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31話 新たな命と魔法の実験




 あれから3年の年が経った。


 アルは8歳になり、身長もどんどん大きくなっていた。

 毎日のように行ってきた訓練によって同年代の子たちよりも(たくま)しい体つきに、貴族らしい上品な雰囲気が合わさり、使用人たちでさえ魅了してしまうほどの魅力を持ち合わせていた。



 そんななか、一番の変化は……。



「アル兄さま~!」


「ロン。アル君の邪魔しちゃだめよ」



 金髪に真っ赤な目。ガンマをそのまま小さくしたような容姿をした男の子がアルの部屋に入ってくる。そして、その後からロンを追ってきたアリーナさんがやってきた。



「だって~、アル兄さまのお話おもしろいんだもん」



 ロンはそう言いながら、可愛らしい頬を膨らませる。



「ごめんさない。勉強の邪魔をしてしまって……」


「いえ、可愛い甥と遊べて僕もうれしいですから」



 そう。この子はロン・グランセル。グランセル公爵家次期当主であるガンマとアリーナの間に生まれた息子で、アルからすると甥ということになる。


 ロンが生まれたのはアルが洗礼を受けてすぐのことだった。そして、この間ロンのお披露目会があり、正式に公爵家の一員であることが知られたばかりだった。



「ねぇねぇ、何をやってるの?」



 アルが何かを紙に書きつけているのが気になったのか、ロンは体を乗り出しながらのぞき込んでくる。



「魔法陣の研究だよ」


「まほうじん?」



 ロンは首を傾げて聞き返す。



 3歳児にはまだ早いかな。



 アルは自分が3歳の頃を思い出して、いかに異常な子供だったのかを反省する。ただ、それについて周りから言及されたこともないので、おそらく許容範囲内なのだろうと自分に言い聞かせる。



「魔法陣は魔法の教科書みたいなものだよ。ここにはどういった魔法なのか、どんな効果があるのかが書かれているんだ」


「へぇ~」



 アルは簡単に説明する。


 厳密に言うと教科書ではなく命令文のほうが正しいだろうが、難しいことを言っても混乱させてしまうだけなので、そういうことにしておいた。ただ、それでも難しい内容だったのか、ロンの反応は微妙だった。


 といっても、ロンからすれば重要なのは話の内容ではなく、アルと話していること自体だったので、話の内容を理解しようとははなから思っていないのだが。







 午後になるとアルは中庭に出ていく。


 以前はカインと訓練を行うことが多かったのだが、最近はめっきり減っており、月に一度あるかないかだ。


 カインは20歳を超えてまた一段と腕を上げた。そのため、騎士団の中でも若きエースとして期待を受けるようになり、仕事も重要なポジションに着くようになっていた。


 休日も後輩の世話や遠方への遠征などもあり中々休暇をとることができず、アルとの訓練に参加することが叶わなくなっていたのだ。カインは現状を嘆いているらしいが、アルとしてはカインの出世は喜ばしいことであり気にしていなかった。



 カインとの訓練がなくなったことで、アルは一段と専門的な訓練を行うようになった。



「スラッシュ!」



 アルは剣に魔力を流し込みながら、その魔力を放出するイメージで横一筋に剣を払う。剣から放たれた魔力は、剣戟として前方へ飛んでいき3mほど先で霧散する。



 うん、中々いい感じだ。



 アルは次々に技の確認をしていく。一応周りに人はいないことを確認して行っているが、この訓練については見られても構わない。




 一通り技の確認が済むと、次は実験場と化している修練場裏の森へ入っていく。


 周りに人がいないかを念入りに確認すると、秘密の実験を開始する。



 今日の実験は、剣に魔法を纏わせられるかというものだ。


 剣に魔力を流し込んだり、その魔力を放出することができるのだから、属性を持つ魔法も剣に付与することができるのではないかとアルは考えていた。



『ファイア』



 アルは剣を持っていない左手で、火魔法の初歩的な魔法である『ファイア』を使用して炎を出す。全属性の初歩的な魔法は消費魔力がたったの50くらいなので、こういった実験には最適であった。



 次に、左手にだした炎を剣に付与していく。しかし、炎を剣に纏わせることはできず、一瞬にして霧散してしまった。


 アルは、飛び散った火の粉を消しながら他の仮説を考える。



 魔法の方は問題ないはず。それなら、失敗した原因として考えられるのは……。



「やっぱり剣のほうかな……」



 アルはそう考え、事前に剣に魔力を通しておくことにした。失敗した原因は、発動した魔法が左手から離れることで魔力の供給が途切れてしまったことだと思う。つまり、あらかじめ剣のほうにも魔力を流しておくことで魔法を維持できるのではないかと考えたのだ。



 結果として、その仮説は正しかった。しかし、問題も発見される。



「消費魔力が多いな」



 魔法を発動させたときに消費された魔力は50程度だが、それを10分間維持するために、100程度の魔力が消費されていた。MPが異常に高いアルならともかく、普通の人なら無視できないほどの消費具合だ。



 アルは各属性の初期魔法を発動させ、さっきの手順で剣に付与していく。



 その結果わかったのが、属性ごとに向き不向きがあることだ。



 比較的上手くいったのが火と光の魔法で、水と地の魔法に関しては剣に纏わせることすらできなかった。風と闇の魔法は剣に纏わせることが一応できたのだが、維持する魔力が他よりも高く、実践には使えそうになかった。



 よし! 今日の実験は終わりにしよう!



 時間もいい具合に消化できたのでアルは森を後にする。


 木を切ったり、少し強めの魔法を使った後は地属性の魔法で証拠隠滅するのだが、今日は必要なさそうだ。



 今日のご飯はなにかなぁ。



 アルは暢気にそんなことを考えながら、屋敷へ向かっていく。




 この世界の裏で暗躍している闇に気付かないまま……。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


アルも成長し、ようやく8歳になりました。アルも自身の異常さを理解しているようですが、他の人たちの評価とはかなり隔壁があるようですね。


さて、次回はまた新たな人物が登場いたします!


楽しんでいただけたら嬉しいです。

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