50.5話 ユリウス冒険譚(5)聖女編
※今回は「ユリウス冒険譚」の続編になります。
飛ばして読んでいただいても本編には影響がないようにしておりますので、興味がない方は飛ばして読んでください。
北の大地に一人の女の子が産まれました。
かつて「アルトカンタ」には大陸の中心にとても栄えた街があって、その街から東西南北に小さな国のような存在が点在していました。
東の大地には勇敢なものが多く自然豊かな地が広がり、西には魔法に長けた学者肌の人間が多く、南の大地は海に面していることもあり、自由な雰囲気が漂っていました。
そんななか、北の大地は北方には氷海が、西には大きな森が、東には高い山が聳え立っており、中央に向かう道以外では孤立した土地でした。
そして、魔族の進行によって、中央への道も閉ざされてしまい、完全に孤立した地となっていました。
しかし、そんな地だからこそ人々は協力し合いながら生きていました。
彼女の名前はフィオネ。彼女は生まれながらにして、膨大な魔力を持つ特異な存在でしたが、その整った容姿と行使する「光魔法」によって、「聖女」として崇められる存在でした。
また、北の大地は唯一魔族からの被害が少ない地であったことも、彼女を崇拝する者たちが増える原因でした。
「聖女様、この間はありがとうね」
「聖女様のおかげで、また歩けるようになりました!」
「聖女様、万歳!」
彼女は困っている人を見ると、自分がどんなに大変でも、どんなに急いでいても、手を差し伸べました。
そんな人柄も相まって、フィオネは「聖女」として着実に成長していきました。
そんな生活を送っていた聖女フィオネに、彼女の人生を大きく変える一つの転機が訪れます。
聖女フィオネは毎日神に祈りをささげるという日課がありました。
彼女がいつもの様に神像へ祈りをささげていると、いつもは聞こえるはずもない神の啓示が突然降りてきたのでした。
『聖女フィオネ、東へ向かうのじゃ。東に其方が導くべき者が待っておる』
神の啓示はそれだけで、彼女はどうしていいものか悩みました。
北の大地は魔族からの被害が少ないとはいえ、彼女がこの地を離れる事をよく思わない人間も多く、彼女は神の啓示に則って行動すべきなのか、それともこの北の大地に住む人々のために残るべきかを悩んでいたのです。
聖女フィオネは、神の啓示があったことを神官長にだけ伝えました。
しかし、神官長は彼女からそのことを聞いて、すぐに即答しました。
「神の御心のままに」
神官長は彼女がこの地を離れられるように取り計らいました。
彼女が考えていた通り、最初は聖女がこの北の大地を離れることに反対する人間が多くいました。しかし、神官長の必死の説得の成果もあり、多勢は「聖女の東の地への訪問」を支持する立場を取ることとなりました。
そして、聖女フィオネは数人の聖騎士を連れて、神の啓示である「東の地」へと進むこととなりました。
彼女を守るために選ばれた聖騎士たちは、神の啓示によって行動しようとする彼女を守護することに奮い立ちました。そして、彼女を無事にこの北の大地に返すことを皆に誓ったのです。
北の大地から東へ進むと、雪で覆われた大きな山脈が続いていました。その山脈は人々に「エントマの氷山」と呼ばれていました。
神の啓示は東の地へ向かい、導くべき存在と会うことでした。
そのためには、この氷山を越えなければならないのです。
しかし、お供として付いてきていた聖騎士たちは、彼女の判断に反対します。それはそのはず。この氷山を越えられた者などいないと言う噂話があったのです。
しかし、聖女フィオネは諦めません。
「貴方達はお帰りください。ここからは私だけで進みます」
聖女フィオネは、彼らにそう言いました。
女の子一人でこの氷山を越えることは不可能でした。しかし、神の啓示があったからにはここを越えなくてはならないと聖女フィオネは考えたのです。
女の子の覚悟に、聖騎士たちは再度奮い立ちます。
聖女一行は、まだ誰も越えたことがないと言われている「エントマの氷山」へと進んで行ったのでした。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
少し短い話でしたが、今回は聖女について書かせてもらいました。ここまで勇者、魔導士、聖女と三人の話を個別に書いてきました。次回は、剣聖の話か勇者、聖女の続編を書かせてもらうつもりです。