41話 お茶会と友人
「──お茶会ですか?」
「はい。オリオール伯爵家で催されるお茶会への招待状が我が家に届きまして。来年学園に入学する方をお招きしているようです」
アルの屋敷にやってきていたアリアは、お茶会に招待されたことを伝える。来年学園に入学する予定の者達で、事前に良好な関係を築こうという今回の催しは、これから始まる学園生活を円滑に過ごすためには、かなり重要かつ最良の行事と言える。
「とてもよいことだと思いますよ。学園入学前から仲の良い友人を作れたら素敵ですね」
「そうなのですが。……あの、アルフォート様も一緒に行かれませんか?」
「──え?」
アルとアリアでは一学年の差がある。つまり、来年学園に入学する者同士で交友関係を築こうという趣旨に、アルは反する存在だ。しかし、アリアとてそのことは理解しているだろう。
「もしかして、自信がないのですか?」
「!?……実はその通りです。アルフォート様とはこうしてお話しできるのですが、他の方とは上手に会話ができなくて……。今回のお茶会も失敗してしまうかもしれません」
アリアは伏し目ぎみに不安を吐露する。
アリアは自分に自信を持てない原因は、おそらく優秀な姉の存在が大きいのだろう。姉のステータスについては「鑑定眼」で鑑定していないので何とも言えないが、アリアのステータスとて、常人のそれからは大きく逸脱するものであるのだが、当の本人は自分の稀有な価値に気が付いていないようだ。
そして何より、彼女には通常では得難い純粋さがある。
「大丈夫ですよ。アリアさんは自分らしく行動すればいいんです」
「アルフォート様……」
「今、僕と話しているように彼らと接してみてください。そうしたらすぐに友達ができますから」
「ふふ、アルフォート様からそのように言われますと、不思議と大丈夫な気になれます。本当に、貴方は……」
アリアは一日グランセル公爵家に宿泊して、明日には自領へ戻る。お茶会については参加する気になったようで、友達ができたらアルにも紹介すると言って帰っていった。
◇
「初めまして! 私、ノーラ・ビクトルです!」
「初めまして。僕はグランセル公爵家3男のアルフォートです。アルとでも呼んでください」
「じゃあ、アル君で。よろしくね!」
「ノ、ノーラさん!?」
アリアからお茶会の話を聞いてから、大体一ヵ月後くらいだろうか。アリアから手紙が来た。
お茶会の結果は良好で、何人かとは親しく話せたようだ。お友達と呼べる存在もできたと手紙には書かれていた。そして、その手紙が来てからすぐに友人を紹介したいとの知らせが届いた。──そして今に至るわけだ。
「アリアさんも、アルでいいですよ。アリアさんのほうが年上ですしね」
「そうだよ! アリアは年上なんだよ?」
知り合ってかなり時間が経っているが、アリアはずっと「アルフォート様」と呼び続けていた。何度か「アルと呼んでいい」と伝えてはいたが、アリアは頑なに呼び方を変えなかった。しかし、今日知り合ったばかりのノーラの呼び方を聞き、心が揺れている様子。ノーラもアリアの呼び方に違和感を覚えていたのか、アルの言葉に同意する。
「で、では、ア、アル様と呼ばせてもらいます」
「えぇ~!? まだ様付けなんだ」
「そんな、急には変えられません……」
恥ずかしがり屋のアリアは「アル様」と呼ぶだけで顔を真っ赤にして照れてしまっていた。その様子をみて、ノーラは満足したのかそれ以上は追及することはなかった。
「それにしても、アル君とアリアって仲がいいんだね」
「ええ。二か月に一度は会う仲ですね。僕も同年代の知り合いがほとんどおりませんので、アリアさんは数少ない友人ですね」
「……そうですね。数少ない友人ですね」
──あれ? 急にアリアさんの顔に影が……。
心なしかアリアの表情は浮かない。アルはアリアのことをよき友人だと考えているが、アリアからどう思われているのかについてはあまり考えたことがなかった。アリアの浮かない表情を見て、どのように思われているのか気になるアルだったが、それを問う前にノーラによって新たな話題へと移る。
「ふーん。あ! そういえば、オリオール伯爵の長男の話、アル君にはもうしてるの?」
「ノーラさん!? それは……」
アリアはノーラの発言に取り乱し、更に表情を曇らせる。オリオール伯爵家でのお茶会の話については、全くと言っていいほど聞いていない。聞いているのはせいぜい仲良くなった令嬢との話だけで、それ以外はアリアの口からは何も聞かされていなかった。
「……何かあったのですか?」
「あのねー、オリオール伯爵家の長男、ルーベルト君って言うんだけど、アリアを見て一目ぼれしたみたいでね。お茶会の間ずーっとアリアにアプローチしてたんだよ!」
「ノーラさん! もう、言わなくてもよいことですのに……」
オリオール伯爵家は、近年急激に発言権を強めている新進気鋭な貴族家で、そのオリオール家の長男ということ玉の輿を狙う令嬢からすれば優良物件だろう。
アリアは容姿も優れているし、性格も温厚であり血筋もいい。オリオール伯爵家からすれば、長男の嫁候補として、喉から手が出るほど欲している存在だろう。そして、長男であるルーベルトがそのアリアに恋心を抱いているとすると。近い将来、縁談の話も来ることだろう。
「そうですか。お茶会、行ってよかったですね。ノーラさんのような友人もできたみたいですし」
「え? ……そう、ですね」
暗い表情のまま、アリアは俯いてしまう。
アルは、ただ彼女の交友関係が広がったことに対して反応したつもりだったが、アルに恋心を抱いているアリアには、アルの言葉が自分への無関心を意味すると感じてしまっていた。
当の本人は、自分の言葉でアリアの表情に影ができていることに気が付いていない。しかし、その場で二人の会話を聞いていたノーラは違ったようで、さっとアリアに近づくと、何やら耳打ちで言葉を交わす。何を聞かされたのか、アリアは顔を真っ赤にしてノーラを見るが、ノーラは悪戯に笑ってアリアの背中を押す。
ゆっくりとアルの前に立つアリアは、顔を赤らめながらアルを見つめる。
「──あの、アル様! 私、ノーラさんと仲良くなれたことは本当に幸運だと思っています。でも、アル様と出会えたことが一番の幸運だと思っています!!」
ノーラから何を耳打ちされたのかはアルには聞こえなかったが、唐突にアリアから発せられた言葉に驚いた。アルは、優しい微笑みを二人に向ける。
「お気遣いありがとうございます。僕も、アリアさんと出会えて良かったと思っていますよ」
アルの微笑みと発せられた言葉に、アリアは固まってしまう。
そして、思い出したようにわなわなと目を右往左往させるアリアは、火でも吹き出しそうなほどに顔を真っ赤にさせる。ノーラはその顔を見て、再び悪戯に笑みを浮かべた。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は、アリアのお茶会話です。いやー、アリア本当に可愛いですね!
そして意外と鋭そうなノーラと鈍感な主人公。二人の関係性にも注目していきたいですね。