65話 ギフトとお揃い
朝食の席に、レオナルドはいなかった。
ベルの決闘に関してだけでなく、アルが調べさせた資料を王家に提出したことでホークスハイム侯爵の策略についての裏取りや王家への事情説明など、かなりハードな生活を送っているらしく、家に帰ってくる時間さえ取れないようだ。
その話を聞いてレオナルドには少し悪いと思ったアルだったが、自分が関われる問題でもないので陰ながら応援することにした。
「アル、例の件で話がある」
食事が終わるころ、ベルからその様に声をかけられる。
――例の件。
アルはベルの言葉に一つの心当たりがあった。
アルが部屋に戻って大体30分から一時間が経過しただろうか。アルの部屋の扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
アルは扉の向こうにいるであろう兄に、部屋にはいる許可を出す。
「――悪いな、お前に確認したいことがある」
部屋に入ってきたベルは早々に本題に入った。そして、先日アルが渡した紙をアルの前に出す。
「何が聞きたいかは大体わかっています。『魔眼』について、ですね?」
「……あぁ」
アルの予想通り、ベルが気になっていたのは彼のギフト欄にある『魔眼』についてだった。
しかし、どう説明していいものか……。
「『魔眼』は周囲の魔力を視認することが出来るというギフトです。」
「……魔力を視認する?」
アルの答えにベルは眉間にしわを作る。
魔力を視認することは実質的には不可能だ。
例えば、魔力を変換して「魔法」として発動すれば、間接的に魔力を視認することは出来る。しかし、実際には魔法という現象を視認しているだけであり、それは直接的に魔力を視認しているとは言えない。
つまり、魔法の源である魔力は「感覚」として感じることは出来ても「視覚」として捉えることは不可能なのだ。
ただ、『魔眼』は違う。
「ベル兄様、以前僕が『魔力の増加術以外で魔力を増やせるか』と尋ねたことを覚えていますか?」
それはベルがまだ学生だった時の事だ。
「魔力の増加術」という魔力を体内で循環させることで魔力を通す管の活動を活発化させ魔力量を増やす方法以外で、魔力量を増やすことは出来ないかと尋ねたことがあった。
その事はベルも覚えている。
しかし、その事が今の話にどう関係するのか全く理解が出来なかった。
「普通、魔力はお腹の下腹部あたりで生成され、それを循環させて魔法を発動させる腕へと移動させます」
「そうだ。それでようやく魔法が発動できる」
これは一般常識だ。
魔力量がいくら多くても、その魔力を上手に循環させられなければ魔法を発動させることは出来ない。
「……では、その魔力を腕以外に集めたことはありますか?」
「いや、それは――」
――ない。
というよりも、魔力の管が体中を循環しているとはいえ、それは視認することは出来ないしコントロールすることも叶わない。そのために詠唱を行ってその道筋を腕に向かわせているのだ。
「では、魔力を『目』に集めてください」
ベルはアルの言葉通り、魔力を下腹部で生成し循環させる。
「……まずは目を閉じて魔力を強くイメージしてください」
ベルは見たこともない「魔力」をイメージする。
管を通るくらいだから血液のようなものだろう。色は無色かな。熱量は体温と同じくらいか……。
そのイメージがあっているかは分からないが、どんどんイメージを膨らませていく。
「次に管を体中に張り巡らせるように魔力を広げていってください」
ベルは魔力を通す管を体中に広げていくようにイメージしながら魔力の循環を行う。すると、魔力の管がどんどんと細分化され、体の隅々にまでそれが通っていく感覚を覚える。
「――はい!目を開けてください」
アルの指示通りベルは目を開ける。
「なんだ、これは!?」
ベルは目の前の光景に目を疑う。
今まで見えていた光景とは全く異なる景色が目の前に広がっていたからだ。
「――どうです? 僕の体内の魔力が視認できましたか?」
「……あぁ、それにしても少し気持ちが悪いな」
ベルはアルの魔力の流れを見てそんな感想を持った。しかし、それは当たり前だ。
「では、もう一度目を閉じて。次はその魔力の流れ、目への管をせき止めるようなイメージをしてください」
ベルはアルの指示通り目を閉じて、さっきまでとは逆にその管をせき止めるようなイメージをする。血流で言うと弁を作り出すようなイメージだ。
アルはベルの魔力の流れを「見て」、その流れがせき止められたところで声をかける。
「目を開けてみてください」
ベルは指示通り目を開ける。するとさっきまで見えていた魔力の流れは一切見えなくなり、ついさっきまで見ていた景色に戻る。
「これが『魔眼』か……」
ベルは自分の目に手をやる。この他の人とは違う青い目が魔力を視認することが出来る『魔眼』だったとは夢にも思わなかった。
「僕の予想では、青い目は魔力を通す効果があるみたいですね。おそらく、その結果『魔眼』というギフトとなるんじゃないかと思います」
ベルはアルの言葉に少し引っかかる。
青い目を持つのは自分だけではない。目の前の弟の目を見る。
「僕も『魔眼』のギフトを持ってます。ベル兄様と『おそろい』ですね!」
アルはにっこり笑ってそういう。
ベルは、あんなにも憎かったこの「青い目」が急に価値あるものに感じられたのだった。
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