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74話 決闘(1)




 翌日。


 春の心地よい気温に、上を向くと雲1つない青空が広がっている。


 まさに、決闘日和である。



「――って、そんなことはどうでもいいか」



 アルは窓から外を眺めながらそう呟く。


 本来なら、アルも決闘の会場へ行くつもりだったのだが、国王ユートリウス2世との謁見の後に、陛下が勘付くことを恐れたレオナルドによって、決闘の会場へ赴くことを禁止されてしまった。


 そのため、こうやって部屋の中にこもっているのだ。


 しかし、レオナルドは知らない。



「えっと、あれが『ゲルノス・ホークスハイム』か」



 アルは、()()()その姿を目で捉える。


 ぷっくりと膨らんだ腹に、くすんだ灰色の髪色。そして、鋭い眼光でベルの方を睨みつけるその目は、彼の容姿をより凶悪なものにしている。



『望遠スキル』



 最近、アルが身に着けたスキルの一つだ。


 ギフトほど強力なものではないが、スキルはかなり有用なものである。そして何より、誰でも努力をすることで手に入れられる。


 しかし、それは「鑑定眼」を持っていて、尚且つ「異世界の知識」を持つアルだからこその発想であり、どうやらスキルの概念はこの世界にはないようだ。



「といっても、もともと五感は良い方なんだけど……」



 体のスペックは、ある程度前世のものを引き継いでいるようで、五感だけでなく「勘」の鋭さも前世のものに引けを取らないものだった。味覚や嗅覚はともかく、視覚や聴覚、触覚という3つの感覚器官は、前世とは違って戦いがメジャーなこの世界においては、かなり重要な感覚器官と言えた。


 その点、前世では有り余っていた運動神経や頭脳は、アルにとって最大の武器たり得たのだ。



 10分ほど経過しただろうか。会場で動きが見られた。


 ジンクスとベルは、互いに鞘から剣を抜き、所定の場所に立つ。決闘の仲介人として、ガンマが完全武装の状態で舞台に控えていた。



 2人の装備は意外と軽装だった。



 ベルは魔術師という事もあり、機動性を重視してのことだと理解できる。しかし、魔法に長けていないジンクスまで、高級そうな剣を持っているだけで、杖の類は一切見受けられない。


 杖なしでも魔法を放つことは可能だが、その威力は安定せず、相当な魔法の腕がないと高い水準の魔法を打ち続けることは不可能だろう。



 もしかすると、ベルの戦術を予想しての軽装なのかもしれないが、あれでは一つの魔法を当てられるだけで決闘の勝敗が決してしまいかねない。



 それ故に、アルはジンクスの装備に疑問を抱いていたのだ。



「おっと、始まるみたいだ」



 完全武装をした騎士ガンマが舞台の中心へと歩を進める。そして、ガンマから見て右手側にジンクスが、向かい合うようにベルが対峙する。



 ベルは普段通りの表情でその場に立っている。気負うわけでもなく、それでいて自分の勝利を確信している。そんな表情だった。


 対して、ジンクスは君の悪い笑顔を顔に貼り付け、こちらも負けるなど毛頭考えていない様子。



 アルはその笑顔に嫌な予感がした。


 そして、その予感は『鑑定眼』で彼を見ることで確信へと変わる。



「――これは、流石にやばいかも」



 アルはそう呟いて、部屋から消え去った。









 両者が対峙し、今にも決闘は始まろうしている。


 仲介役のガンマの開始の指示があれば、今すぐに決闘は開始できる。



 ガンマは両者の表情を伺う。


 ベルは思っていたより普段通りの表情でこの場を迎えられている。どちらかの肩を持つことはできない身だが、そのことにガンマはホッとしていた。



 対して、ジンクスは……。



 ガンマは、彼の表情を見て顔を強張らせる。


 元々醜悪なその外見に、気味の悪い笑顔は彼の印象をより悪いものにしていた。そして、何よりその気味悪さに悪寒すら感じられる。



 ガンマは何とか気を取り直す。



「両者、準備はいいか?」



 形式的ではあるが、ガンマは両者に決闘開始の確認を取る。


 ベルは小さく頷いて応えるが、ジンクスはその気味悪い笑顔のままだった。



「それでは、開始!!」



 ガンマの開始の合図を皮切りに、集まった観客たちの大歓声が巻き起こる。


 まず、先手を取ったのはベルだった。



『ファイアボール』



 詠唱と共にベルの右手に火球が作り出される。そして、直径50cmほどの火球をジンクス目掛けて投げつけた。


 大怪我をするレベルの魔法ではなく、ベルはあえて初歩的な魔法を行使した。それが、ジンクスを試す意図がある事は誰の目から見ても明確だった。


 しかし、次に起こしたジンクスの行動は観客を含めた全員が目を疑うものだった。



 ベルの放った魔法はジンクスの前まで突き進んで霧散する。


 いや、ジンクスの持つ剣によって切り落とされたのだった。


 ジンクスは、魔法を切った勢いのままベルの下へ突撃する。



「!?」



 ベルはジンクスの速度に驚く。


 これまで、父レオナルドや兄であるガンマなどと組み手をした事は何度もある。



 ジンクスの速度は、それに勝るとも劣らなかったのだ。



 しかし、その突撃をベルは何とかいなして見せる。


 ひとえに、アルによって付与された「俊敏性+100」のおかげだろう。



 ベルが攻撃を回避できたことで、膠着状態に突入する。


 ベルの魔法もジンクスの速度も、現状決め手には欠けている。



 そして、睨み合いが始まったのだった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にて知らせていただけるとありがたいです。また、何か感想等ございましたら、そちらも送っていただけると嬉しいです。お待ちしております。

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