57話 告白と失敗
「こうやって目の前で見せられると、信じるしかないね……」
ガンマ、クラン、ベルの3人の前で、アルは全属性の魔法を行使した。
それを目にした彼らは、本来ならば非現実的なアルの言葉でも、目の前でそれを成し遂げられると信じるほかなかった。
「――しかし、どうやって偽装したのですか?」
クランはアルがどのようにして『鑑定盤』でのステータス確認を乗り越えたのかが気になっていた。
洗礼を受けると例外なくその洗礼を担当した教会関係者によってステータスが確認される。それは、才能ある人材をいち早く見つけ出すという国の方針によって定められた法律なのだ。
勿論その法律は貴族や王族にも例外なく適用される。
「……僕は『創造神の加護』を受けています」
アルはどこまで真実を語るべきか悩んだが、この3人を信頼に足ると判断する。
「『創造神の加護』?」
ガンマたちはそろって首を傾ける。
創造神「アルバス」。
『ユリウス冒険譚』にて登場する神の名前であり、「勇者」「魔導士」「剣聖」「聖女」ら最上位の階級全ては、この創造神によって生み出されたものとされている。
ただ、『創造神の加護』など聞いたこともないものだった。
「洗礼の時に、僕は創造神様にお会いしました」
アルは3人にそう告げる。
勿論そんな事実はない。ただ、加護を受けた経緯を説明するには、アルが「転生」してこの「アルトカンタ」に生を受けたという事実を語らなくてはならない。
3人の事はそれなりに信頼しているし、頼めば誰にも口を割らないと思う。しかし、兄弟として慕っている相手が別の世界の「人格」を持っているなど、あまり気持ちのいい話ではないだろう。
それ故にアルは小さな「嘘」を3人に伝えた。
「それは……。このことを他の人には?」
「――誰にも伝えていません。3人に話したのが初めてです」
「6属性すべてに適性を持ち、『創造神』にも会った……」
ベルはそう呟くが、その後の言葉は何とか飲み込んだ。
6属性すべての適性を持っていたのは、この長い歴史上たったの1人だけ。そして、その人物は『創造神』によって生み出されたものだと言われている。
それらを総括していくと、ある一つの可能性に辿り着く。
『異端の魔導士』の生まれ変わりではないか、という可能性に。
「それにしても、なんで加護を受けているとわかったんだ?」
使用人を呼んでお茶を持ってきてもらってから、3人は一息ついて少し落ち着きを取り戻していた。
アルが他の人たちと少し違うという事は昔から分かっていたことだが、こうして目の前でその異常性を目撃してしまうと不思議な気持ちになってしまう。
アルも3人と同じようにお茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「それはステータスに書かれていたので」
アルは簡単にそう伝える。しかし、アルの言葉に再度場が固まる。
あれ……? あ、しまった!
アルは自分の発言がおかしいことにようやく気が付く。
本来、ステータスにそんな項目はない。アルの様に「鑑定眼」のギフトを持たない限りは「加護」の存在は知らないはずなのだ。
アルの表情の変化を目にして、ガンマは目を細める。
「アル? ……どうやらまだ何か秘密があるみたいだね?」
ガンマはアルの言動に疑惑の目を向ける。アルはすぐに頭を高速回転させ、この場を乗り切る方法を模索する。
称号欄に「加護」があったことにする?それなら何とかごまかせるかもしれないか……?
アルはそう考え、口を開こうとする。しかし、一瞬でその考えを撤回する。
いや、『鑑定眼』については話した方が得策かも……。
「加護」について話した以上、自分が他の人たちと比べて「変わっている」と3人は考えているはず。そうなると、今以上に自分の手の内を知らせておいた方が後々楽なのではないか?
「……僕には『鑑定眼』というものがありまして、皆さんの『ステータス』を覗くことが出来ます。また、他の人には見えない隠れた部分も」
アルは正直に話すことにした。
アルの言葉に、3人は「?」を頭に浮かべていた。それもそのはずだ。こればかりは口で説明してもなかなか理解してもらえないだろう。
そう考えたアルは、ガンマたちのステータスを近くにあった紙に書きつける。そして、それを各々に手渡した。
「これは……!?」
ガンマたちはアルから手渡された紙を見てひどく驚いた。なぜなら、そこに自分でしか見えないはずのステータスが書かれていたからだ。
3人とも自分のステータスを出現させ、アルの書いた紙とを見比べる。
「これが『鑑定眼』?」
「――はい」
「この下の部分は?」
そう言ってガンマは紙の下部分を指さして尋ねる。
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ガンマ・グランセル(29)
種族:人間
称号:グランセル公爵家長男
HP:2,000/2,000
MP:4,000/4,000
魔法適性:火・風
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レベル:10(知+20,他+15/毎)
攻撃力:235
防御力:235
知力:280
俊敏力:235
スキル:片手剣(2) 事務(3) 礼節(3) 魔法効率(1)
ギフト:慈愛
加護:なし
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ガンマの紙にはそう書かれている。
しかし、ガンマが事実かどうかを確認できるのはこの紙の上半分だけであり、下部は見たこともない文字が並んでいた。
「下部は、ガンマ兄様の『ステータス値』です」
「『ステータス値』?」
ガンマは聞きなれない言葉に首を傾げる。
「『力』の詳細と思ってもらえればいいです。そして、『スキル』はその人の技術力、『ギフト』はその人の特異体質です」
「これが『鑑定眼』なのか……」
ガンマたちは、アルの『鑑定眼』を何とか受け入れる。そうでなければ、アルが自分たちのステータスを把握している理由が思いつかないからだ。
そして何より、アルが嘘をつく理由が見当たらない。
「はい。そして、僕のステータスの『加護』部分には『創造神の加護』という言葉が書かれています。それで、加護を受けているという事が分かったのです」
ガンマたちは、アルが嘘をついていないことは何となく理解した。
しかしその反面で、これ以上アルに質問することが怖くなっていた。聞けば聞くだけ想像の範疇を超えた回答が返ってくるからだ。
「そうか……」
ガンマはその一言しか言葉を発することが出来なくなっていた。そして、今日の出来事を整理する時間が必要だ、そう感じていた。
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