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37話 優しさの意味




 アルは馬車に揺られながら、窓からみえる景色を眺めている。


 行き道は全く気にならなかった景色の、一つ一つに興味がわいた。



「どうやら、悩みは解決したみたいだね」



 同じ馬車に揺られている同乗人からそう声がかかる。アルは声の主に視線を移す。数日前に、心配そうにアルを見ていた表情を思い出す。



 心配をかけてしまったかな。



「はい。ちゃんと解決しました」


「そうかい」



 レオナルドは憑き物が落ちたように爽やかな表情をしている息子の表情をみて、成長を感じる。


 どんなに賢いとはいえ、アルはまだまだ子供だ。失敗して、それを後悔して、また悩んで……。そうやって人は成長し、相手を思いやる優しい気持ちを手にするものだ。


 レオナルドは、自らの子供の成長からそんなことを思った。



 家に帰ったら、ベルのことも考えなくてはね。



 レオナルドは王都で働く、一人の息子を思いながら馬車に揺られた。







「アル様! このお花は何というのですか?」



 屋敷に来たアリアがアルに尋ねる。


 あの日を境に、アルとアリアは頻繁に手紙を書いて贈るようになった。大抵は「庭に綺麗なお花が咲きました」「そろそろ植え替えの季節ですね」など、いわゆる「庭トーク」というやつだ。


 

 そして、今日に至る。



「これはキキョウですね。夏から秋にかけて咲く花です。花言葉は……」



 花言葉を教えようとしてアルは言葉に詰まる。アルの顔をみて、アリアは不思議そうな表情を見せる。



「──花言葉がどうかしましたか?」


「いえ、何でもないです。花言葉は『誠実』ですね」


「へぇ~、そんな意味があるのですか。とてもお詳しいんですね」



 アリアはアルの博識さに感心する。ただ、アルはそんなアリアをみて、彼女がさっき名前を尋ねてきた花を見返す。


 キキョウの花言葉が「誠実」。でも、それだけではなかった。


 もう一つが「変わらぬ愛」。彼女が意図して尋ねてきたわけではないだろうが、アルはその花言葉を教えられなかった。



 彼女は「キキョウ」を気に入ったようで、一株分けてあげることになった。







「──アル兄さまぁ! 僕にも剣術を教えて!!」



 部屋に遊びにやって来たロンが、急にそんなことを頼んでくる。


 これは……。



「誰かに何か言われたの?」



 ロンが急にこんなことを頼んでくるとは思えない。十中八九誰かから何かを聞いてきたのだろう。



「このまえ、アリアさんがねぇ──」



 ロンの話をまとめると、アルのお披露目会の時の話をアリアから聞いたそうだ。そして、その話のなかではアルの武術の話も出てきて、「アリアさん、『かっこよかった』って言ってた!」ということらしい。


 少し照れ臭いが、ロンが突然頼んできた理由は何となくわかった。



「それにね、みんな言ってるよ。『アル兄さまは()()()()だ!』って。これって誉め言葉なんでしょ?」



 神童は称号なんだけどね。


 でも、使用人の中で悪い印象を持たれていないことが知れてよかった。ただ、ロンの剣術の稽古をするとなると、確認しないといけないことも多い。








「──というわけなんです」



 アルはロンを連れて、アリーナの元へ尋ねた。この時間はロンと一緒にいるか、アルの母親であるミリアと一緒にいることが多い。ロンが一人でやって来たということは、ミリアのもとにいるだろうと思い、ミリアの部屋へ迷わずやってきていた。



「アル君、本当にごめんなさいね。ロン、あんまりアル君を困らせないの!」



 アリーナはロンにそう言う。別に迷惑ではないのだが。


 そう伝えても、少し弱腰のアリーナさんは「いいえ、ごめんなさいね」の繰り返し。聞き役に徹していた母が仲介してくれなかったら、かなり長い時間が経っていたことだろう。



「アリーナ。アルはロンとの時間を作ってあげたいみたいよ」


「お義母様。アル君……」



 アリーナはアルとミリアの顔を交互に見ると、優しい笑顔を見せた。それは聖母ような笑顔だった。



「アル君、ありがとう。……ロンを頼みました!」


「はい! 頼まれました」



 こうして、アルは二人目の弟子を取ったのだった。









「──まずは、好きに打ち込んできて」



 アルは一番短くて軽い、ロンでも扱いやすい木刀を渡すと、少し基本の素振りを教え込みんだ。そして次に、ロンに打ち込んでこいと指示する。



「わかった!」



 ロンはアルに教えられた通りに足を構え、地面を蹴りながらアルの方へ向かってくる。そして、下段に構えられた木刀はアルの胴体を確実にとらえる軌道で振りぬかれる。



ドカッ!



 大きな音を立てて、その木刀はアルの胴体に打ち込まれる。鋭い痛みがアルを襲った。


 そして、その斬撃を繰り出したロンはアルが防御しなかったことに茫然として、自らの手に残る感覚に恐怖を覚える。



「ロン。これが人を傷つける『痛み』だよ。この痛みを絶対に忘れてはいけない」



 アルの言葉に、ロンは顔をこわばらせる。


 相手を傷つけるのは相応の覚悟が必要であり、その痛みを知らない者は武術を学ぶべきではない。これは、アルが最も大事にしているポリシーだ。



「アル兄さま……。痛くない?」



 ロンはアルの体を心配する。やっぱりガンマ兄様とアリーナさんの子供だ。相手を傷つけることへの恐怖だけではなく、相手を思いやる心も持っている。



「ロンはいい大人になるよ。僕が保証するよ」



 アルは、ロンの将来を想像する。別に剣士じゃなくてもいい。ロンはどんな道を進んでも、相手を傷つけることの怖さと相手を思いやる心をなくすことはないだろう。



 それこそが、彼の一番の「武器」なのだから。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は短いお話をつなげたような構成でしたが、楽しんでいただけたでしょうか。


そろそろ、また物語も展開していきますので、楽しみにしていてください!

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