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5話 魔法を使いたい!





 ニーナの行っていた深呼吸を真似することで、体内での魔力の生成とその魔力を循環させ、体内外の魔力を感じ取れることに成功したアルであったが、魔法を使うという段階までは別の問題が立ちふさがっていた。


 母やメイドたちが魔法を使用する場面に立ち会ったことは何度もあるが、母やメイドたちは「詠唱」を行って魔法を発動させていた。しかし、今のアルは言語を発することはできないので、そもそも「詠唱」を行うこともできない。また、詠唱部分はなぜか聞き取ることができず、魔法を使うにはまだまだ段階が必要なようだった。







 魔力の管を体中に巡らせることに成功してから、さらに三か月ほど経った。


 前世での赤ちゃんの時の記憶なんてあるわけがないので、成長スピードは分からないが、おそらく普通の赤ちゃん並みの成長スピードではきているだろう。



 三か月経っても対して変わったことはない。


 眠気が急に襲ってくることも減ってきたし、活動時間も長くはなったが、未だ短いうめき声のようなものを出せる程度で、発声までは至っていない。


 そして、周囲の監視も未だ厳しいため、好き勝手行動することもできない。本来ならこの部屋にある本をすべて読破し、屋敷中の本を読み漁りたいくらいだが、それができるようになるのは一体いつになることやら。




 しかし、一つだけ大きく変化したこともある。


 母やニーナが本を読み聞かせるようになったのだ。勿論、アルに本の内容を理解させようなど思っていないだろう。


 『地球』にも、赤ん坊の頃から洋楽を聴かせたり、本を読み聞かせたりする英才教育はあったのでその類のものだと思うが、アルにとって、その行動が一番ありがたいことだった。


 なぜなら、なぜか話す言葉は理解することはできるのだが、本に書かれている字をちらっと見たところ、そこに書かれていたのは初めて見る言語だったからだ。

 そのため、母やニーナが読んでくれる本の内容を覚えてさえいれば、字を理解しやすくなり、すぐに他の本も読むことができる。


 ……まぁ、それとは別に、本棚にある本たちがどんな内容なのか気になっていたのもあるのだが。




 メイドのニーナとて、常にアルのそばにいるわけではない。


 離乳食を作るのもニーナの仕事のようで、ご飯の時間帯になると一旦いなくなる。時間にして大体10分くらいだろうか。大体は他のメイドさんが代わりにいるのだが、いないときはアルの勉強タイムであった。


 さっきまで読み聞かせてくれていた本を開いて、字の勉強を始める。そして、ニーナが本を取り上げるまでの間、アルはさっきまで読んでいた部分の解読を行う。これがアルが唯一行える勉強方法だった。



 そんな生活を一か月ほど続けると、何となく単語や文法などを理解することができるようになった。


 勿論、本によって書式や文章の構造、本の描かれた年代ごとによる言い回しなども存在するため、他の本との比較は必要だ。しかし、母たちが読んでくれているこの本はかなり分厚く、次の本を読み始めるのは一体いつになることか。


 仕方ないので、好き勝手動けるようになるまでは我慢することにした。




 魔法を発動させることは未だできていないが、毎日欠かさず魔力を循環させることはしている。


 一日や二日ではそこまで変化を感じることはできなかったが、今では最初より多くの魔力が体の中に存在することを実感できる。


 魔力を循環させているだけなのだが、魔力を作り出す臓器の活発化や魔力を通している管が毎日循環させることで強くなっているのではないかとアルは考えている。


 より細かい数値を確認できたらいいのだが。



 アルは、どうにか魔力の数値を測ることができないか思案を続けていた。


 そんな時、ニーナの動きに少し疑問を覚えた。母が部屋に来た時、母とニーナは時折魔法の話をする。母は魔術師だったのか、ニーナの呼吸法にいくつかアドバイスを送ったり、その成果を尋ねたりしていた。


 アル自身、魔法に興味津々だったためその話を盗み聞きしていたのだが、二人の視線がたまに右斜め上のあたりへ行くことがあった。


 アルには何も見えなかったが、おそらくそこに何かを出していることは間違いなかった。



 結果的に言うと、そこにはステータスが出ているようだった。


 魔力やスキルといった話の際に、二人の視線が右へ動かしながら会話をすることがしばしばあった。そこにステータスウィンドウのようなものを出し、書かれている数値を見ているのだろう。


 アルも何とかそれを出現させられないか思案した。これに関しては、母やニーナが「詠唱」を行っている場面を見なかったので出来そうな気がしていたが、頭の中でイメージしても、心の中で「ステータス!」と叫んでも出現させられなかった。


 これも魔法なんだろうか。それとも他に何か見落としている?







「レオナルド様がいらっしゃいました!」



 いつものようにニーナの読む本を聞いていると、扉の向こうでそんな声が聞こえてきた。

 


 ──なるほど。それで今日は外が騒がしかったんだ。



 ニーナにもその声は聞こえていたようで、本を閉じて本棚へ仕舞ってしまう。そして、部屋の扉を開け、部屋の外で待機する。……あぁ、読書の時間が。


 父であるグランセル公爵が久しぶりに帰ってきたのだから、ニーナの行動は全く持って真っ当なのだが、読書家のアルにとっては少し残念な気持ちになった。


 もうそろそろあの分厚かった本も最終部分に差し掛かっていて、今日明日にも読み終えてしまう。といっても、アルは先にその本を最後まで読んでしまっているのだが。





 アルが読んでもらっていた本は、この世界のおとぎ話だった。


 この世界の名前は「アルトカンタ」。


 そして、今より3000年以上前に世界を滅ぼす存在である「魔王」がこの世界に誕生した。魔王は配下を従えて西から徐々に世界を侵略していった。侵略戦争ではたくさんの人間の命が失われ、それまでに発展してきた文化は跡形もなく消え去っていった。


 そんな時、東の果ての貧村で勇者が誕生した。また、北の端の教国からは聖女が誕生し、魔王の臣下によって滅ぼされた西の村から魔族と人間のハーフである魔導士が、南の小島から剣聖が相次いで誕生し、世界の真ん中にある「盟主の王城」へと各々侵攻していった。



 本のなかでは、彼らの冒険譚や魔族との激闘、そして最後には彼らの四人が共闘することで魔王の討伐を成し遂げたと描かれていた。


 お話としてはよくできているし、子供に読み聞かせるにはいいかもしれないが、いくつかの突っ込みどころのある話であった。


 例えば、なんの繋がりもない彼らがどうして同じタイミングで侵攻を開始したのか。そして、なぜ彼らは出会ってすぐに共闘できたのか。


 タイミングに関しては偶々ということもあり得る。しかし、魔族とのハーフである魔導士と急に共闘するなどあり得ない話だ。



 しかし、アルはこの話こそこの世界の歴史を忠実に描いているのではないかとも感じた。


 なぜなら、物語に登場する神の名が「アルバス」だったからだ。






 グランセル公爵は王室からのおぼえもよく、基本的には王都で生活していることが多い。


 公爵領の仕事は、基本的に長男のガンマが執政官としてこなしており、公爵領に帰ってくることはほとんどないらしい。最後に公爵領に帰ってきたのは、アルが生まれたばかりの時らしいが、アルにはその時の記憶がなく、レオナルドの顔すら見たことがなかった。


 読書の時間は割かれることになるが、父親と会うことができるのだから、我慢しよう。


 そんなことを考えていると、一人の男性が部屋に入ってきた。


 上等な礼服に身を包んだ長身で綺麗な金色の髪。ゆっくりと歩いてくる男の姿や表情、所作すべてに気品があり、アルと目が合うとニコッと笑顔を見せた。その笑顔は人を一瞬で虜にさせるほどのものであった。



「──アルフォート。本当に大きくなったね」



 そう言ってアルの頭をなでる。その手は大きく、それでいて暖かかった。その暖かさは、奏多の祖父である源三と重なった。奏多が何かいいことをすると、源三は決まって頭をなでてくれた。そしてそのことが嬉しくて、いい子であり続けようとしていたのだ。



 ──なんだ、僕って自分のために生きてきたんじゃないか。



 全く関係ないレオナルドの行動によって、アルは前世で抱え続けていた頭のモヤモヤを少し取り除くことができた。


 レオナルドは大きくなった我が子を愛でるためにそうしたのだろうが、アルは彼に感謝した。


 アルとして転生した奏多は、未だ祖父母の死からは立ち直れていなかったが、少し回復の兆しが見られたのだった。





 それからすぐに母が部屋に入ってくる。


 母は「どうして、先に私の部屋へ寄ってくれないのか!」と少し拗ねており、レオナルドは苦笑いを浮かべながら謝罪する。


 それでも尚拗ねていた母であったが、父が母へ用意していたプレゼントを渡すと、頬がほころび、いつもの優しい母に戻っていた。



 さすがは百戦錬磨の公爵様。


 おじいちゃんなら土下座して許しを請うところだっただろう。




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[一言] >母は「どうして、先に私の部屋へ寄ってくれないのか!」 0歳児の実の息子に嫉妬する母親とかヤベー奴じゃん 虐待とかしそう
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