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52話 親子の絆




 母親であるミリアに呼ばれたアルは、彼女の部屋の扉をノックする。



「母上、アルフォートです」



 部屋のなかから、ミリアの声が聞こえる。そして、部屋の扉が開かれると思いもよらない者の顔があった。



「ベル兄様」



 そこにいたのは、ミリアとベルだった。二人は血の繋がりもなく、親し気に話しているところも見たことがなかった。そのため、あまり仲が良くないものだとアルは感じていた。



「……俺はこれで」


「そう……また来なさいね」



 ベルはアルが来たことで、少し気まずそうに部屋を出ていく。部屋にはアルとミリアだけが残された。



「珍しいですね」


「そうね。でも、昔は私にも懐いていたのよ」



 今のベルしか知らないアルからすれば、意外な事実だった。



「座りなさい」


「はい」



 アルは、ミリアが座っている椅子の向かい側に腰かける。そして、母親の顔を見ると、彼女の顔には子供の成長を誇らしく思っている反面、一瞬とはいえ親元を離れる子への不安も映し出されていた。



「……ベルから聞いたわ」



 ミリアはそう話を切り出す。アルは、ベルが何を話したのか知らないが、話の主題が今回の件であることは予想できる。


 ベルは、アルの事を「信じる」と言いアルに対して何の不満も言わないので、何か不安や不満でもあるのではないかと思っていた。


 しかし、ミリアの口から発せられた言葉は思いもよらない内容だった。



「『アルのおかげで変われそうだ』って言ってた。……あの子、変わったわ」



 昔のベルを知る彼女から見ても、今のベルが変わろうとしていることは分かる。昔のベルは、ガンマやミリアに懐きはしていたが、心の底から誰かを信頼したり心を許そうとはしなかった。根本には、目の色や兄であるガンマと比較される劣等感を抱いていた。


 しかし今のベルはそうではなかった。そして、その原因としてアルという存在があることは明らかだった。



「……アル。貴方が普通じゃないことは分かっているわ」



 アルはミリアの言葉に体が反応する。


 もしかして、ミリアは自分の中に他の誰かの影が見えているのではないかと勘繰ってしまったのだ。しかし、ミリアの顔には優し気な雰囲気しか見られない。アルは、彼女の言葉に言葉を失い、沈黙を貫く。


 そんなアルを尻目に、ミリアは言葉を続ける。



「……でもね、何があっても貴方は私の子よ。貴方は自分が思うように行動しなさい」



 ミリアは椅子から立ち上がって、アルを抱きしめる。


 アルは母親の行動に驚きを隠せなかった。しかし、自分を包み込む暖かさがアルの心の緊張を解きほぐしていく。


 ベルの一件で、知らず知らずのうちにアルの心は固くなっていた。自分の慕っている兄が、不当に陥れられているという状況を何とかしようと無理をしていたことは確かだった。だから、最終的な判断はベルに任せ、彼が王都へ向かう時についていこうとは思えなかったのだ。


 しかし、母親の暖かさに包まれながら、家族を守りたいという気持ちが強くなる。



「……はい」



 アルは、家族を守るために、自分のできる限りの範囲で力を尽くそうと決意を固めた。







 アルが決意を固めた時、王城ではグランセル公爵家から決闘の話とホークスハイム侯爵による裏工作と取れるような情報がもたらされた。



「──これは、中々面白い資料を手に入れたものだな」



 国王はグランセル公爵側から提出された資料を眺めながらそう呟く。しっかりと調べられており、詳細な日時と数値が書き記された資料とホークスハイム侯爵の行動の詳細が書かれた資料は、ユートリウス2世が調べさせた情報の欠陥を見事に補足していた。


 そして何より、矛盾する箇所が見つけられないということがこの資料の素晴らしいところであった。



「しかし、これはどのようにして手に入れたのでしょう?」



 宰相はこの資料をどのようにしてグランセル公爵側が入手したのかについて疑問を抱く。


 それはその通りだった。


 普通このレベルの資料を集めるのに、この短期間では不可能であると宰相は考えていた。そして、もし時間的要因を無視したとしても、これほど詳細な情報を集めるためには内部の裏切り以外には考えつかない。


 宰相が知る現当主であるレオナルド・グランセル公爵は表裏のない人間であり、このような裏工作ができるような人間ではないと思っていた。そのため、この資料がどのようにしてグランセル公爵側にもたらされたのかについて疑問を持ったのだ。



「レオナルドではないな。あれは確かに有能だが、こういった裏の情報を手に入れることはできないだろう」



 国王ユートリウス2世もこの点に関しては疑問を抱いていた。そして、レオナルド側に自分たちが知らない何かがあることは確かだった。



「他の貴族家に依頼したのでしょうか?」



 宰相は思いつく一つの仮説を発する。現状を知る者のなかで、公爵側についた貴族家の誰かが調べ上げたのではないかというものだ。


 しかし、この仮説について国王は異なる見解を持っていた。



「──いや、それも考えづらい。もし何も掴めなければ他の貴族家にも影響が出る。そんなことをあの正義漢がやるとは思えんな」



 国王が知るレオナルドは、他家に対しても律義な性格をしていた。自分の側についた者を危険な状況に置くような選択をするとは考えづらい。



「となると、内部に有能な者を付けているということになりますな」



 本人の出した成果ではなく外部に協力者がいないのであれば、残る選択肢ははたった一つ。内部の人間による行動のみだった。


 しかし、そうなると予想のしようもなかった。


 国王は、その結論にたどり着いた所でこの資料の出所を探ることを止める。そして、この件に関しての現状を俯瞰的に見つめ、双方の流れを読み続ける。



「資料の出所は考えても分からん。ただ一つ言えることは、あやつにとってこの件は追い風であるのは間違いない」



 あやつとは、第3王女の婚約者として発表された青年のことであると宰相は瞬時に理解する。確かに、この資料が王家に提出されたこと、そしてホークスハイム侯爵家長男のジンクスとの決闘については、ベルに分があるというのが現状だった。



「──このこと、王女殿下には?」



 宰相は国王にそう尋ねる。国王は宰相の質問に一瞬眉間にしわを作るが、すぐに首を横に振る。



「伝える必要はない。勝敗はともあれ、ホークスハイム侯爵家に王女が嫁ぐことはないからな」



 国王は意味深な言葉を残し、これからの未来を想像して微笑むのだった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


早く進めよ!と作者自身思っていますが、中々進められない者ですね。あれも書きたい!これも書きたい!……と書き続けていると中々先に行けていない状況です(笑)


これからも、ゆっくりと進めていきますので長ーく見てください(汗)

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