55話 付与と異常
アルはメイドに案内されて用意された部屋に入る。
王都には一週間以上は滞在することになっているので、持ってきた荷物を部屋で確認する。確認といっても、持ってきたのは着替えを除けば暇つぶしの本くらいのものなのだが。
「確か、『魔法理論』と『錬金術』。あとは……」
アルは持ってきた本の表紙を見ながら確認していく。『魔法理論』や『錬金術』についてはどこに行くにも持っていくアルのお気に入りの本だ。そして、今回はもう二冊持ってきていた。
「『付与魔法』と『古代魔法』か……」
王都へ向かう少し前、サルーノに依頼した情報を受け取った時に何冊かの本も一緒に受け取っていた。彼には珍しい本を見つけてきたら売ってほしいと常に依頼している。
そのため、最近は各地から色々な本を手に入れられるようになった。本当に、サルーノには頭が上がらない。
そんな本の中で、一番気になったこの二冊を持ってきていたのだ。一応、馬車の中で読んで頭の中に情報は詰め込んだが、その内容にいくつかの疑問点があったので、王都滞在中に解き明かそうと考えていた。
アルは、その疑問点を抱いた場所を開く。
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付与魔法は「魔道具制作」に近いが、付与するためには「光属性の適性が必要なところ」と「膨大な魔力」を必要とする点で異なっている。
付与魔法の欠点は、才能にその効果が左右される点、そしてその複雑性があげられる。
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『付与魔法』の本には、そんな記述があった。
付与魔法とは、魔道具の制作と同じように魔法陣を用いる必要がある。そして何より、「光属性」に適性があり、付与する際に「膨大な魔力」を消費するところに魔道具の制作とは違う点があった。
一般的な付与魔法は「HP」や「MP」を上昇させるものだが、一時的に力を上げるものもあるらしい。
おそらく、ステータス数値の「攻撃力」や「防御力」、「俊敏力」を向上させてるのだろうが、『鑑定眼』を持っていないとその数値は知ることが出来ないので、この世界では「力」が「計測不可能」な程度で上昇すると考えられていた。
「……つまり、僕にぴったりな魔法という事ですね」
『鑑定眼』を持つことで、詳細なステータス数値を確認でき、「光属性」と「膨大な魔力」をもつアルにとって最も向いている魔法といえるだろう。
しかし、問題もある。
「問題は、周りが『火と風の適性がある』と思っている事かな」
アルは、ステータスを偽っている。
本当は6属性すべてに適性を持っているアルだが、「創造神の加護」によってステータスを「火・風の2属性」に偽装していた。
そうなると、アルが付与魔法を使うことでその偽装が破綻してしまう可能性が出てきてしまう。
「となると、これも秘密裏にやらないといけないか……」
付与魔法を使うことは、いずれは冒険者として活動したいと思っているアルにとって有益なものだった。付与魔法を覚えないという手はない。
今なら、誰もいないよね?
アルは部屋の外にまで気配を探る。近くに人の気配はない。
アルは気配を確認し終えると、紙と筆を取り出して魔法陣を書き始める。
付与魔法の魔法陣は本を見て勉強済みだ。少し複雑な魔法理論に基づく魔法陣だが、その根本を理解していれば魔法陣を組むことは容易だ。
光属性の魔力を筆に流し込みながら書いた魔法陣からはまばゆい光が放たれている。付与魔法を行使することも見たことも初めてのアルは、こういう物なのかと軽くスルーした。
しかし、本来魔法陣が発光することはあり得ない。
アルが筆に流し込んだ魔力の量が、常人が制御できる量から逸脱していたために、魔法陣が許容できる限界まで魔力が流し込まれていたのだ。それによって、魔法陣から光が放たれていた。
魔法陣を書き終えると、アルはそれを行使する。対象はアルが普段から使っている片手剣だ。
魔法陣に再度魔力を注ぎ込むことで付与魔法は行使できる。魔法陣は使い捨てではなく、使いまわすことが出来るので、消え去ることはない。
アルは付与魔法によって強化された片手剣を『鑑定眼』で見てみる。
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ブロンズソード
階級:ノーマル
付与:攻撃力+100
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アルの片手剣は安物なので、階級はノーマルとなっている。魔剣クラスになると階級はシルバーからゴールドとなり、聖剣や伝説上の武器レベルだと最上位のプラチナ階級となるらしい。
アルが今回行ったのは武器への付与魔法。攻撃力を上げるものだ。
しかし、アルはその数値に驚く。
これまで付与魔法を施された武器は1度だけしか見たことがない。その時見た武器はかなり高価なもので、階級もレアクラスであった。
しかし、その時見た付与効果は「攻撃力+10」。
アルが初めて付与したこの武器のたった1/10しかない付与の効果だったのだ。
それからアルは、人体への付与も試みる。
しかしその結果、自分の異常性が分かってしまう。
物への付与は永続的なものであるが、付与はたったの一つしか出来ない。しかし、人体への付与魔法は一時的な効果である反面、複数の付与魔法を重ね掛けすることが出来る。
ただ、重ね掛けできる数は才能に左右されると本には書かれていた。これまでの最大数が、3つだと言われている。
アルが重ね掛けできた数は6つ。それも全て+100の効果だった。
アルは自分の付与魔法が普通ではないことを自覚することになった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は新しい魔法「付与魔法」について書かせてもらいました。付与魔法といえばチートのお約束といったイメージがあります。
これから頻繁に登場すると思います。