59話 補佐役と少年
アルはクランの言葉に対して首を縦に振った。
アルは、初めてクランと会った時に『鑑定眼』を使って彼のステータスを確認していた。
基本的には興味を持った相手か必ずステータスを確認する必要がある相手でなければ『鑑定眼』を無暗に使わないようにしていた。
例えば、アリアの姉であるマリーのステータスは一切確認していない。彼女のステータスを確認する必要がなかったからだ。
そんな中、クランはさっきの考えの前者に当てはまる。
クランに会う前から、アルは彼の事を知っていた。
書庫に足を運ぶことが多いアルは、クランが作成した資料に目を通すことが多々あった。その資料を見たアルは、彼の持つ地頭の良さだけでなく他にも何かあるのではないかと勘繰っていたのだ。
そして、いざ会って彼のステータスを鑑定すると、そのステータスに驚いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クラン(24)
種族:人間
称号:使用人
HP:3,500/3,500
MP:1,500/1,500
魔法適性:光、闇
―――――――――――――――――――
レベル:6(知+30,他+10/毎)
攻撃力:150
防御力:150
知力:250
俊敏力:150
スキル:片手剣(1) 礼節(2) 事務(3) 調査(1)
ギフト:真偽の裁決 無尽蔵
加護:なし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2属性に適性があるのは勿論、何より珍しいのは彼が2つの「ギフト」を有していることだ。
アルは、彼の持つ「ギフト」を『鑑定眼』を使ってより詳細に見てみる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ギフト:真偽の裁決(相手の発言の真偽が分かる)
無尽蔵(疲れを感じにくく、回復力に長ける)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ただでさえ2つのギフト持ちという事で珍しいのに、彼の持つギフトはかなり希少性が高かった。
『無尽蔵』というギフトも、使用人として働かせるのに非常に適したギフトといえるが、使い方次第でもっと活躍できるのではないかとアルは思った。
そして、何より彼の持つ『真偽の裁決』はチート級のギフトといえる。
「相手の発言の真偽が分かる」というのがどれほどの効果を持ち、どこまで詳細に分かる物なのかは本人しか知らないことだが、彼の希少性が高いのは確実だった。
アルは、クランを補佐役として取り立ててみてはどうかとレオナルドに進言する。
レオナルドはアルに「どうして彼を推薦するのか」と尋ねてきたが、アルは「勘です!」と答えた。
アルが5年も前から自分の「秘密」を知っていたことに、クランは表情を曇らせる。
これまで、クランはこの「秘密」によって気味悪がられてきた。しかし、この屋敷では自分の能力を買って補佐役として取り立ててもらえた。その事に対して、クランは自分自身を認めてもらえているのだと嬉しく思っていたのだ。
しかし、アルは「秘密」を知っていた。知っていて彼はあのように振舞ってきたのだ。
「――私が気味悪くないのですか?」
クランはそうアルに尋ねる。
本当はこんなこと聞きたくはない。もしアルから「君が悪い」と言われたら、おそらくもう立ち直ることは出来ないだろう。
しかし、このことを聞かずにはいられなかったのだ。
「――え、なんで気味が悪いのですか?」
アルはクランの言葉にそんな答えを返した。その言葉はクランを笑顔にする。
『真』
クランのギフト『真偽の裁決』が彼にそう伝える。
クランは涙を流した。
アルの言葉を聞いて、初めて自分を本当に理解し受け入れてもらえたように思えたからだ。そして、その言葉が真実だとわかったのは、今まで自分でさえ忌み嫌ってきたこの「特異体質」があってこそだったのだ。
「――えぇ!? なんで泣くのですか!」
アルは目の前で泣き出したクランに驚きを隠せなかった。今まで弱気な部分を見せることはほとんどなかったし、強い彼しか見てこなかった。そんな彼が、子供の様に泣き出したのだ。
「何か悪い事でもしました? もしかして、ステータスを見られたくなかったとか?」
アルはクランの泣いている理由を探る。何かの理由があって泣いているのは確かだ。そして、それがアルが明かした「秘密」の関連であることは間違いなかった。
しかし、アルの予想は半分当たっていて半分間違っていた。
「――いえ、何でもありませんよ」
クランは涙を流しつつも、気持ちのいい笑顔をアルに向ける。それは、「感謝」と「安堵」、そして自分の悩みの種が解消された「嬉しさ」など、様々な感情が入り混じった笑顔だった。
彼が涙した理由や彼が気持ちのいい笑顔を浮かべた理由は分からないアルだったが、彼が何かを乗り越えて新しい道を歩みだしたということ。それだけは、はっきりと分かったのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字など発見されましたら「誤字報告」にて知らせていただけるとありがたいです。また、感想もいただけると嬉しいです。