71話 国王と謁見
「なるほど、そこから僕を呼ぶ王命が出されたわけですね」
「……まぁ」
アルはガンマの説明を受け、どうしてこのような状況になったのか理解する。そして、それと同時に少し胸を撫でおろす。
しかし、レオナルドは未だ心配している様子だった。
「本当にそれだけで陛下が王命を出すだろうか……」
レオナルドはそうガンマに尋ねる。
確かに、いくら寵愛しているとはいえ、娘のお願いの為に「王命」を出してまでアルを呼び出すのはいささかやりすぎのように感じる。
王都にアルが宿泊している以上、今日すぐに呼び出さなくても良いはずだ。
ガンマとベルは明後日の決闘の為に、明日は外出しないようにする手はずになっているが、無関係のアルなら時間を置いて明日にでも呼び出せばよいのだ。
しかし、国王ユートリウス2世はそうはしなかった。
つまり、何か企てているのではないかというのがレオナルドの考えだった。
そして、その目論見の方向はアルではなく……。
「ガンマ、ベル。お前たちは謁見の場には不参加だ」
レオナルドはガンマたちにそう伝える。
ガンマはレオナルドの言わんとする意図が分かったようで、軽くうなずいて返事をしたが、ベルはその意図を汲み切ることは出来ていない様子だった。
しかし、当主であるレオナルドの決定には逆らうことは出来ず、しぶしぶではあるが了承する。
「――よし、では行こうか」
レオナルドを先頭に、アルたちは王城の中へと進んでいった。
「――どういう事だ?」
珍しくレオナルドが文官らしき人物に詰め寄る。
文官もまさかグランセル公爵がこのように詰め寄ってくるとは思っていなかったらしく、戸惑いの色が見える。
「それが、陛下がアルフォート殿だけお通しするようにと『王命』を出しまして。他の方は謁見の間にお通しすることが出来ないのです」
また「王命」だ。
レオナルドは眉間に深いしわを作る。
「それはアルの父であり、グランセル公爵家当主である私であっても、という事か?」
レオナルドから強い威圧感があふれる。
それは、文官の青年も息をすることを忘れるほどの威圧感だった。
――さすがにまずいかな。
そう感じ取ったアルは、レオナルドに向かって発言する。
「父上、『要らぬ事は言わぬ』『約束は守る』これでよいですか?」
アルはレオナルドの目を強く見つめてそう発する。レオナルドもアルの言葉に我に返った様子で、文官の青年に謝罪する。
「アルもすまなかったね。……陛下は非常に頭が回る方だ。お前なら大丈夫だとは思うが、決して『粗相』があってはいけないよ」
レオナルドはあえて「粗相」という言葉を使う。
普通、「粗相」とは不注意によって過ちを犯すことを言う。つまり、この状況でレオナルドの言葉を踏まえたの「粗相」は、国王陛下の言霊につられて「約束した内容」を勘付かれないように、との事だろう。
「分かっています。実際、私は何もしておりません。全て周りの方が行ったことで、それが偶然私の周囲の人物だっただけですから」
アルはレオナルドの言葉にそう答える。
レオナルドは未だ不安はあるものの、アルのその言葉を受けて、多少の安心感を抱くことができた。
「そうだ。では行ってきなさい」
「はい!」
アルは元気よく返事をし、文官の青年の後を追う。
「先ほどはありがとうございます」
文官の青年が小さな声でアルに礼を言う。
あの威圧感に気おされていたのに、アルが気を遣って発言したことには気が付いていたようだ。
「いえ、私は慣れておりますので」
実際はレオナルドのあんな姿は見たことがない。しかし、こう言っておけば角は立たないだろう。
――そして、今に至る。
「面を上げよ」
「はい」
アルは言われた通りに顔を上げた。
そこには立派な白髭をたずさえた国王陛下・ユートリウス2世の姿がある。いかにも高級そうな金色と赤色をベースにした衣装に身を包んだ国王は、鋭い目つきでアルの事を観察している。
「アルフォート・グランセル、国王陛下にご挨拶申し上げます」
アルフォートは、本で学習した通りに国王へ挨拶する。
謁見といってもそこまで公式なものというわけではなく、臣下たちは控えていない。国王と第三王女・ラウラ殿下のそばに「宰相」が控えているくらいだ。
また、アルが入ってきた大扉も開いており、そこからは不安そうに見つめるレオナルドたちの様子すらうかがえる。
「そこまで畏まる必要はない。一応対外的には謁見という形ではあるが、あくまで娘の頼みを聞いた『私的』なものゆえ」
国王はあくまで「娘の頼み」を聞いただけの「私的」なものである事を強調する。
しかし、それにしてはおかしな点が多いのも確か。
「お心遣い感謝いたします」
アルは態度を崩すことなく厳格に振舞う。
「あなたがアルフォート君ね。私はアイザック王国第三王女、ラウラよ」
満面の笑みでラウラはアルに挨拶をする。その笑みからは邪気は一切感じられず、まさに心洗われるような錯覚すら相手に覚えさせるものだった。
「ラウラ殿下。お初にお目にかかります」
「ふふっ。そんな固い挨拶はよして。いつか貴方の義姉になる予定なのだから」
ラウラはベルの決闘の内容を知って尚、このような発言をためらいなく発した。ベルが決闘に負けるなど、少しも思っていないようだ。
「そうですね。ベル兄様が決闘に勝利し、婚約を確かなものにした暁には、その様に呼ばせていただきます。しかし、今は陛下の御前ゆえ」
アルはあくまで決闘にてベルとの婚約の継続が決定されるという「建前」を前面に押し出して、そう答える。
「そうでしたわね。ごめんなさい、今の話はまた今度」
アルの発言の意図を汲んでか、すぐに発言を撤回する。
――ただの天然ではないみたいだね。
アルはラウラの言動を見て、そんな感想を抱く。しかし、今はラウラより陛下だ。
「ふむ、挨拶は済んだようだ。して、伝え聞いた話によると『神童』の称号を持っているとか?」
アルとラウラの話が一段落したとみた国王陛下は、アルに対してそのような質問を投げかける。
「はい、確かに」
アルはその質問に対して、端的に「是」の答えを返す。
「それはまことに素晴らしいものだ。一度この目でそなたのステータスを見てみたいのぉ」
アルは国王のこの言葉に、反応する。
さて、どのように返すべきか。
ほんの一瞬の時間で、アルは頭をフル回転させて「最善手」を導き出す。
「……謁見にて『ステータスの開示』はご法度と聞き及んでおります。それは勇者ユリウス様の御代からの伝統ではありませんか」
実際にそのような伝統は存在する。
しかし、国王陛下はあくまで「私的」なものだと明言している。そのため、厳格にその伝統を守る必要もないように感じる。
ただ、対外的な問題もある。
大扉が開いており、外にはグランセル公爵現当主の姿が見える。そんな公爵の前で、その息子のステータスを開示させるなど、公爵家への不信ともとらえかねない。
それ故に、この場でアルのステータスを確認することは不可能なのだ。
「……ふむ、確かにそなたの言う通りだ」
アルの回答に一瞬目を細めた国王陛下であったが、すぐにアルの言葉が正しいと認める。
本人の了承が得られれば何の問題もないのだろう。しかし、本人が望まないものであれば問題が生じる。
流石は百戦錬磨の国王陛下。父上の言うように、素晴らしく頭がキレるようだ。
「もう下がってよいぞ」
おそらく、国王陛下の目的はアルのステータスを確認することだったのだろう。
それが不可能と見るや、すぐに退出を許可した。
「はい。それでは失礼します」
アルは言われた通りその場を後にする。
残った国王・ユートリウス2世はその後ろ姿を食い入るように見つめ続ける。そして不敵な笑みを浮かべるのであった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にて知らせていただけるとありがたいです。また、何か感想等ございましたら、こちらも送っていただけると嬉しいです。お待ちしております。




