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54話 再会と教え






 アルたちは何とか屋敷の中に馬車を乗り入れた。



「屋敷に入ってしまえば大丈夫だね」



 ガンマの言葉通り、屋敷に入るころには刺客たちは諦めていて、方々へ散り散りになっていた。おそらく失敗したことで逆に追跡されることを恐れての事なのだろうが、このタイミングで刺客を送り込んできている以上、誰が裏にいるのかは想像に容易い。



「しかし、2人ともよく気が付いたね。……特に、アル」



 ガンマは自分が気付かなかった刺客に気が付いたアルに視線を送る。クランはそういった勘に優れているとガンマも分かっていたので、刺客に気が付いたことに対してそこまで不思議だとは思わなかったのだろう。


 アルはどう答えていいのか悩む。



「……後で3()()に一緒にお話しします」



 アルは馬車からすでに降りてきていたベルを視界にとらえる。彼はアルが気付いたという事は分かっていない。しかし、以前から少しづつ疑われていることは確かだった。



「……そうか。まずは、帰ってきたことを知らせないとね」


「そうですね。レオナルド様たちの予想より早く帰ってきていると思いますから、早く知らせた方が良いでしょう」



 ガンマとクランは、アルに対しての疑問を一旦飲み込み、今から取らなければならない行動を消化していく。



 4日の道のりを3日でやってきている。おそらく、ガンマからの手紙が届いてからそこまで日数は経っていないだろう。



 そう考えながら、アルが荷馬車から速やかに荷物を下ろしていると、突然後ろから抱きしめられた。



「――アル!」



 アルは突然のことに驚くが、その人物を確認して頬を緩める。実に6年ぶりの再会だった。



「……お母様。突然のことで驚いてしまいます」


「ベルを助けてくれてありがとう……。こうして居られるのは、貴方のおかげなのよ?」



 アルはカリーナの言葉に耳を疑う。そして、一緒に荷下ろしをしていたはずのある人物に視線を送る。しかし、その人物は首を横に振って否定する。



――ガンマ兄様じゃない?



 考えつくのは、ガンマによる手紙にそう書かれていたという事だけだった。



「あの人がね、ベルは良い味方を見つけたって言ってたのよ?」



 レオナルドが、ベルの一件にアルが絡んでいると言い出したようだ。思っていたよりも自分の事を高く評価しているという事に、アルは驚いた。



「母上……」



 別の馬車から荷物を下ろしていたベルが、自分たちの荷物を下ろし終えてこちらの様子に気が付いたようだ。自分の母親が弟に抱き着いている様子に、不可思議そうな表情でこちらを見ていた。


 しかし、カリーナはベルの顔を見て涙ぐむ。



「ベル……! 少し見ない間に大人になったのね……?」



 一目見ただけで、ベルの表情が変わっていることにカリーナは気が付いた。実の母親であるカリーナにも、自分の苦悩を一切隠し、信頼しようとはしなかった。いつも、何か張り詰めたような空気を纏っていた彼が、今は一つ壁を越えた様子だった。



 ベルはカリーナの言葉に少し照れているようだった。ベル自身、自分を変えようと頑張っているからだ。それを母親であるカリーナが一目見ただけで理解してくれたことに嬉しさを感じていた。



「そんなことは……」



 しかし、ベルは少し強がって見せる。カリーナはそんなベルを見て笑顔になる。久しぶりの再会はそうしてなされたのだった。








「父上はどうしていますか?」



 ガンマは屋敷の中に入りながら、カリーナにそう尋ねる。帰ってきたことを知らせようと思ったからだ。



「あの人なら、状況説明のために王城へ行っているわよ?」



 おそらく、ガンマが今回の件の説明を記した手紙に同封していた、アルが調べ上げた資料を王室に提出したのだろう。


 ガンマは資料の出所や誰が調べた物かについては「サルーノ商会」としか知らせていない。


 領内ではすでに大きな商会となっている「サルーノ商会」だが、他領や王都ではそこまで有名な商会ではないため状況説明は大変だろう。



「そうですか……。致し方ないとはいえ、迷惑をおかけしたみたいですね」



 ガンマは素直に謝る。しかし、サルーノ商会を動かしたのが「アル」だという事や、その情報をつかむために他の商会に「情報交換」と言う名の後ろ暗い行動をしていることも理解しているため、その詳細までは伝えられないでいたのだ。


 おそらく、レオナルドもそのことはある程度理解しているだろう。「正義漢」であるレオナルドがその点に目をつむっているのは、ベルの事を思っての事だろう。



「――ガンマ。貴方が考えこむ必要はないのよ? あの人も私も今回の件に関しては、貴方たちを褒めたいと思っているから」



 カリーナは賢い人間だ。ガンマから送られてきた資料にも目を通しているし、子飼いの情報屋から情報を得ているため、現在の社会情勢にもそれなりに詳しかった。


 それらすべての情報から、ガンマたちの起こした行動についても大体予想がついていた。


 確かに、その行動はこれまでの正義を信じる「グランセル家」の信念からは逸脱した行為だった。しかし、ただ愚直に正義を謳うだけではだめなのだ。



「ただね――」


「奥様。皆様をどのお部屋にお通しすればよいでしょうか?」



 なおも言葉をつづけようとしたカリーナだったが、屋敷の中で控えていたメイドによってその言葉は遮られる。



「そうねぇ。話はまた後にするわね?」


「はい」



 カリーナはそう言って、一旦ガンマのそばから離れ、メイドたちに指示を与えに行った。ガンマはカリーナが何を言いたかったのか、その時何となく理解していた。



「……『自分の思う正義を信じ抜きなさい』か」



 昔、母から言われたその言葉がついさっき聞いたものの様に、ガンマの頭の中で反駁していた。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回も少し緩いお話で申し訳ありません。もう少しで急展開がありそうなので、我慢してこの緩ーい雰囲気を楽しんでいただけるとありがたいです……。

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