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33話 教師と研究






 ギリスは寡黙だが、いい人のようだ。



 初日、アルを置いて部屋を出て行ってしまった時は「どうしたのか」と心配に思ったが、翌日にはアルにあった問題をしっかりと用意してくれていたし、アルの質問にも根気強く答えてくれている。


 たまに疲れ果てて目から生気がなくなっていることもあるので、アルも質問はほどほどにしているつもりだ。



「──そういえば、どうして獣人族は生活魔法が使用できないのですか?」



 アルトカンタの歴史について学習しているとき、アルは突然そんな質問をギリスに放った。


 前にニーナさんから聞いた話では「子孫にまで及ぶような悪事を働いたから」って言ってたっけ?



「……噂話では、獣人族の悪事によるものだとされています。ただ、一応出典はあるのも事実です」



 ギリスの答えは意外なものだった。前半部分はニーナから聞いた話と合致するが、その噂話の出典があるというのは初耳だ。



「出典、ですか?」



 アルは話を深く聞くために、あえてその部分を聞き返す。ギリスは、一度片眼鏡に手をやり、また口を開いた。



「『ユリウス冒険譚』が歴史書として扱われていることは知っていますか?」



 それは以前から知っている話だ。しかし、あの話には幾つか気になる点もあるのだが。



「はい。そのことは知っています」


「──実は、市井に流布している『ユリウス冒険譚』と原本とでは多少の違いがあるのです」



 へぇ~、原本って存在しているんだ。



「まだ原本は存在しているのですね」


「……ええ。原本は王城の最奥に保管されております」



 ふむ。3000年も前の書物が現存しているとは。現代日本の技術を総動員しても、なかなかそんな芸当はできないだろう。



 ん? そういえば……。



「……あれ? では、どうして先生はその原本の内容をご存じなのですか?」



 アルはギリスにそう尋ねる。原本が王城の最奥に保管されているなら、ギリスがどこでそれを見たのか疑問に思うのは当然だろう。



「正確に言うと原本自体は見たことがありません。原本を忠実に模写されていると思われる『写本』が学園の研究室にあり、それを読んだことがあるのです」




 写本。


 その写本がどれだけ信頼できるかはさておき、それがいつ写されたものかは気になる。



「──で、そのなかに『獣人族の悪事』が描かれているのですか?」



 アルは疑問を一度飲み込み、目的である「獣人族の悪事」について追求する。



「いえ、獣人族の一部族が人間と交戦したとしか書かれていませんでした。しかし、原本のその部分には挿絵が描かれているらしく、その挿絵では虐殺シーンが描かれていたそうです。……しかし、これも噂の範囲を越えない話ではありますが」



 なるほど。その説明なら、アルが冒険譚を読んでもその点に気が付かなかったのも、ベルの「噂話の範疇を超えない」という話にも合致する。



「それにしても詳しいですね」



 アルはギリスが問いに対して的確に答えてくる事に疑問を覚えた。


 確かにギリスは物知りで、アルが質問したことに対して大体答えることができる。しかし、今回の質問はかなり具体的すぎる。



「実は、私は『ユリウス冒険譚』を研究していましたので」



 アルの疑問にギリスはそう答えた。研究対象であれば、あそこまで的確に答えられたことは納得がいく。



「どうして『ユリウス冒険譚』を?」



 しかし、アルは尚も追求する。冒険譚は確かにメジャーな話だとは思う。しかし、それだけの理由で研究対象とするかと言えば疑問が残る。



「……実は、学園に入る前からあの本を歴史書として扱うことに疑問を覚えていました。童話を歴史書として扱うなどあり得ませんので。しかし、学園に入り研究してみると、現在の地理や地形に沿った内容であることが分かりました。そこから、どうにか矛盾点を探し出そうと躍起になり、いつの間にか研究に没頭しておりまして……」



 なるほど。アルが感じたように、ギリスも冒険譚について疑問を覚えたようだ。



 まぁ、それなりに学力がある者なら、あれくらいは分かることか。



「どの点に疑問を……」



 バン!



 アルがギリスに問いかけようとすると、急に部屋の扉が開かれる。



「アル兄さまぁ! あーそーぼっ!」



 入ってきたのはロンだった。ギリスが来るまで、この時間帯にロンといることが多かったのだが、ギリスが来てからはアリーナに止められ、この部屋に来ることはなかったのだが。



「ロン! ……ごめんなさい。勉強中なのに」



 後から追ってきたアリーナが早々に謝る。アルは別に怒っていないのだが。



「いいですよ。……先生、今日はここまでにしませんか?」



 アルはギリスに提案する。ロンもここまで我慢してきたのだろう。たまには遊んであげないと可哀想だ。



「えぇ。そうですね」



 ギリスもアルの想いを察したのか、教材を素早く片付けて部屋を後にした。


 アルが聞こうとしていた質問は消化されなかったが、ロンとの時間も大切にしなくては。



 ロンと遊んであげられるのも、あと4年くらいかな。


 学園に通い出すと、帰って来れても1ヶ月に一度。もしかすると、もっと長い期間帰ってこれないかもしれない。



 遊び盛りのロンを無下にしてまで、勉強しなくてはいけないほど切羽詰まってもいないしね。



 アルは、お昼ご飯の時間までロンと遊んであげることにした。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回も緩ーいお話ですm(_ _)m


ブックマーク数•評価共に増えていて、作者のテンションも爆上がり中です!


テンションが上がりすぎて、新しい小説『異世界転生でチートな生活 〜神様が10年使っていた体は異常らしいです〜』を投稿しました!


と言っても、一年以上前に趣味で書いていた小説で、今作よりも前の物なのですが。


ただ、せっかく書いた小説を捨て置くのも悲しいため、今になって投稿させていただきました。


この作品も併せて見ていただけるとありがたいです!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 入ってきたのはロンだった。ギリスが来るまで、この時間帯にロンといる事が多かったのだが、ガラスが来てからはアリーナに止められ、この部屋に来る事はなかったのだが。 ガラスはギリス?
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