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56話 懺悔と告白




 「付与魔法」を一通り試し終えたアルは、次に『古代魔法』について試そうとするが、扉の向こうに人の気配があることに気が付く。



 アルはゆっくりと扉に近づき、勢いよく扉を引く。すると、扉に引っ付いていた一人の人物が部屋の中に転がり込んできた。



「お久しぶりですね。ノーラさん?」



 アルはその人物に話しかける。



「いや、違うよ? 何もやましいことはないから!」


 

 アルから追及される前からノーラは言い訳を始める。やましいことがないのに、どうして扉に引っ付いていたのか。


 アルは微笑むながらも一歩一歩ノーラに近づいていく。



「……ごめん。アル君が王都に来たってお父さんに聞いて」


「それなら、どうして扉に引っ付いていたのですか?」



 アルは核心を突く。


 そもそも、アルたちが王都に着いたのはついさっきの事であり、そこから情報が流れるまで時間が短すぎる。



「それは……、メイドの人が『アルフォート様は一時間以上前から部屋に閉じこもっています』って言ってたから。何やってるのかな~って!」



 ノーラはおどけるようにそう言う。


 しかし、それはこの屋敷に来てから知った情報であり、何か用事がなければこの屋敷には来ていないだろう。


 その用事も何となくわかっている。



「ノーラさん……。いいですよ、ごまかさなくても」



 アルはノーラにそう伝える。


 ノーラの顔からおどけた雰囲気が一瞬で消え去る。



「……そっか~。やっぱり分かっちゃうか」



 彼女は少し虚ろな目をする。


 それは、ここへはあまり自分から好んで来たというわけではないからだ。



「ビクトル男爵家はホークスハイム侯爵家と関係がありますからね……」



 アルは、アリアの友達として紹介された時からビクトル家についてはしっかりと調べを付けていた。


 調べてもらった情報の中には、どの貴族との結びつきが強いのか、そしてどの分野に長けているのかなどの情報が多くあった。



「……ごめんね、(うち)の暗部が動かされたみたい」



 ノーラは苦虫を嚙み潰したかのような、辛そうな表情を浮かべる。


 ビクトル家は情報戦に強い家系だった。そして、その裏にはそれなりに強力な暗部の存在があるのではないかとアルは予想していた。


 そのビクトル家のノーラが「暗部」の存在を公言するのだから、アルの予想は正しいと言える。



「……目的はベル兄様ですね?」



 襲撃者の動き方からして、まず間違いなく後方の馬車を狙っていた。


 おそらく、前方に配置された襲撃者は陽動としてガンマたちをかく乱し、ベルの乗る後方の馬車に目がいかないようにしようと狙っていたのだろう。



「……そうみたい。でも、もう襲撃はないはずだよ」



 ノーラはもう襲撃はないはずだと断言する。


 普通に考えれば再度襲撃してくることはあり得ることだろう。しかし、今回は事前にバレてしまった。これ以上深追いすればビクトル家の暗部であると特定される可能性もある。



 だが、そうなるとノーラがやって来た理由が分からない。



「ノーラさんはどうしてここに?」



 アルはノーラがここにやって来た理由を尋ねる。


 おそらく、メイド云々の話も嘘なのだろう。普通であれば帰って来たばかりの主家の令息の元に、前触れもなく客人を向かわせるとは思えない。



 彼女のスキルは、彼女がこの部屋へ入る前に鑑定済みだ。


 スキル欄にある「隠密(3)」と「気配隠蔽(3)」を駆使してここまでやって来たのは容易に想像できる。



「それは……その、謝りたくて」



 彼女の口からこぼれてきた言葉は、アルの予想外のものだった。



「謝る?……どうしてノーラさんが?」


「私が直接動いたわけではないけど、私の家の人が迷惑をかけたからね」



 アルの質問にノーラは即答する。


 彼女のその態度からは、自分の家の存続のために「暗部」という存在は必要なものだと理解しつつも、心の奥底ではそれを否定的に捉えているように思えた。


 彼女は自分の運命を理解しつつも、それで他人に迷惑がかかることに否定的な感情を持っているのだ。



「そうですか。……ノーラさん、明日男爵様にお会いできますか?」


「え……、お父さんに? 聞いてみないとわからないけど。……ううん、会えるように手配するよ!」



 ノーラはアルのお願いに一瞬戸惑う。どういう意図での発言なのかと。


 しかし、アルの表情から真剣さを感じ取った彼女は父であるビクトル男爵に合わせることを約束するのであった。












 ノーラを見送ってから部屋にはすぐに別の訪問者たちがやって来た。



「――アル。入っていいかい?」


「どうぞ」



 アルが入室を許可すると、扉の向こうには3人の人物が見える。



「……さっきの話の続きを聞きたいんだけど?」


「えぇ、入ってください」



 アルは3人を部屋の中へ入るように促す。ガンマを先頭に、ベルとクランも一緒に部屋に入ってくる。そこまで大きな部屋というわけではないが、持ってきた荷物も少ないため4人でいてもそこまで窮屈という事はなかった。


 アルは、3人の為に椅子を用意する。


 クランは恐縮していたが、今回はアルの話に付き合ってもらうためにこちらが呼んでいるので、無礼講という事にした。


 そして、3人が椅子に座ったのを確認してアルは口を開く。



「まず、ベル兄様。以前、僕のステータスについて聞かれたのを覚えていますか?」


「――ああ、6年前の事か」



 ベルは6年前にアルの魔法適性が2()()()()なかったという事に対して違和感を覚えていた。そして、それをアルに聞いたこともあった。



「――その事ですが、僕はステータスを偽っています」


「「「!?」」」



 3人はアルの言葉に驚きを隠せない。



「――偽っているとは?」


「そのままの意味です」



 ガンマの質問にアルは端的に答える。


 ガンマはそれを聞いて何も言えなくなる。クランはずっと何かを考えている様子で、話に入ってこない。



「……アル。お前はいくつ適性があるんだ?」



ベルはずっと疑問に思っていた質問を投げかける。


アルはその質問にどう答えるか、少し考える。一瞬の間が空いたのち、意を決したように口を開く。



「……6属性です」


「「6属性!?」」



 アルの回答にさっきまで言葉を失っていたガンマと考え事をしていたクランが大きな声を上げる。しかし、質問した当人であるベルは目を見開いて驚きの表情は見せたものの、すぐに表情を元に戻した。



「……それは、本当ですか?」



 クランはアルの言葉をまだ信じられないでいた。それはガンマも同じの様で、何も言わずにアルを見続けていた。



「『ファイア』『風渦』『水球』……」



 アルは3人の前で6属性すべての初期魔法を発動させる。3属性を超えたところで3人は食い入るようにアルの発動する魔法を凝視し、最後には言葉を失う。



 この後にさらに驚くことになるとは、3人の誰も予想だにしなかった。







今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は、ついにアルが自分の秘密を告白する話を書かせてもらいました。もう少し上手く書けたのではないかと、少し後ろ髪を引かれる思いです。


次回もこの話の続きになります。

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