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67話 狂気と暗闇





 思いがけず自分の気持ちを確認する事となったアルだったが、未だに次の一歩を踏み出すことは出来ないでいた。



「……嫁いでほしくはないけど、自分は結婚しないとか」



 自分で言っておきながらなんて我儘な事かと思える。


 アリアはその言葉に嬉しそうな反応を見せてはいたが、アルにとっては自分の発言を正当化することは出来なかった。



「ベル兄様、ビクトル男爵、アリアさん……。やるべきことが増えちゃったな」



 アルはこの王都滞在中に解決しなくてはならない問題をいくつも抱え、それらすべてへの解決策を必死に考え続けるのだった。









 その頃、王都にあるホークスハイム侯爵の屋敷では当主の怒号が鳴り響いていた。



「――ジンクス! 貴様、自分が何をやったのか分かっているのか!!」



 その怒りの方向は今回の一件の元凶となったジンクスに向けられていた。しかし、当の本人は自分の過ちに一切後悔の念はないようで、反対に父親へ冷たい目線を浴びせながら不気味に微笑んでいた。



「勝てばいいのですよ。そうすれば父上は第3王女の義理の父となり、俺はあのお方を手に入れられる」



 ホークスハイム侯爵は息子の豹変ぶりに驚く。



 彼は父親から何の期待も受けずに育てられ、我儘な性格に成長していた。しかし、父親にはそれなりの敬意を示すくらいの教養は持っていたし、粗略な言葉遣いをするような子ではなかった。


 しかし、自分の事を「俺」と呼び、客観的に実力に差があるベルに対して「勝てばいい」と自信満々に豪語する。



 そんな息子の豹変ぶりに一瞬言葉を失った侯爵だったが、息子の自信満々な表情を受けて抱いた質問を投げかける。



「――お前に勝機がある、と?」


「勿論。あんな奴に俺が負けるわけがありません」



 ホークスハイム侯爵は、正直言ってジンクスに勝機があると思っていなかった。


 相手は宮廷魔術師に任命されるほどの魔法の実力者。反対に、ジンクスは魔法に関しても武術に関しても全く適性がなく、惰性な生活を続けたことによって体には脂肪がまとわりつき、誰が見ても勝算があるとは思えない。


 しかし、ジンクスはそうは思っていなかった。



 彼の過ちを挙げ出すとキリがない。



 まずは父親である侯爵に無断でグランセル公爵領へ赴いたこと。このタイミングであえてあの地へ赴くのは周囲に様々な憶測を生み出すことは必至。明らかな悪手だった。



 そして、ベルに決闘を申し込んだこと。


 それも、王女の婚約者の立場をかけての決闘だ。決闘を申し込むという事は、互いに条件を出し合うことになる。王女の婚約者としての立場に相応するものとなるとそう多くはない。


 そして、グランセル公爵側が突きつけた条件がジンクスの廃嫡だった。


 王女の婚約者という立場をかけるのなら相応の条件だった。それ以上のカードをジンクスは持ち合わせていないのだから。



 そして、その条件でジンクスは了承してしまった。



 侯爵は王都でその事を知った。決闘に勝っても第3王女を得られるとは限らず、負ければ息子の廃嫡。ようやくまとまろうかとしていた第5王女との婚約話もすべて白紙になってしまう。



 その事に侯爵は激怒していたのだ。しかし、ここにきて考えが変化する。



――もし勝機があるのならば……。



 確かに第3王女は得られないかもしれない。しかし、決闘によって第3王女の婚約話を一時消滅させることは出来る。そしてそのことはグランセル公爵家には大きなダメージだ。



 そして何より、ジンクスの評価を上げることが出来るのではないかと侯爵は考えた。方法は少し間違えていたかもしれないが、愛するものを()()ために自らの危険を顧みない。



 これは究極の自己犠牲であり、市民から大きな支持を得られるのではないか。



「……分かった。もしお前が勝てたなら今回の件は不問にしよう。しかし、もし負けることがあれば――」



 侯爵はその後に続くであろう言葉をあえて飲み込む。



「ええ。私の命でも何でも差し上げますよ」



 ジンクスはふてぶてしく片手を上げながら応える。その目には自分の負けなど一切映っていない様子で、これから自分に訪れるであろう「幸せ」だけが見えていた。











「――という事です」



 1人の男性が、真っ暗な部屋で子飼いの暗殺者から情報を受け取る。



「……やはり、()()を持っていったか。下がっていいぞ」



 男の指示を受けて、子飼いの暗殺者は音もなく部屋から消え去る。そして、そこにはあたかも最初から誰もいなかったかのように冷たい空気が残るだけだった。



「――さて、忌まわしき『グランセル』はこの窮地をどう打破する」



 フードから覗く男の口元は不気味に吊り上がり、これから訪れるであろう「災厄」を待ち望んでいるのだった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


「誤字報告」まことにありがとうございます。一応意識しながら書いてはいるのですが、一向に減らない誤字脱字……。これからはより一層意識しながら書いていきますが、誤字脱字を発見されましたら「誤字報告」していただけると助かります。


今回で一応第2章から第3章に区切りたいと思います。第3章は「決闘編」ですのでそこまで長くはならないかもしれませんが、これ以上第2章を引き伸ばすとこんがらがりそうなので。


一応第2章での登場人物についてまとめたものも投稿する予定です。ですから、次話につきましては息抜き程度に見てほしいです。

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