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75話 決闘(2)






 両者、決め手に欠ける状態で時間だけが経過していく。


 そんな状況を打開しようと先に行動を起こしたのはジンクスの方だった。



「〇◆□■!」



 もはや言葉とも聞き取れないような絶叫を発しつつ再度突撃を開始する。剣技といえる攻撃ではないがその速度はかなりのもので、近接戦闘が得意ではないベルにとっては一番面倒なタイプだった。


 ベルはその攻撃をいなしつつ、素早く詠唱を始める。


 単発の魔法はジンクスの前では脅威になり得ない。ならば……。



『バーニングエリア』



 火属性でもかなり高位の範囲魔法を放つ。


 即死レベルの攻撃ではないし、これより下位の魔法ではジンクスには傷一つつけることは出来ないという判断で、少し強めの魔法を放つ決断をしたのだった。



 ジンクスはベルの詠唱を受けて一旦攻撃を止め、ベルの魔法に対処しようとする。


 しかし、範囲魔法という事もありすべてを防御するのは不可能だった。



 ジンクスの体には焼きただれたような火傷の跡が見える。しかし、当の本人はそこまでのダメージを受けているようには見えない。


 普通なら致命傷ではなくても痛い素振りの一つや二つあってもおかしくはないのだが、そういう所にもジンクスの異常性が感じられる。



 ジンクスは尚も突撃を開始する。


 それを感じとったベルは、反撃の構えを取ろうとするがすぐにやめた。それはベルの「勘」であったが、結果的にその判断は正しかった。



 ジンクスの剣がベルの頬をかすめる。



「!?」



 見るからにさっきまでのジンクスの動きとは一線を画すその速度に、ベルは驚きを隠せない。


 それは、アルの付与した「俊敏力+100」をもってしても避けることが不可能な速度だった。もし、反撃の為の構えを取っていたなら今頃は……。



 ベルはそこまで考えて、すぐに思考をジンクスの動きに戻す。



 あの速度には気を付けておかなければならない。


 そう考えたベルはジンクスから少し距離を取る。すると、ようやくジンクスが声を発する。



「ケケッ! 逃げるのカ!!」



 少し聞き取りづらい口調にベルは違和感を覚えるが、今はそんなことを考える暇はない。そんな時間があるならば、どのような魔法を放つか、どうやってあのスピードに対応するかを考えるべきだろう。



 ベルは再度火の範囲魔法『バーニングエリア』を放つ。しかし、そのターゲットはジンクスではない。


 ベルは自分とジンクスの間に壁を作るように魔法を放ったのだ。



 ベルの選択は「持久戦」。


 『バーンエリア』はそこまで使い勝手のいい魔法とは言えないが、ベルのMPには、まだ余力がある状態だった。



 ジンクスの動きは異常だと言えた。


 彼の学生時代などベルは覚えていないが、それは彼の「平凡さ」を推し量るのに十分な材料だった。そして、彼の体格や周囲からの評価を聞く限り自分よりも体術には劣っていると考えていた。



 しかし、実際に戦ってみるとジンクスのスピードは想像以上のものだった。



 そこから考えられるのは、なにかしら彼の能力を高めている原因があるはずだ。


 確実に勝ちに行くならじりじりと距離を詰めて少しずつダメージを与えていくのがセオリーのはずだが、ジンクスは中距離からの突撃という「一撃」にこだわっている。



「……やっぱり、時間をかけたくないと考えるべきだな」



 ベルはそう結論付けた。


 あの突撃にこだわるのは、彼が時間をかけた攻撃をしたくないからだろう。もしかすると、何か時間制限のあるアイテムか魔法をかけているのかもしれない。それならば、時間をかけてやれば勝機は自分にあるはずだと考えたのだ。



 しかし、それは半分当たっていて、半分見当はずれだった。



 ベルが『バーニングエリア』をかけ直そうと詠唱を開始すると、舞台の外から悲鳴が上がる。


 ベルは詠唱を一旦止めて、意識をジンクスの方へ向ける。



 すると、衝撃の光景が眼前に広がる。


 ベルによって放たれた炎の中を、嬉々としてこちらへ歩いてくる一人の青年の姿。一切自分の体を守ろうとはせず、肌には無数の火傷の跡が見える。そして、なにより不気味な笑顔を顔に浮かべるその青年は、物語でしか見たことがない「悪魔」そのものだった。



 ベルは彼を見て、今までの彼の行動が全てつながった。


 そして、その結果たどり着いた答えが……。



「もしかして『魔族』か!」



 ベルの言葉にジンクスは、いや、ジンクスを依り代にした魔族は一旦その足を止め、意味ありげに微笑んだ。



「ようやく理解したカ。この体ハ依り代としては最弱の部類だガ、お前を殺スには事足りるダロウ」



 魔族は持っている剣に魔力を注ぎ込む。その剣は刀身が黒く変化し、負のエネルギーを秘めていた。おそらく、あの剣も普通ではない。



「死ネ」



 そう言うと、魔族は突撃を開始する。


 もはや、目で追う事すら困難な速度であり、ベルはその速度に反応することは出来なかった。



 しかし、その剣がベルに届くことはなかった。



「兄上!」



 ベルの前に、仲介役のガンマが立ちはだかる。そして、その攻撃はベルに届く前にガンマの肩を貫いていた。


 真っ赤に飛び散る鮮血に真っ黒な刀身。肩を貫かれても倒れずにベルの前に立ち続ける背中。



 ベルはすぐさま兄の手を引き、後方へと退いた。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にて知らせていただけるとありがたいです。また、何か感想等ございましたら、そちらも送っていただけると嬉しいです。お待ちしております。

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