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58話 使用人と少年




 アルはほとんど一切の秘密を打ち明けた。


 まだ自分が「転生者」である事など秘密も残ってはいるが、今まで隠してきた「魔法適性」や「鑑定眼」などの今世で出来た秘密に関してはほとんどすべてを打ち明けている。



 ガンマたちの反応は、驚きこそすれど気味悪がったりはしなかった。その事にアルはほっとしていた。



「少し気持ちの整理をしたい」



 ガンマはそう言って部屋から出ていく。


 自分の知らない情報が一気に詰め込まれたことにより、ガンマの頭はパンクしそうになっていた。ベルも同じようで、ガンマと一緒に席を外す。


 そして、クランとアルだけが部屋に残された。



「……『鑑定眼』はいつから使えたのですか?」



 クランはアルにそう尋ねる。クランは真剣な表情を浮かんでいた。



「洗礼を受けた時からですね」


「では、()()()にはすでに?」



 クランの言う()()()とは、初めてアルとクランが会話をした日の事だろう。








 5年前、アルがまだ6歳だった頃に時間は遡る。



 まだ家庭教師であるギリスが屋敷に来る前の事で、アルはいつものように中庭で訓練をしたり、書庫で本を読み漁って生活していた。


 その時、クランはすでに屋敷で働いていたが、そこまで重要な仕事を任されるような役職ではなく、下っ端としてこき使われていた。



 しかし、そんなクランの人生はある少年との出会いによって大きく変化する。





 クランは、いわゆる「特異体質」をもつ青年だった。


 しかし彼の特異体質は自分にしか分からないもので、最も忌み嫌われるものだった。



「勘が鋭い」。



 よく言えばそんな能力だ。


 しかし、彼の()()は「勘」と一言で片付けられるものではなかった。他人が発言した「言葉」の真偽が分かってしまうのだ。



 クランは少年時代、自分の特異体質に気が付かずにその能力を遺憾なく振舞っていた。


 最初は周りの人たちも「勘がいい子」くらいの認識だったが、いつからか周囲の目は冷たくなっていき、自分の親でさえ「危険な子」として彼を扱うようになった。



 彼は、家を出た。



 元々住んでいた村から出た彼は、近くの大きな街を目指して歩き出す。そして、新たな地で「新しい自分」となる事を心の中で誓ったのだ。








 「ユートピア」という街に辿り着いた彼は、すぐに仕事をさがした。


 どんな仕事でもいい。できれば「住み込み」で「最低限の食事」にありつける仕事がいい。



 そんな彼に飛び込んできたのが、領主の屋敷の使用人としての仕事だった。



 給料はいいし、住み込みで食事もついている。多少仕事内容はハードではあるが、彼にとっては天国のような環境だった。

 何より、屋敷内だけで生活が出来るため、周りの目を気にしながら行動する必要もないのは彼の中で最も魅力的に感じた。



 使用人としての仕事は思っていたよりも専門的なものが多かった。



 掃除や食事の準備、庭の手入れなどのいわゆる雑務をするのかと思っていたら、資料の準備や帳簿の記入など「執務」の仕事がメインだった。



 元々地頭が良かったクランは、屋敷で1年も働くと周囲からそれなりに信頼されるようになった。



 ただ、任せられる仕事は多岐にわたるものの、それらのほとんどは初歩的で簡単な作業ばかり。ただ、下っ端らしく動き回るばかりだった。






 クランがいつもの様に執務室と帳簿のある書庫とを行き来していると、書庫である少年と鉢合わせする。



 金色の髪に青い目をした美少年だ。


 クランはすぐに頭を下げる。その少年が、この屋敷の主「レオナルド・グランセル」の3男であることを知っているからだ。



 貴族の息子は「法的」には貴族ではない。「準貴族」として身分は保証されるものの、貴族が持つ「権利」のほとんどは有していないのだ。


 そのため、別に礼を尽くさなくても「刑」に課せられることはない。



 頭を下げているクランに気が付いた少年はクランに声をかける。



「貴方のお名前は?」



 その少年は何を思ったのか、クランに名前を尋ねてくる。


 クランは、まさか声をかけられるとは思っていなかった。長男のガンマとは仕事を通して関わっているためその温厚さを知っていたが、噂に聞く次男は悪評が絶えない。



 この子はどちらだ?



 クランは顔を上げて、アルの方を見る。


 整った顔には綺麗な笑顔が浮かんでいる。その笑顔は、気を張らないと吸い込まれてしまいそうなほどの魅力が篭っていた。



「――初めまして、アルフォート様。私はクランと言います」



 クランは、何とか気を持ち直して自己紹介を行う。



「クランさんですか。……これからよろしくお願いしますね」



 少年はそう言って書庫から出ていく。なぜか彼の言う「これからよろしくお願いします」という言葉に違和感を覚えたクランだったが、気を取り直して資料をさがすことにした。








「――クラン。レオナルド様がお呼びだぞ」



 クランは自分の上司からそう伝えられた。


 ここで働いて1年以上経つが、主から名指しで呼び出されるという事は今まであり得ないことであったため、クランは「何か失敗をしてしまっただろうか?」と疑心暗鬼になる。



 彼は重い足取りで応接室へと向かう。



 レオナルドは自室か応接室にいることが多く、この時間帯はいつも応接室で仕事をしている。稀に資料を運ぶ際に顔を合わせることがあるくらいで、ちゃんと話したことはなかった。



 応接室に辿り着いたクランは、扉をノックする。



「クランかい?」



 扉の向こうからそんな声が聞こえる。名前を呼ばれたことに少し驚いたクランだが、すぐに返答をする。



「入りなさい」



 その言葉を聞き、扉を開く。


 応接室はここの屋敷の中で一番豪華な部屋だ。品のあるその部屋に入ると、大きなソファが2つ机を挟んで置かれており、窓際の方にレオナルドが座っていた。



「私をお呼びと聞きました。……何かございましたか?」



 クランは単刀直入にそう尋ねる。自分の制作した資料や帳簿に何か不備があったのだろうか?それとも、もしかして自分の評判を村の人から聞いてきたのか?


 色々な不安が彼を襲う。



 しかし、レオナルドの口から告げられたのは想像だにしないことだった。



「お前を私とガンマの補佐役に任命する。()()()の推薦だからね、しっかりと働いてもらうよ?」



 レオナルドの言葉に面くらったクランは、言葉を失いそこに立ち尽くすのであった。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字など発見されましたら「誤字報告」をお願いしたいです。また、感想もいただけると嬉しいです。


昨日は投稿できず申し訳ありません。本日は20:00だけでなく22:00にも次話を投稿しようと思っておりますので続けて読んでいただけるとありがたいです。

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