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48話 推理とこれから




 状況は刻一刻と変化し続けているなか、グランセル公爵領ではアルによる今後の方向性が語られようとしていた。



「──では、僕の考えをお話します」



 アルは冒頭にそう付け加えて、今後の話を始める。



「まず、ホークスハイム侯爵の目的ですが、十中八九王家との血縁関係を作るということでしょう」



 ホークスハイム侯爵の行動や意図の根本には、先代の失敗を取り払うべく目に見える手柄と資金が必要であるとという目的がある。しかし、領地の近くに冒険者たちが恐れる『魔の森』がある以上、冒険者は勿論、商人たちも好んで領内に入ってくることはない。


 また、侯爵はあまり有能な人物とは言えなかった。


 先代と同様に、領内の問題を何とか解決しようと努力はしていたが、その結果が市民に重くのしかかった重税と商人たちを苦しめる重い関税だった。


 そのことから、王家との繋がりを作るというのは彼らにとって手柄と資金の両方を手に入れる一番の近道だったのだ。



「第3王女との婚約が成功すれば一番。もし失敗しても、ベル兄様の評判を下げることで他の王女との婚約を画策するでしょうね」


「現在婚約者が決まっていないのは──」


「第5王女と第6王女だね」



 王女たちのなかで、ホークスハイム公爵が一番に欲していたのは第3王女だろう。


 現王から寵愛を受けている第3王女を降嫁させたとなれば、大きな手柄であり補助金として多額の資金援助を受けることもできる。しかし、第3王女がベルと仲が良いという点から、侯爵は早々に標的を変更したのだ。


 現在、王女の中で婚約を発表されていないのは第5王女と第6王女のみ。第6王女はアルと同じ年なので未だ11歳。そうなると、侯爵が標的とするのは……。



「おそらく、今年学園を卒業するという第5王女との婚約が有力でしょうね」


「しかし、それを王家は了承しますか?」



 学園を卒業とともに婚約発表。一番有り得るシチュエーションだ。


 確かに、王家からすれば第3王女の婚約者候補となった者を妹である第5王女の婚約者とするのは、対外的にも忌避感を感じるだろう。しかし……。



「王家は了承するでしょうね」



 アルはそう断言する。普通に考えれば避けたい状況だ。しかし、王家はその要求を受け入れるしかないとアルは考えていた。



「ベル兄様の評判を意図的に下げたのは王家への攻撃材料とするためです。おそらく、今頃様々な方面から王家へ忠言という名の抗議文が届いていることでしょうから」



 そもそも、侯爵の攻撃対象はベルではなく王家だ。国王が現状をどの程度理解しているかについて、アルには知りようもないところだが、今のベルの現状を見る限り全く理解していないか、理解していて敢えて泳がせているのかのどちらかだろう。


 つまり、この話は飲む可能性が極めて高かった。



「なるほどね。じゃあ、アルはこの現状にどう対応すると?」


「そうですね……目には目を歯には歯を、でしょうか」


「……?」



 対応策について説明を求めたガンマだったが、アルからの返答は非常に抽象的な内容だった。


 質問したガンマは勿論、部屋のなかにいるすべての者がアルの答えに対して疑問を覚える。「目には目を歯には歯を」は、アルの前世においては有名な言葉であるが、この世界ではそんな言葉は存在しないからだ。


 皆がきょとんとしているため、アルは一つ咳ばらいをして話を続ける。



「ベル兄様、ホークスハイム侯爵家の長男であるジンクスさんとは同級生だそうですね?」


「ああ。同級生といっても話したこともないがな」


「そうですか。ベル兄様はジンクスさんに何の印象も持っていないようですが、向こうは違うでしょうね」


「──それはどういう意味ですか?」


「ジンクスさんは以前第3王女へしつこくアプローチしていたそうですね。おそらく、第3王女への執着心は相当のものだったでしょう」



 アルがジンクスの事を調べたなかで一番気になっていた点は、彼の王女への強い「執着心」だ。おそらく、彼は父親のやっていたことは理解していただろう。そんななかで、彼が協力的だったのはその執着心によるところが大きいはず。



「確かにそう聞いているけど。流石に政略結婚にまで反対するかな?」



 ジンクスの第3王女へのアプローチに関しては、大勢の前でのことであったため、かなり有名な話だった。しかし、貴族としての教育を受けていたジンクスが、現在のホークスハイム侯爵家の立場と政略結婚とを天秤にかけて反対する方向に(かじ)を切るとは思えない。



「それははっきりと明言できません。しかし、少なくない不満を抱えているのは確かでしょう」


「……つまり?」



 ジンクスの性格までは、実際に会ったことのないアルでは把握することは出できないが、これまでの行動から予想すると猪突猛進な後先考えないタイプの人間だろうとは推測できる。そうでなければ、大勢の前で王女にアプローチするなどできないはずだ。


 そんな人間が、父親の決定に一切の不満を感じていないとは考えられない。必ず何かしらの不平不満を胸中(きょうちゅう)に抱いているはずだ。


 アルは、ガンマの問いかけに大きく息を吸い込み、一瞬の間を作る。



「ジンクスさんとホークスハイム侯爵とを仲違いさせます。侯爵の計画には長男の協力が絶対に必要となります。つまり、攻撃すべきは侯爵自身ではなく、その息子であるジンクスさんのほうです」







「──なぜ! なぜなのだ!!」



 王都へ向かっているはずの息子を追いかけていたホークスハイム侯爵だったが、その息子には一向に追いつく様子がない。すぐに追いつけるだろうと考えていた彼はなかなか思うようにいかない現状に、(いきどお)りを(つの)らせていた。


 しかし、馬車で移動しているはずの息子を馬に乗って移動してきている侯爵が追い付けないなどあり得ない話だ。ホークスハイム侯爵は、少しずつではあるがジンクスの行き先に関して疑いを持ち始める。


 そして、一つの答えが頭の中に浮かぶ。



「もしかして。あやつ、王都へ向かっていない……?」



 その答えに辿り着いたホークスハイム侯爵だったが、ここまで来て引き返すわけにもいかない。自分の息子がどこへ向かっているのかと考えた時に、公爵は王都以外の選択肢はないと思っていた。これから引き返したとしても、また一から考えなくてはならない。



「とりあえず、王都まで行くしかあるまい。……くそ、手間をかけさせよって!!」



 ホークスハイム侯爵は目的地を変えることなく、王都へ向かうことにした。王都以外であれば筋道に大きな変化は起こらないだろうと考えたのだ。


 しかし、侯爵の思惑は意外な形で崩れ去ることになる。



「……ふん。ここがグランセル公爵領首都の『ユートピア』か。気に入らんが、我が領より栄えているようだな」



 一人の青年がグランセル公爵領の首都である「ユートピア」の街に辿り着いていた。その青年は目の前の街の繁栄ぶりに自領の景色とを重ねる。


 彼の目から見ても、その差は歴然だった。



「ベル・グランセル……。待っていろ!」



 青年は、ここに来た目的である一人の男の名をつぶやき、ここまで移動してきた馬車に乗り込む。馬車はすぐに移動を再開し、もうすぐ街の検問所に辿り着こうとしていた。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

今回も続編ですね。


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