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35話 5年分の後悔




 アルは馬車に揺られながらサントス公爵領へ向かっていた。


 ただ、以前王都へ向かった時とは全く異なる面持ちで、例えるなら死地へ(おもむ)く戦士のようだった。王都へ向かう馬車のなかでは父であるレオナルドに色々なことを質問していたアルだったが、今回の馬車の旅では言葉も少なく、考え込んでいる時間が長かった。


 流石のレオナルドもそんな息子が心配になる。



「嫌なら無理に行かなくてもいいんだよ?」



 レオナルドは優しくそう声をかける。まだ、グランセル公爵領を出て間もないので、他の馬車を借りてアルを帰らせることも可能だった。しかし、レオナルドの提案にアルは首を振る。



「大丈夫です。それに、僕が避けていると()()()にも迷惑をかけますからね……」



 アルは、5年前の少女の顔を思い出す。


 あの時、ちゃんと声をかけてあげられたら。

 別に婚姻話を断ったこと自体にはそれほど罪悪感を感じていない。ただ、断わり方に関しては今でも後悔している。



「そうかい?」



 レオナルドもそれ以上は追及しない。流石はアルの父親だ。自分の子供が何に後悔していて、どうして今回の話を受け入れたのかは理解していた。


 その旅中、アルは静かに考えを深めていた。







 サントス公爵邸があるハーネスという町に到着したのは、グランセル公爵領を出て一週間と数日後だった。


 その間、アルは色々なことを考えていた。そして、たった一つの答えを導き出す。



 アルは意を決して馬車を降りた。






「レオナルド様、アルフォート様、お待ちしておりました」



 門をくぐるとすぐに、サントス公爵家の使用人たちが接待してくれた。


 馬車の旅ということもあって、一応先ぶれを出していたとはいえ、スピーディーで的確な接待に、サントス公爵家の使用人の質の高さがうかがえる。



 レオナルドは事前にサントス公爵と話したいことがあるらしく、別行動をとることになった。数人の使用人がレオナルドを案内しながら屋敷のなかへ入っていく。


 アルも残ったサントス公爵家の使用人とレオナルドの後を追うように屋敷のほうへ歩き出す。しかし、その道の途中である物がアルの目に飛び込んでくる。



「……とても綺麗に整備された庭ですね」



 アルは綺麗に整備された庭に目を奪われた。そして、無意識のうちにそう呟いていたのだ。



「えぇ。あの庭はお嬢様が丹精込めて整備している庭なのですよ」


 

 使用人は誇らしげにそう伝える。アルは使用人の言葉を聞き、ようやく自分が感想をつぶやいていたことに気が付いた。



「お嬢様というと……」



 アルは、頭のなかで一人の少女を思い浮かべる。少し抜けていて、迷子になっていた少女。そして、気落ちし今にも泣きだしそうなその顔を。



「5年前からですかね……。庭師に頼み込んでアリアお嬢様が庭の整備に熱心になられたのは」



 おそらく、この使用人はアルとアリアの関係性を知らないのだろう。それ故に、アリアのことを本当に慕っているのだとわかる。



「そうですか……」



 アルは笑顔を作る。半分は使用人に勘付かれないように。そして半分は……。







「──貴方がアルフォート君ね」



 アルが使用人に案内された部屋には先客がいた。いや、この場合は先()とは言えないかもしれない。



「初めまして。マリー様」



 アルは目の前の美少女の正体を早々に言い当てる。マリーは、アルの態度に不服なのかぷくーっと頬を膨らませる。



 ロンみたいだ……。



 アルは少し前に見たロンの表情とマリーの表情とが被り、クスっと笑う。



「──っ! まぁ、いいわ。さて、君を呼んだ理由は理解しているのかしら?」



 アルの笑顔に一瞬動揺を見せたマリーだったが、すぐにお澄まし顔顔に戻す。


 アルを呼んだ理由。それは大体想像はできていた。







 パーティーが始まると、アルは会場の端で待機する。


 これは、今日のパーティーの主役からの命令だ。



『──いい? 貴方、パーティーが終わるまで目立つんじゃないわよ?』



 あの後、マリーと少し話をして部屋を出ていく際そう命令を受けた。以前聞いた話では、サントス公爵家の長女は完璧超人と聞いていたはずなのだが。



 アルは命令通り、目立たないように他の貴族たちの給仕をしたりする。参加者から見れば、子供の使用人だと思っていることだろう。



 ただ、給仕の仕事をしていると嫌でも彼女の姿が視界に入った。



 綺麗で長い金髪は丁寧に結われており、部分的に施された三つ編みがアクセントになって、彼女の愛らしい顔を引き立てている。そこには、5年前とは違った魅力があった。しかし、彼女を包み込んでいる暗い悲壮感は、彼女の溢れんばかりの魅力を著しく減退させていた。


 それがアルとの出来事からなのか、それ以外に問題があるのかはわからない。だが、アルは彼女から目が離せなかった。







 アリアに一人の男性が近づいていく。


 それはブロンドの髪をした男性で、年はアルたちより5つは上に見える。アリアは近づいてくる男性の気配に気づいていなかったようで、声をかけられて驚きを隠せていなかった。



 少し抜けているところは相変わらずなんだ……。



 アルは少しほっとする。彼女が全くの別人に成長していたらと思うと少し不安だったのだ。


 アルは、彼らの状況を監視する。

 端から見ていても分かるくらいに、アリアは動揺している。そして、男性はそれを面白がっているように見えた。


 アリアが助けを求めれば、周囲の人が行動を起こすだろう。アルはそう思いながらも、彼らから視線を外さない。



 男が何か言ったことに対して、アリアが反応を見せた。いくら耳がいいアルであっても、ここからでは会話の内容までは聞き取れない。しかし、その反応を見て男性がぐいぐいと詰め寄りだした。



 流石におかしくないか?



 アルは咄嗟に行動を起こす。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



クルーン・クロムウェル(15)

種族:人間

称号:クロムウェル伯爵家長男



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 どうやら、伯爵家の子息らしい。


 アルは鑑定を行いながら、どんどん近づいていく。そして、鑑定を終え彼に話しかける。



「──すみません、貴方は確かクルーン様でしたね?」




 

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


アルの決心。一体なにを決心したのでしょうか……。


話の展開上、あと一話。若しくは2話でアリアのお話は一応完結します。といっても、お話の展開によってはそれ以降も永続的に出続けるかもしれませんが……。

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