50話 親心の差異
「──どういうことだ!?」
王都にあるホークスハイム侯爵の屋敷に、ある一つの知らせが届いていた。それは、彼の息子であるジンクスによるもので、侯爵はその知らせの内容に頭を抱える。
「何故! よりによって、グランセル公爵領へ向かうとは……。それに……」
手紙のなかには、グランセル公爵家次男のベルに決闘を申し込んだという旨と、決闘における両者が賭けるものについて書かれていた。
決闘そのものは百歩譲って許せる。しかし、その賭けの内容こそが問題だった。
「これでは、我らが悪評を流したのだと認めるようなものだ。それに決闘に勝利したとしてもこちらの旨味はほとんどない」
確かに、第3王女を得られる利点は大きい。しかし、それは正当な手段で婚約が執り行われた場合だ。
決闘によって婚約者を奪うという行為は、貴族社会においてあまり褒められた行為ではなかった。正式な決闘ということもあって、その行為に法的な問題は無いが周りからの非難は必ずあるだろう。
また、決闘によって婚約者それも王女の婚約者の権利を奪うというのは、王家の婚約者選定を真っ向から批判しているようなものだった。
裏から攻撃することで、何とか第5王女との婚約話が決まろうかという現状において、この決闘はホークスハイム侯爵家にはマイナスでしかなかった。
「ジンクス……!」
ホークスハイム侯爵は、決闘の為に王都へ向かっている我が子のことを親の仇を見るような表情で待つことになったのだ。
◇
「──レオナルド様!」
ホークスハイム侯爵家に知らせが届いたのと同時に、王都のグランセル公爵邸にも同様にベルから手紙が届いていた。ベルからの手紙を受け取ったセバスは、手紙の内容は分からないが、非常に重要な手紙であると考え、急いで主の元へそれを運ぶ。
普段は落ち着いた行動をとるセバスが、焦った様子で部屋に入ってきたことにレオナルドはことの重要性を感じ取る。
「セバス、何かあったのか!?」
「それが……、ベル様から知らせが届いておりまして!」
セバスはレオナルドの質問に嬉しそうに手紙を彼に見せる。
「それは本当か!?」
レオナルドはその手紙をセバスから受け取りすぐに目を通す。そこには綺麗にしたためられた字でびっしりとこれまでの経緯やこれからとる行動についてが書かれていた。
そして、ホークスハイム侯爵家の長男であるジンクスから決闘を申し込まれ、それを受諾したということやホークスハイム家が裏で世論を煽っていたという根拠になりうる資料が同封されていた。
手紙の内容や同封されていた資料に目を通したレオナルドは、その内容に目を大きく見開いて驚く。
「……セバス、すぐに謁見できるように王家へ連絡を」
レオナルドは同封されていた資料をセバスに託し、王家との連絡を取るようにと指示を出す。それほどに、その資料の信憑性は高いものであった。
「分かりました!」
セバスは資料を受け取り、すぐに部屋を後にする。レオナルドは一人部屋に残され、ベルから送られてきた手紙をずっと眺めていたのだった。
手紙を読み続けてどれくらい経っただろうか。レオナルドは時間の感覚が分からなくなる程に集中してその手紙を読み続けていた。
そんな集中も扉がノックされる音で遮られる。
「……貴方、入ってもよろしいですか?」
「あぁ」
部屋に入ってきたのはカリーナだった。このタイミングでレオナルドの部屋にやって来たということは、セバスからベルの話を聞いたのだろうとガンマは予想していた。
「……ベルから知らせが届いたとか?」
レオナルドの予想通り、ベルからの手紙の件で部屋を訪ねてきたようだった。
レオナルドは、カリーナにベルから送られてきた手紙を渡す。渡された手紙に目を通した彼女は、レオナルドと同様に驚きを隠せなかった。
彼女の知る息子は、幼少期の出来事から何に対しても冷たく当たるような性格になっていた。そのため周囲の人間は彼に対して協力などしようはずもなく、常に孤独な子供だった。
しかし、知らない間に彼は成長していた。
「私は彼らを侮っていたようだ。ベルは私よりも素晴らしい仲間を手にしていたようだね」
レオナルドは、今にも泣きそうな顔をしていたカリーナにそう言う。
ベルは頼るべき相手を自分で見つけ出したのだ。そして、その相手が兄弟であることを二人は理解していた。
「……また、あの子に会いたいわ」
カリーナは、ある男の子を思い出しながらそう呟く。その男の子とは一度しか会ったことはないが、おそらくあの子がわが子を救ってくれたのだと勘づいていた。
「すぐに会えるさ。全てが終われば、必ずね」
レオナルドは来たるべき将来を思い描きながら、刻一刻と迫るその時を待つのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は両家の親の心境を書かせてもらいました。この違いが息子の未来を変えているだろうことは間違いないでしょうね。




