もベルと比較して、どれも上回ることは出来ておらず、魔法なしの決闘であったとしても、ベルの勝利はゆるぎないだろう。



 しかし、一つだけ普通ではない点がある。


 それは、種族に「魔族化」という文字があることだ。



 一体いつからこうなっていた?



 屋敷にいる時、アルはその場にいなかったため『鑑定眼』を用いることは勿論、ジンクスの外見を見ることすらできていなかった。容姿を見たのだって、さっきの「望遠」スキルを用いてみたのが初めてだ。



 ただ、どうして彼が魔族化しているのかは分かっている。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



魔剣グラム

階級:ゴールド

付与:魔族化(魔族:グラムの霊魂が込められている)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 ジンクスの武器、魔剣グラムの付与効果によるものだ。


 付与魔法に「魔族化」なるものがあるとは知らなかったが、「鑑定眼」にそう出ているのだから信じるほかない。



 グラムという魔族の霊魂が込められている武器で「魔族化」という付与がかかった武器を持ったジンクスが、「魔族化」しているのだからその因果関係は誰でも想像に難くないだろう。



 魔族を倒すには「光属性」を持つ者が必要だ。それも、かなりの実力者で戦闘経験を積んだ者が。



 アルは、決闘の舞台のある大広場へと一直線に向かっていく。


 しかし、自分の格好を見て一旦足を止めた。



「いかにも、貴族の子息って感じだよね」



 このまま舞台の方へ向かえば、目立つことはすぐに予想が出来た。しかも、舞台にいるのは自分の兄たちであり、それに、父・レオナルドには決闘に関わる事を「禁止」されている。



「……変装かな」



 アルは近くの商店で無難で質素な洋服と仮面を購入した。










 思わぬところで時間を要してしまったが、時間としては屋敷を出て10分くらいしか経過していないはずだ。


 徐々に舞台のある大広場が近づいてくる。観客たちのほとんどが既に避難を開始しているが、腰を抜かしてしまったのか、まだ数人が広場に取り残されている状況だ。そして、舞台の上では横たわっているガンマと治療を行っている神官、そして、真っ黒な刀身を下腹部に突き刺されたベルの姿が見える。


 そして、ジンクスを依り代にしている魔族の姿も。



 すぐに間に入らなくては。



 アルは『鑑定眼』をフル稼働させながら、舞台の方へ全速力で向かう。


 ガンマのHPは残り2割ほどで、未だ徐々に減少傾向にある。しかし、それより深刻なのがベルの方だ。


 HPは一割程度、そして何より現在進行形で魔力が急減していっている。どうやら、大技を放とうとしているようだ。


 しかし、今の状況で魔法を放つと、最悪MPを使い果たして動けなくなってしまう。つまり、現状でそれは「死」を意味するのだ。



 魔族もそれを察知してか、ベルから離れる。



 チャンスだ。



 アルは魔族がベルから離れたのを確認してベルと魔族の間へ入っていく。その瞬間、魔族がベルに突撃を開始する。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



グラム(1056)

種族:魔族(弱体化)

称号:魔族軍元幹部 知将

HP:2000/5000

MP:1250/1500

魔法適性:闇


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レベル:90(知+0,他+10)

攻撃力:1000(480)

防御力:1000(480)

知力:100(50)

俊敏力:1000(480)

スキル:片手剣(3) 策略(2) 突撃(4) 付与(1)

    魔力剣(2) 

ギフト:ギフト無効(対象一人のギフトを無効にする)

加護:なし



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 凄まじいステータスだ。


 レベル90は、グラムという魔族の年齢を加味すると低く感じてしまうが、それにしても各ステータス値は今まで見てきたものの中で最上級のものだ。


 弱体化しているためか、ステータス値は軒並み下がっているが、それでもかなりの強敵である。何より、彼の持つ「ギフト無効」というギフトは、かなり注意の必要なものである。



 アルはベルの前に割り込み、グラムの突撃を受け止める。


 グラムは、まさか自分の剣が受け止められるとは思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべている。



 確かに、アルのステータス値ではグラムの剣を受け止めるのは、本来なら不可能だ。


 アルのステータスが高いとは言っても、「ALL300」。攻撃力480のグラムの剣を受け止めることは不可能である。



 しかし、それは「何もしていないアル」ならだ。



 アルはまず、後ろで未だ攻撃の準備をしていたベルに声をかける。流石に、今の状態のベルに魔法を撃たせるわけにはいかないからだ。



「その必要はありません」



 ベルは「魔眼」を発動しているようなので、すぐにアルの正体に気が付くだろう。しかし、近くには神官もいるし、腰を抜かして動けない市民たちもいる。出来る限り、他人であるように接する必要がある。


 ベルはアルの言う通り魔法を魔法破棄(リキャスト)する。


 これで、ベルの方は大丈夫なはずだ。



 グラムはアルたちから再度距離をとるために後方へ退く。



「貴様は、いったい誰ナノダ!」



 グラムの顔には、さっきまでの余裕な表情は一切ない。目の前の「イレギュラー」に、警戒すらしていた。



 アルはグラムの言葉を一切無視して、ベルに回復魔法を放つ。



『ヒール』



 ベルの下腹部に出来ていた大きな傷が一気に治癒される。流石に失った血までは元には戻せないので、未だベルには倦怠感はあるが、HPも半分ほど回復していた。


 そして、間髪入れずにガンマにも治癒魔法をかける。


 ガンマの方も同様な効果が見られ、致命傷になりかけていた傷は完治し、5割ほどHPも回復していた。



「そんな……」



 ガンマを懸命に治癒していた神官は、目の前の光景に驚きを隠せないでいた。


 自分がいくら頑張っても直せなかった傷が、たった一つの魔法で完治してしまったのだから、驚くのも無理はないだろう。



「無視するトハ、我ヲ愚弄するカ!!」



 グラムは自分を一切無視し、2人に回復魔法を放ったことに対して怒りを抑えられないでいた。そして、その怒りに身を任せアルに攻撃を開始する。


 しかし、その攻撃は今までの突撃のみの攻撃ではなかった。自分の長所である圧倒的なステータス値を活かした大味な技ではあるが、アルの事を脅威と認めたのだろう。



 しかし、アルはその攻撃を難なくいなしていく。


 その事に対してグラムは再度顔をしかめる。



「何故ダ! 貴様、人間ナノカ!?」



 人間にここまで対応されるとは思っていなかったグラムは、驚きのあまりアル本人にそう聞いてしまう。彼の知る人間では、この速度に対応するなど有り得なかったからだ。


 しかし、アルは声を出そうとはしない。


 別に答えないことで相手を挑発しようと思っているわけではないのだが、あまりしゃべると要らぬ憶測を残すことになりかねない。



「神官。その人をすぐに治療院へ運べ」



 まだ11歳のアルの声は男性より女性寄りの声だ。体格も筋肉質な男性らしいものではなく、少し身長が高いだけの年相応な体格と言えた。


 つまり、年齢不詳。性別も不詳という、アルからすれば最も都合の良い状況だ。



 目の前で起こった奇跡に驚きを隠せなかった神官だったが、アルの言葉を受けてようやく我に帰った。そして、アルの命令通りにガンマの肩を担ぎながら舞台から降りる。



「……これで、気をつかう必要はなくなったかな」



 舞台の上にはアルとベル、そして魔族の3人しかいない。そして、舞台から少し離れたところに数人が情けなくこちらを見ていた。


 しかし、距離は離れており、会話の内容までは聞き取れないはずだ。



「魔族グラム。お前の目的はなんだ?」



 アルは魔族にそう尋ねる。


 さっきまで無視を決め込んでいたが、情報を収集する必要もあるだろう。



「まずハ貴様カラ答えるノダ!」



 血走ったように真っ赤な瞳がアルのことを睨みつける。もはや、後ろのベルのことなど眼中にないようだ。



 さて、どう答えるべきか。



「我が名はカナタ。貴様を倒す者だ」



 アルは前世の名前を口に出す。


 奏多。


 この世界では珍しい、いや聞いたこともない名前だった。しかし、魔族はその名を聞き表情を凍らせる。



「――貴様、神の僕カ!!」



 グラムはそう叫び、アルから距離取る。そして、背中に漆黒の羽を生やした。



 退避行動。


 名前を聞いただけでこのような行動をとるとは。


 しかし、流石に逃すわけにはいかない。



「さっきの魔法を」



 アルは後方に控えていたベルに2つの付与魔法をかけつつ、そう指示する。


 そして、アルは剣を抜く。



「ギャアアアア!!」



 刹那。


 グラムは背中に生じた痛みに叫び声を上げた。さっきまでグラムの背中に生えていた羽が彼の足元に転がる。



 グラムは目の前の存在に「恐怖」する。


 目に見えない斬撃によって、一瞬で背中の羽を切り裂いたその存在に。



「次は貴様が答える番だ」



 アルは一歩一歩グラムへ近づいていく。



「貴様の後ろにいるのは誰だ?」


「我ガ答えるとデモ? どうせ貴様ら人間共ハ死ぬノダ!」



 グラムはそうは言いながらも逃げる算段を探す。しかし、羽を切られた今、逃げる手立てを彼は持ち合わせていなかった。


 そして、彼は覚悟を決める。



「死ねェェェェーー!!」



 グラムはアルの横を全速力で駆け抜ける。そして、魔法を構築し終えたベルに向かっていく。



『獄炎』



 巨大な青い炎がベルから放たれる。


 グラムはその炎を見てニヤリと口角を上げる。



「こんな魔法ヲ警戒していたトハ」



 グラムは足を止めずその炎に突撃する。炎ごとベルを串刺しにするつもりなのだ。しかし、グラムの目論見は一瞬で打ち砕かれる。



「チェックメイト」



 ベルから放たれた炎が色を変える。


 白い炎。聖属性を秘めた炎だ。



「何!!??」



 その炎はグラムに直撃するや否や、大きな火柱を上げて燃え上がる。そして、その炎は消えることなく彼の体にまとわりついて燃え盛る。


 グラムの体から、真っ黒な煙が経ち始める。いや、煙ではなく、彼自身の体が朽ちていく際に生じた彼自身の体の細胞といった方が適切かもしれない。



「馬鹿ナ……我ガ人間如きニ敗れるワケガ――」



 グラムの声が消え失せる。すると、彼の体にまとわりついていた純白な炎の火柱も同じように霧散した。



 そして、そこには生き絶えたジンクスの死体だけが横たわっていたのであった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にて知らせていただけるとありがたいです。また、何か感想等ございましたら、そちらも送っていただけると嬉しいです。お待ちしております。

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