72話 国王と能力
「アル、悪かった……」
帰りの馬車の中で、ベルはアルに対して謝罪をする。
まさか、ベルが謝罪してくるとは思っていなかったので、アルは少し驚いた。
「今日お前が呼び出されたのは、俺が変なことを口走ったせいだ。お前に負担をかけたくはなかったんだが」
「気にしなくていいですよ」
アルが王命によって王城へ呼び出されたことが自分の責任だと感じているベルに、アルはそんな言葉をかける。
正直言って、ベルの責任ではない。
「いや、今回は私の責任だ。おそらく、陛下は此度の件でアルを疑っていたみたいだ。その疑問を解消させられなかった私に責任がある」
確かに、謁見の間ずっと国王ユートリウス2世はアルの言動の一挙手一投足に目を光らせていた。そして、極めつけに「ステータスの開示」まで出してきた。
「それにしても、アル、陛下の『能力』について知っていたのかい?」
レオナルドはさっきまでの重苦しい雰囲気を崩し、そんなことを聞いてくる。
しかし、どう答えるべきか。
「私が以前伝えていたものですから」
静かに皆の会話を聞いていたガンマが助け舟を出す。
「そうか。うん、よくやった。あの場でステータスを開示すると問題になる所だった」
何故、レオナルドがここまで「ステータスの開示」について恐れているのか。それは、ユートリウス2世の「特殊能力」いわゆる「ギフト」による影響の為だ。
アルは、謁見の間で国王の顔を見た時、即座に「鑑定眼」を使用した。
そして、国王の持つ「ギフト」の詳細を目にしたのだ。
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ギフト:玉座の神託(玉座にて相手のステータスを確認すれば、その相手について一つだけ何でも知ることが出来る。ただし、一日に一度のみ。)
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強力なギフトである。
しかし、その発生状況は非常に限定的なものであり、効率も良くない。
例えば、グランセル公爵家の使用人であるクラン。
彼のギフトも上手に使用すれば国王と同等の成果を生むことが出来る。そして、それは状況によって限定されないのだ。
ただ、クランの場合は相手の「言葉」の「真偽」が分かるだけで、「嘘の事実」であってもその人物がそれを真実だと思い込んでいる場合は、その能力を発揮することは出来ない。
その点、ユートリウス2世のギフトは決定的な証拠を得られるという点において、かなり強力だと言える。
「あの場で決闘の事や資料の事を問われていれば、全て見透かされるところだからね」
レオナルドはほっとした様子で胸をなでおろしている。
「陛下の能力って何度も効力を発揮するものなのですか?」
アルはレオナルドの言葉に引っかかりを覚えていた。
アルが「鑑定眼」で見た能力だと、「一日に一度だけ」という縛りがあったはず。それなのに、レオナルドはいくつもの事実が浮き彫りになると考えているようだった。
「そのように聞いているよ」
なるほど。どうやら、本当に食えない人物のようだ。
アルは国王陛下の顔を思い浮かべながら、あの不敵な笑みの真相を探り始める。
「陛下、何やら嬉しそうに見えますが」
謁見が終わった後、国王ユートリウス2世は謁見の場からすぐに立ち去り、執務室で今回の決闘に関する資料を眺めていた。
執務室でその補佐をしていた宰相は、ユートリウス2世の顔色を伺いながらそんな感想を述べる。
「そのように見えるか?」
ユートリウス2世は自分の顔に手をやりながら、宰相へ逆にそう聞き返す。
本人は気づいていたかったが、いつもより口角が少し上がっていた。
「えぇ。……あの少年についてでしょうか」
宰相は国王陛下の言葉を肯定しつつ、自分の予想を述べる。謁見の後、すぐに執務室で資料を眺めているところから、国王陛下の機嫌が良いのはアルフォート・グランセルとの謁見に関係していると結論付けた。
国王はさらに口角を上げる。
「そちはあの少年についてどう感じた?」
国王ユートリウス2世は宰相にアルへの感想を求める。
宰相は謁見の間でのやり取りを振り返りつつ、アルへ抱いた感想を述べ始めた。
「賢いとは思いました。礼儀作法も完璧でしたし、グランセル公爵の教育の賜物でしょう」
実際は独自で本を読んで礼儀作法を学んだアルだったが、その礼儀作法は完璧であった。
礼のタイミングや言葉遣い、会話の受け答えなど、いくら大貴族の子息とはいえ11歳の少年の謁見なら、ミスの1つや2つ犯してしまうことはよくあることだった。
「それに状況判断能力にも長けているかと。陛下の能力を予め聞いていたからこその行動でしょうが、あの一瞬で判断できたことは評価に値します」
おそらく、陛下の「看破」の特殊能力を事前にグランセル公爵から聞き及んでいたのだろう。しかし、それを踏まえても、あの一瞬で判断し「ステータス開示」を行えない「正式な理由」を考えつくとは、状況判断の能力が高いとわかる。
「なるほど」
ユートリウス2世は静かに宰相の評価に耳を傾けていた。
そして、宰相の評価を聞き終え一瞬何か考えてからそんな一言だけを返す。
「陛下にはどのように映りましたか?」
宰相は国王陛下のアルへの評価が気になっていた。
常に物事の数手先まで読んで行動するような国王陛下の事だ。今回のこの謁見も何かしら意味があったことは容易に想像できる。
「『神童』なのは間違いない。だが、わしにはそれ以上に何かあるように感じる」
宰相は陛下の視線の先にある、資料へ視線を向ける。
「その資料に何か関係が?」
ユートリウス2世は目を細めて資料を見つめる。
「さて、あるかもしれんし、ないかもしれんの」
今日の謁見で決定的な証拠を得ることは出来なかった。
しかし、あの賢さは底が知れない。今回の件に、あの少年が陰で暗躍しているとしても、何ら驚かない。
何もないと良いのだが。
国王陛下は、窓から外を眺める。
そこからは活気のある城下が一望できる。ユートリウス2世は、希望に満ち溢れたこの街の平和が、永遠に続くことを夢見つつ、心のどこかで大きな不安を抱えているのであった。
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