60.5話 ユリウス冒険譚(6)剣聖編
※『ユリウス冒険譚』の続編になります。
本編には大きな影響はございませんので、興味のない方は読み飛ばしていただいても構いません。
南の地で「剣聖」が誕生しました。
大陸中央の大国が魔族によって滅ぼされ、その後すぐに魔族の侵攻を受けることになった南の地は、西の地に次いで2番目に大きな被害を受けていました。
ですから、大陸の南に住んでいた人々は安住の地を求めて海を渡って小さな島々に避難したのです。
南の地は比較的温暖な地域が多く、「自由」を求める風潮が強くありました。しかし、魔族によって故郷を奪われた彼らは徐々に「自由」を追い求める風潮から、何よりも「強さ」を求めるようになりました。
しかし、そう簡単に魔族に対抗し得る強者が現れるわけがありません。
彼らは島々に散り散りになった国民たちを統一し、新たに「ライシア連合王国」という国を作りました。
島々に逃げたこともあり魔族の手が伸びづらかったのもありますが、彼らの団結力があってこそ成し遂げられた事です。
しかし、彼らはそれだけでは満足しませんでした。
毎年のように「武術大会」を開催し、優勝者は「連合王国騎士団」として取り立てることにしました。そして、「魔族」を打ち滅ぼすという目的のために「力」を求めたのです。
建国して何年目の事だったでしょうか。
連合王国は、彼らを率いて大陸への侵攻を決意します。
連合王国最強の騎士団を率いての進軍に、国民たちは大きな期待を彼らに寄せます。そして、彼らも自分たちに誇りを持っており、国民たちの期待に応えるべく進んで戦地へと向かいました。
大きな船に数人の選ばれた騎士と彼らをサポートする者たちが乗り込んでいきます。
国民たちは胸を張って帰ってくる姿を夢見ながら、彼らを見送ったのです。
しかし大陸に辿り着いた彼らは、故郷を見て驚きました。
あれほど栄えていた国は見る影もなく、豊かな大地は荒廃しきって真っ暗で何もない地がそこに広がっていたからです。
彼らがこの地を「捨てた」のは10年以上前の話。ある程度廃れた街並みが広がっていることは想像に難くありませんでした。
しかし、目の前に広がる光景を素直に受け入れられる者たちは一人もおらず、みな自然と涙を流していました。
これは、彼らの進軍から5年後に戻ってきた騎士の話です。
勝利を確信していた国民は、彼らの敗戦に絶望を覚えました。
そして、帰ってきた騎士たちの語る「故郷」の現状。それが彼らに今以上に暗い未来を連想させます。
あんなに魔族の討伐に沸き立っていた国の熱気は一瞬で消え失せ、代わりに押し付けられた「現実」に打ち勝てる者などいませんでした。
しかし、ある少年によってその熱は再び燃え上がりました。
彼は、特徴的な褐色の肌で真っ黒な瞳と髪という南の地独特の外見をしていました。
同年代の者たちと比べると、小さく非力な部類に入る彼でしたが、いざ剣を持たせると誰も彼を止めることが出来ませんでした。
その常識外れの才能をもつ彼を、周囲は「剣聖」と呼びました。
国中が新たな救世主の誕生に沸き立ち、国王はまた「武術大会」の開催を宣言しました。
その目的は以前と同じ「魔族の討伐」。
その悲願を達成するために、国王は出来得る限りの支援をし続けます。
少年が剣聖と呼ばれだしてから、約5年の月日が経ちました。
国王は宣言しました。
「我が連合王国は魔族を駆逐するまで止まることはない! 故郷を取り戻すまで戦い、故郷を奪い取った邪悪な存在、魔族を許さない!」
前回の悪夢を取り除くかのような強気な宣言に、国民たちは奮い立ちます。
今度こそは故郷を取り戻すのだ、と。
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