64話 才能と発見
家に帰り着いたアルは何事もなかったように朝食の為に食堂へと足を運んでいた。
あの後、ビクトル男爵家を出たのが大体6時くらい。屋敷に帰り着いた時には使用人たちが働き始めていたので、屋敷を散歩している風に見せかけて部屋に戻った。
誰も不審には思っていなかったようで、止められることはなかった。
食堂に辿り着くと、まだ時間的に早かったこともあり使用人たちがあくせくと食事の準備をしているところだった。
アルが入って来たのに気が付いた使用人たちは準備が遅いと叱られると思ったのか、アルの近くまでやってくる。しかし、時間よりも早く来たのはアルの方なので叱るつもりなど毛頭ないと説明し、準備を進めるように促す。
貴族というのは準備が遅いという理由だけで叱りつけるものなのだろうか。
せっかくやって来たのにまた部屋に戻るのも面倒なので、アルは使用人たちの仕事をぼーっと眺めていた。
公爵家という最上級の貴族家の使用人という事もあり手際がかなり良い。それに、仕事しているところを見られているのに特に緊張している様子もなく自然体で働けているところに上品ささえ感じられる。
アルは興味がわき、使用人たちのステータスを鑑定していく。
やはり思った通りスキル欄に「給仕」や「奉仕」、「雑務」などの使用人に必須なスキルがかなり高いレベルで生えている。彼らが使用人として真面目に仕事をこなしているという証だ。
一人一人鑑定していくと、一人の女性に目が留まる。
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シャナ(25)
種族:人間
称号:メイド
HP:1,000/1,000
MP:3,000/3,000
魔法適性:光
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レベル:2(知+10,俊+30,他+15)
筋力:115
防御力:115
知力:110
俊敏力:130
スキル:奉仕(2) 給仕(3) 雑務(2)
ギフト:従順 スキル上昇(中)
加護:なし
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赤い派手な色の髪色をしているものの、容姿はどちらかというと平凡。しかし、周りと比べると「ステータス」の上昇値が高い傾向にある。
そして何より2つのギフトを持っている。
しかし、アルの目が留まったのはその数ではなく内容の方だった。
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ギフト:従順(忠誠度が上がりやすく野心を持ちにくい)
スキル上昇(中)(スキルの成長速度が中アップ)
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『従順』というギフトの内容に「忠誠度」や「野心」というアルの『鑑定眼』では測れない項目が書かれていた。
アルはシャナというメイドを呼ぶ。
彼女はまさか自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、不安そうな表情でアルの元へやって来た。
「……私、何か不手際がありましたか?」
シャナはアルにそう尋ねる。
アルが使用人たちの仕事ぶりを観察していたことは彼女も気が付いていたので、いつもよりも気を付けて働いていたのだが、こうして呼ばれると何か悪いことをしてしまったのではないかと不安になる。
「いえ、貴女の仕事ぶりがとても丁寧で素早かったのでお話を聞きたいと思っただけです。仕事については何のミスもありません」
「そうですか。良かったです……」
アルの言葉に心の底から安心したシャナはその気持ちが表情にまで現れていた。アルとしては少し話をするくらいのつもりで声をかけたのだが、どうしても主従の関係があるとここら辺を気を付けないといけない。
「今は主にどのような仕事を任されていますか?」
アルはシャナにいつもどのような仕事をしているのかと尋ねる。シャナはいつもの仕事モードの顔に切り替え、仕事内容をアルにつたえる。
「普段は食事の給仕と皿洗いなどの雑務がメインです。たまに奥様のお着替えを手伝ったりはしますが」
「なるほど」
すこし勿体ないとアルは感じる。
ギフトを見る限り、『従順』は使用人としてはかなり信頼に足るものであるし、『スキル上昇(中)』はガンマの息子であるロンと訓練を一緒にしていたアルにはその効果が非常に高いことを知っている。
出来ればもっと重要なポストで仕事をしてほしい。
「今の仕事内容に対してどう思っていますか?」
「ここは待遇も良いですし、お給金も他より多く頂いております。不満なんてあるわけがありませんよ」
アルの質問にシャナはそう答える。
本人が今の仕事内容に満足しているならば無理やり仕事内容を変えることは彼女にとってもグランセル公爵家にとっても良くない。
「そうですか……」
彼女の才能は惜しいが、本人が望まないなら無理強いは出来ない。
アルがそこで話を終えようとするが、彼女はその後に言葉を続ける。
「……ただ今よりもっとお仕事を頑張って、お役に立ちたいと思っています!」
シャナはそう宣言する。
その顔には活気が満ち溢れていて、アルもつられて笑顔になる。
「分かりました。お仕事頑張ってくださいね!」
「はい!!」
シャナはアルの激励に大きな返事をして仕事に戻っていく。
シャナさんやクランさんの様に埋もれている才能は思っていたより多いのかもしれない……。
アルは自分の持つ『鑑定眼』というギフトの仕様について、今一度考えなおすことにしたのだった。
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