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53話 旅路と刺客






 王都へ向かう一行は、2つの馬車に分かれて乗り込んだ。



 1つはアル、ガンマ、クランの3人を乗せたそれなりに立派な馬車。そしてもう1つが、ベルを乗せた少し古い馬車。


 ベルがグランセル公爵領に戻ってきていることは、周知の事ではない。それ故に周囲から勘繰られることがあってはいけないのだ。



 ベルの馬車とはそれほど離れないようにしているが、あまり交流を取らないように気を付けていた。アルとしては、王都へ向かっているのにそこまで徹底する必要があるのかと疑問に思ったのだが。


 王都への道は6年前ではあるが、経験しているため、景色を見たり本を読んだりして過ごすことが多かった。以前は、目についたものすべてに反応してレオナルドに質問攻めしたが、今回はそんなことはなかった。


 といっても、屋敷の外に出ることはほとんどないため、外の景色を見られたことはうれしかった。しかし、景色も以前のものとほとんど変わっていないことは少し残念だったが。



 今回の旅路は、ほとんどノンストップで3日を過ごした。本来なら4日の道のりなのだが、一日でも早く王都へ着いておきたいと考えてのことだった。


 申し込まれた決闘に対して、何らかの事情で遅れるという事は相手を侮辱しているとみなされる行為でもあり、最も忌避される行動たり得るので、アルもこの判断には賛成だった。また、いくら勝算の高い決闘とはいえ、ベルの決闘への準備期間は一日でも長い方がいい。










「王都で、僕は何をしていればいいんですか?」



 アルは同じ馬車の中にいるガンマとクランにそう尋ねる。今回、ガンマは決闘の立会人として、クランはその補佐として行動する。つまり今回の王都滞在中、アルは何もすることがないのだ。



「……そうだね。母上の話し相手になってあげたら?」



 アルも連れていくことはレオナルド達には伝えていない。手紙で伝えているのは、決闘の日時やガンマが立会人として向かう事だけであった。


 ガンマの母親である正妻のカリーナはアルの事を気に入っている様子だったので、これを機に話し相手にでもなってもらおうとガンマは考えていた。


 しかし、その本心をアルは見抜いていた。


 アルから細目でジーと見つめられたガンマは、まずいと思い他の案を考える。そして、一つの妙案を思いついた。



「――あ、あとは新しい本でも買ってくればいいんじゃない?アルが王都へ行ってから6年も経っているし、新しい本も出ていると思うよ。あんまり外には出歩けないかもしれないけど、私からも父上たちに頼んであげるよ」



 アルが本の虫であることは周知の事実。現に、今回の旅路でも暇つぶしに本を持参しているくらいに本を読むことが大好きだった。


 そして、アルが以前王都へ来たのは6年も前の事。新しい研究の成果も出ている頃合いだろう。


 ガンマの提案に、アルの顔に生気が戻る。



「新しい本……そうですね! お願いします!」



 ガンマはアルの食いつきにホッとする。そして、弟が好奇心旺盛で知識欲の塊であったことを神に感謝したのだった。








 王都は相変わらず賑わっていた。



 以前レオナルドと王都に来たときは、そこまでしっかりとした検問はされなかったが、今回の訪問では割としっかりとした検査がなされていた。


 アルが不思議そうにその様子を見ていると、クランがアルに耳打ちする。



「――以前、奴隷を不法に密輸入していたという一件があったそうで、このように厳格な検査がなされるようになったとか」



 なるほど、何かの事件が起きたことで検問所での検査を厳しくするという事は筋が通っている。しかし、アルはその説明に少し意地悪な返答をする。



「……へぇ。となると、今までそのような事は一度もなかったのですね?」



 ここでの検問を一度見ているアルは、あの検問で犯罪を防げているとは甚だ思えなかった。それほどにざるな検問をしていたのだ、犯罪者がそこをつかないわけがなかった。


 アルの返答に、クランは一瞬答えづらそうに顔をしかめた後に真相を話す。



「……今回は他国の王族が被害を受けたと聞き及んでおります」



 他国。


 この世界には存在する大国は4つ。あとは小さな国々が乱立していた。クランが言う「他国」とはどの国をさしているかは分からないが、濁して説明している以上国の名前までは知らないのか、若しくはアルには伝えられない内容だと判断したのだろう。


 

 アルも、それ以上の質問は控えた。

 


 クランを困らせてもこちらに何の利点はない。必要になればクランの方から教えてくれるだろう。




 検問が終わると、すぐにグランセル公爵の屋敷へと向かった。王都の城下町も通ったが、ほとんど6年前のままだ。


 幾つか見知らぬ名前の商店が出来ていたので、記憶の中にその名前を記しておく。商人とはこれからも仲良くしていかなくてはね。



 城下町を抜け、貴族家の屋敷が立ち並ぶエリアに入っていく。さっきまで聞こえていた喧騒は一気に鳴りを潜め、馬車は不思議な静寂に包まれていた。



「……前に10、後ろにも10か」



 アルは不自然すぎる静寂に疑問を感じ、意識を研ぎ澄ませていた。そして、感じ取った「殺気」のこもった存在を探し当てる。


 アルのつぶやきに、ガンマは不思議そうな顔をする。



「……何か言ったかい?」



 ガンマは殺気に気付いていない様子だった。しかし、ガンマの隣に座っている同乗者は少し渋い顔をする。



「ガンマ兄様、道を変えた方がいいと思います。……クランさんもそう思いますよね?」



 アルはクランに話を振る。さっきから渋い顔をしていた彼ならこの殺気にも気づいているだろう。



「そうですね。いったん右の通りに進み、屋敷まで全力で馬車を飛ばすべきだかと」


「……分かった。クラン、後ろの御者にも合図を」



 クランの言葉を受け、ガンマは緊急事態であることを察する。そして、すぐに指示を飛ばした。




 馬車は次の通りを右に曲がり、隣の通りへと道を変更する。そして、今までの遅い速度から一転し、かなり速い速度で屋敷までの道を猛進する。


ベルの乗っている馬車も同様に猛進するが、馬車の質が違うため、すこしペースが遅い。



「まずい……こうなったら」



 アルは、ガンマやクランから少し離れ、2人の死角に入ると一つの魔法をベルの乗る馬車に放った。すると、馬車の速度はみるみる上がっていく。



――うん。これなら逃げきれそうだ。



 こうして、二つの馬車は無事にグランセル公爵の屋敷まで到着することが出来たのだった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は王都への旅路です。これから本格的な決闘編に突入いたします。

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