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51話 疑問と剣




 グランセル公爵領の屋敷では、ベル、ガンマ、クラン、アルが王都へ向かう準備をしていた。ベルの決闘の為に王都へ向かうのだが、仲介役のガンマと優秀な臣下であるクランも同伴することとなった。



 なぜ、アルが王都へ向かうことになったかというと……。







「それで、私とクランは同伴することになるね」


「そうですね」



 仲介役のガンマは、自身がベルに同伴するということは確定事項として、何かあった時のために優秀なクランを率いていくことにしていた。


 それはそれでよいのだが、ガンマとクランの視線がアルのほうへと向く。



「アル、君はどうする?」



 ガンマは、屋敷に残る気満々だったアルにそう尋ねる。ガンマの言葉からは、アルを連れていきたいという感情が感じ取れた。



「僕ですか? 屋敷に残るものだと思っていたのですが?」



 アルはガンマの言葉にそう答える。しかし、ある人物の表情をみて、すぐにその考えを改めることになった。



「……分かりました、僕も同伴します」







「準備はできたかい?」



 ひとまずの準備を終えたアルの所に、ガンマが訪ねてくる。



「はい!──と言っても、僕はついて行くだけですけどね」



 アルが持っていくのは、一週間分くらいの着替えと暇つぶしの本くらいのものなので、準備自体は一瞬で終わっていた。


 ガンマも、アルが付いてくるだけという事ですでに準備は終わっているだろうとは思っていた。しかし、アルに聞いておきたいことがあり、アルの元へと来たのだった。



「アル。もし、君がジンクスの立場なら、この現状をどう打開する?」



 ガンマは、今後のジンクスの行動についてアルに尋ねたかったのだ。


 ジンクスから決闘を申し込んできたのは、ガンマにとっても予想外の行動だった。そして、決闘にかけられた条件も。


 戦力を考えてもベルに分があることは明らかだった。ガンマからすれば、ジンクスがこの決闘に勝つという未来が全く想像できない。



 しかし、アルならば……。



 ガンマは、予想外の結果を容易にもたらす自らの弟ならば、この現状を覆す考えを持っているのではないかと考えた。



「そうですね。僕なら──」



 アルが自らの考えを話そうとしたその時、アルの元に新たな訪問者が現れた。



「アルフォート様、ミリア様がお呼びです」



 アルの専属メイドであるニーナから、母親であるミリアが呼んでいるという情報がもたらされる。アルは、目の前のガンマの方を向きなおす。



「ガンマ兄様、この話はまた後で」


「そうだね。早く行ってきなさい」



 ガンマはそう言って、弟を見送った。


 この質問の回答を得られないまま、ガンマたちは王都へ向かうこととなった。







 ベルがミリアの元へ向かったのを見て、ガンマは一旦執務室に戻る。執務室では、クランがこれからの動きを確認し、不測の事態が生じないようにと予定を確認していた。


 しかし、ガンマが執務室に入ってきたのを見て、いったんその手を止めてガンマに疑問を投げかける。



「ずっと疑問を抱いていたのですが、ジンクス殿は本気で決闘に勝てると考えているのでしょうか……。私には彼が本気でそう思っているように感じていまして……」



 それはガンマにとっても疑問に思うところだった。そして、クランがそのように「感じた」ということがより一層の不自然さを際立たせている。



「ベル様は三属性の魔法が行使できる秀才です。剣の腕はそこまで高くはありませんが、魔法だけでそれを覆すだけの力があります」



 クランは客観的にベルの戦力を分析する。

 魔法適性の数によって、その魔法の行使による威力も上がると考えられている。実際は、ステータスの知力によって魔法の威力が決定されるのだが、「鑑定眼」を持っているアルでないと、その事実にまではたどり着けないだろう。


 しかし、魔法適性が多いほど知力が高い傾向にあるのは事実であり、一概に間違いともいえなかった。



「そうだね。……ジンクス・ホークスハイムでは決闘に勝つのは難しいだろう」



 クランの分析に、ガンマも同調する。


 ジンクスの戦闘力は、おそらくベルより数段低い。

 宮廷魔術師として、魔物との戦闘も多く経験しており、才能にも恵まれているベルに対して、ジンクスは貴族として自領でごく普通に生活していた。

 戦力に差が生じるのは当然だった。


 しかし、彼の行動がガンマとクランに不安を覚えさせる。



「ただ、いくら彼でも勝てない決闘を挑むとは思えない。何らかの勝算があるのだろうね」



 あの態度は、自分の負けなど考えていないものだった。おそらく何か隠し持っている「武器」があることは明らかだ。



「……しかし、私にはその方法が思いつかないのですが」



 クランとて、その事は理解している。しかし、いくら考えても戦闘経験が豊富なベルにあのジンクスが勝利する方法が考えつかなかった。



「奇遇だね。私もそんな方法は知らないよ」



 ガンマは自分の非力さに嫌気がさしてしまう。

 ジンクスがベルに決闘を申し込んできたあの日から何かあるのではないかと考え続けてきたが、その疑問を解消させることはできなかった。



 ガンマとクランは、その後も必死に考え続けるが、答えを見つけ出すことはなかった。







「ジンクス様! お考え直しくださいませ!!」



 ジンクスは王都へ向かう前に、一旦ホークスハイム侯爵領に帰った。そして、帰ってすぐに屋敷の地下室へと向かったのだ。


 執事は、帰ってきた彼がグランセル公爵家の次男に決闘を申し込んだということを知らなかったが、彼が向かう先に非常に危険なものが保管されていることは理解していた。


 そのため、必死の説得を試みたのだが、ジンクスの足は止まることはなかった。



「もう決めたことだ! 執事であるお前などに構っておられん!」



 そう言って、執事の注意に全く聞く耳を持たないジンクスは、地下室の一角に飾られている一振りの剣を手にする。それは禍々しいオーラを放っていて、常人ならそれを手にしようとは考えないはずだ。


 しかし、今のジンクスにはそんな理性は持ち合わせていない。



「これさえあれば……」



 剣を手にした途端、ジンクスを万能感が包み込む。

 この剣こそが、魔術師として国の中でもトップクラスの実力を持つベルに対抗する唯一の希望だったのだ。


 しかし、ジンクスの感情は徐々にその剣によって浸食されていく。もともとのベルへの嫉妬、憎しみといった負の感情は増幅し、醜い感情が彼を支配する。



「ベル・グランセル……。お前の吠え面が目に浮かぶぞ!!」



 血走った眼は、王都の方を向いており、これから戦うことになる天才を打ち負かすという妄想が彼のなかで繰り広げられていた。

 そしてジンクスは、奪われた初恋の人をこの手におさめ、手籠めにしている自分の姿を思い浮かべるのだった。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!




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