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43話 兄弟からの手紙




 第3王女の婚約話は、すぐにグランセル公爵領にまで広がってきた。そして、その相手が自領で評判のよくないベルであったことも。


 市民の間では、ベルの悪い噂話まで立ち始める始末だった。

 「現王の秘密を握って婚約を勝ち取った」だの「他の候補者を蹴落とした」などの根も葉もない噂話が飛び交うなか、それを真実と思い込む人間も少なくないという。



「──以上が報告です」


「お疲れ様です。……やっぱり、思った通りでしたか」



 いつものように、街の情報をニーナに探らせてその報告を受けたアルは、彼女の口から出てきた文言に深いため息をつく。



「アルフォート様は陰でベル様の悪評を流す輩が出てくることを予想していたのですか?」


「うん。ベル兄様は……ちょっと評判がよくないからね。これがグランセル領内だけなら話は簡単だったんだけど」


「ええ……もう国中に悪評が流れているようです」



 ニーナが王都からやって来た商人たちに話を聞くと、王都からこの町までの道すがら、同様の噂話を耳にしたことがあるという。

 おそらく、自領で評判が良くないということは以前から噂されていたのだろう。

 そのうえ、今回のような根も葉もない悪評が流れこんだ。信じ込みやすい地盤が既に形成されていたことが相乗効果となり、これほど早く噂が国中に流れていったのだろう。



「父上たちはこのことを?」


「もうご存じだと思いますよ。私が街に行った時に騎士団とクラン様が忙しそうに動いていましたから」


「そうですか……」



  アルとて、今回の件に関しては何とかしてあげたいと思っていた。

 しかし、事がここまで大きくなると以前のような状態に戻すことは不可能。「覆水盆に返らず」とはまさにこのことだ。



 周りの人間ができることといえば、これ以上の悪評が広まらないように情報規制をかけるという方法だろう。


 しかし、この方法は少数にしか情報が流れていない状況ならばある程度の効果が望めるが、ここまで広い範囲で情報が広がってしまっているとなると大きな効果は期待できないだろう。

 逆に、情報規制をかけることで、あたかもその情報が事実であるかのように誤解されることも考えられる。



 あとは、ベル自身が何か手柄を立てることだ。


 元をたどれば、ベルの自領での評価が著しく低かったという点がこの悪評を信じ込ませている要因としてあげられる。そこを変えない以上、これからも幾度となくこのような状況が作り出されることになり得る。


 つまり、ベル自身が周囲を納得させるような手柄を立てることで、その根本的な悪評を取り払うということだ。



「やっぱり、ベル兄様次第かな……」







 アルが王都にいる兄を思って頭を悩ませている時、ベルは王城で国王陛下に拝謁(はいえつ)していた。


 (きら)びやかな王城のなかでも、謁見(えっけん)()はとりわけ豪華な造りになっている。

 勇者ユリウスが建国したという伝統を重んじ、誇り高くあれという教えがこのような豪華な建物を維持させている。


 ベルは真っ赤な絨毯(じゅうたん)の上を進み、王の待つ玉座の前で(ひざまず)く。



「ベル・グランセル。王様にご挨拶申しあげます」


「そんな前置きはよい。お前を呼んだ理由は理解しておるか?」



 国王は拝謁しにきたベルにそう尋ねる。ベルは跪いた状態のまま、国王の言葉を聞く。



「……はい。理解しております」



 王都で根も葉もない悪評が流れていることは当人であるベルも知る所だった。国王がベルを王城に呼んだ理由など、それ以外には思いつかなかった。



「そうか。──して、お前はこの状況をどのように乗り切るつもりだ?」


「……」



 国王の言葉にベルは返答できない。

 悪評を否定するには、もはや事が大きくなり過ぎていた。いや、悪評が流れるスピードが異常であった。すでに対策を打つことができない状況にまで(おちい)っており、国王の言葉に適当な返答すらできないほどだった。



「……はぁ。もうよい、下がれ」



 何も答えられないベルに国王はため息をつき、謁見の間から出るように指示する。


 ベルは国王に礼を返し、謁見の間を後にする。

 煌びやかな部屋が彼の現在の状況を浮き彫りにし、彼はこの場からすぐにでも立ち去ってしまいたいとまで思っていた。



「……どうすりゃいいんだよ!」



 ベルは誰もいない王城の廊下でそう呟いた。







「おかえりなさいませ。ベル様」



 屋敷に帰るとセバスがベルを迎える。

 長く公爵家に仕えてくれている使用人であるセバスのことはベルもある程度信頼しており、彼の顔を見て少し安心していた。



「アルフォート様からお手紙が届いております」



 セバスはベルと一緒に屋敷のなかへ入ると、懐に忍ばせていた手紙をベルに手渡す。



「……そうか」



 ベルは一言そう言ってセバスから手紙を受け取ると、すぐに自分の部屋に戻る。

 セバス以外の使用人はそこまで長く仕えてきた者たちではないため、屋敷のなかで心落ち着く場所は自室だけであったからだ。



「アルからということは、前に書いた手紙の返しだろうな……」



 以前、婚約話が決まってすぐにアルに手紙で報告しておいた。

 別に弟へ報告しなくてもいい話ではあったのだが、なぜかアルにだけは報告しておこうと思い立ったのだ。



 しかし、今や状況が変化していた。

 おそらく、今日手紙が帰ってきたという事は噂話が流れる前に書かれたものだろう。



 ベルはそんなことを思いながら、弟からの手紙を開く。




──────────────────────────



 ベル兄様



 お手紙拝見いたしました。

 僕も元気ですし、母上や兄様も元気にしております。


 まずは、ご成婚おめでとうございます。心から祝福申しあげます。


 ただ、これからベル兄様は厳しいお立場になられる可能性が高いと思います。

 おそらく根も葉もない噂話が後を絶たないでしょう。


 できる限り噂話が広がらないように手を打つべきかと思いますが、

 それだけでは収まらないかもしれません。


 もしそのような状況になった場合、

 グランセル公爵領に一度お戻りになってください。


 折り入ってベル兄様にご提案したいことがあります。



アルフォート



──────────────────────────




 ベルは弟から送られてきた手紙の内容に驚く。



 確かに、以前から年の割に賢い子であった。

 しかし、自分ですら予想できなかったこの事態をアルが予想していたことに驚愕の念を覚えずにはいられなかった。



 アルの手紙には、「自領に戻るように」とあった。


 ベルにとって、このタイミングで自領に帰ることに対して忌避(きひ)感を感じずにはいられない。

 おそらく、王都よりもグランセル公爵領内のほうがベルへの風当たりは強いだろう。そんな場所へ自ら向かうというのは正気の沙汰(さた)ではなかった。



 しかし、ベルはアルからの手紙を持ち、すぐに王都を後にしたのだった。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


全開に引き続き、今回も作者お気に入りのベル回です。


可愛い子には旅をさせよ!ベルの平穏を祈りながらも、あえていばらの道を用意しました。これからどのような展開になるか楽しみです。



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