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25話 お土産






 王都の城下町はとても活気があり、人で満ちていた。一目で貴族だとわかるような服装をしている人もいれば、平民服のような服装をしている人もいる。



「さて、何を買おうかな」



 アルは城下町の中でいかにも高級そうな店のなかで、商品とにらめっこをしていた。


 最初は城下町の出店で買うつもりだったのだが、レオナルドが当然のように高そうな店に入って行ったので後に続いてアルも入店した。



 店の名前は「カルコーツ商店」。確か、アルのお披露目会にはここのオーナーが来ていたはずだ。


 店に入ると、レオナルドは「何かいいものが見つかれば言いなさい」と言い店の奥へ入って行ってしまったので、こうして一人で選ぶことになったのだ。







 まず、アルはガンマへのお土産を探すことにした。



「でも、ガンマ兄様の趣味って知らないし」



 今思うと、ガンマは自分のことを多くは語らないので、弟であるアルでも知らないことがたくさんある。


 ただ……。



「ガンマ兄様も読書は好きらしいから、珍しい本でも買おうかな」



 アルは店を大きく見渡す。奥行きもあり、かなりの広さを持つ商店だ。この世界の常識にはそこまで精通していないアルだったが、この店が普通より大きいことは明らかだった。


 故に、本棚にはたくさんの本があるわけで……。



「どれがいいかな……」



 高く積まれた本は5歳児のアルには届かない位置にある物も多いため、店員さんにも手伝ってもらった。しかし、アルが読んだことのない本は沢山あるものの、ガンマが何を読んでいるのかなど知らない。


 アルは記憶を遡って、ガンマが何か言っていなかったかを思い出す。



 そういえば……。



「……前に『()()』に興味を持ってたっけ?」




 *****




 ベルが帰ってくるようになってから、ガンマもベルと積極的に交流するようになった。


 ただ、使用人のなかではそれを心配する声も少なからず存在していた。




 その日は書庫へ向かっていた。


 午前中はダンとの料理研究とカインとの訓練をこなし、お昼ご飯を食べてから日課の読書をするためだ。


 そんな時、ガンマの声が聞こえたのだ。



「『()()』の研究資料を集めるのは難しいのか……」



 声は応接室から聞こえてきた。扉は閉じているので中の状況は全く分からない。しかし、ガンマだけでなく他にも人がいるようだった。


 少し気になったアルだったが、聞き耳を立てるのも気が引けるし、早く本を読みたかったのですぐにその場を離れて書庫へ向かった。




 *****




 そうだ、確かに『魔の眼』の研究って言ってたよね。



「ここの本の中に『魔の眼』について書かれた物はありますか?」



 アルは店員にそう尋ねる。『魔の眼』という物が何なのかは分からないし、店の本を逐一見て回るのも時間がかかる。こう言った場合、早めに店員を頼るのが賢明だ。



「『魔の眼』についての本は……、私の記憶上ございませんね」


「そうですか……。では、何か最新の本を数冊見繕って下さい!」



 店員がないというのだから無いのだろう。他にガンマの興味を持ちそうなジャンルを知らないので、アルは最新の本をいくつか買うことにした。


 ガンマは領地経営で忙しく、最近は王都に来ることもできていないはず。ならば最新の本を渡せば喜んでくれるだろう。







 次はミリアとニーナ、そして兄嫁であるアリーナへのお土産を探し始める。


 女性陣には、髪飾りやブローチなどのアクセサリーにしようと考えている。

 洋服などは、人それぞれで趣味や好みがあるだろうから、アクセサリーなら喜ばれるだろうという考えだ。



「母上にはこの髪飾りがいいかな~。アリーナ姉様は……、このブローチにしよう!」



 ミリアとアリーナへのお土産はすぐに決まった。


 ミリアへは銀の髪飾り、アリーナには鳥の形をしたブローチだ。アルは、この2つのアクセサリーが2人の印象にピッタリだとおもっている。



「あとはニーナさんだけど……」




 ここまで順調にお土産を決めてきたアルだったが、ニーナへのお土産だけは中々決められないでいた。


 なぜなら──。



「──ニーナさんって、何が欲しいんだろう?」







 ニーナは使用人であるため、中々私的な話をしない。ニーナの境遇も、ある程度ガンマから聞かされているのでアルも理解してはいるが、ニーナの好きなものや趣味など何も知らない。



「これは困った……」



 アルは当てもなく店をブラブラする。



「それにしても、いろんな物が売ってるんだ」



 店のなかには、たくさんの本や武器から雑貨やアクセサリー、果ては生活必需品と言った多種多様な商品が並んでいる。


 これだけたくさんあると選択肢が広がって良いのだが、多すぎるのも大変だ。



 歩いていると、アルは一つの商品が気になった。



「──店員さん、これは何ですか?」



 アルは近くにいた店員に声をかける。しかし、視線はその商品を見据えたまま、全く動く気配がない。



「これは、『ななし花』のペンダントです。『ななし花』は勇者様が王国を建国した時に咲いた花らしいのですが、勇者様が亡くなると共に散ってしまい、今では伝説上の花と言われていますね」



 『ななし花』。


 (けが)れを知らない真っ白な花に、頼りなく真っ直ぐ伸びた細い(くき)。それは頼りないのに何故か秘められた力をアルに感じさせる。







「アル。お土産は買えたかい?」



 レオナルドは、教会へ向かう馬車のなかでアルにそう話しかける。



「はい! 父上のおかげでいい物が手に入りました。母上たちが喜んでくれるとよいのですが」



 アルはお土産をチラッと見る。店員が見繕ってくれた3冊の本にラッピングしてもらった三つの箱。



 ──ニーナさん、喜んでくれるかな?



 アルは、一つの箱を見つめながら屋敷で一生懸命働いているだろう、一人の使用人を思い浮かべていた。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は、お土産を買うだけのお話でした。ただ、タイトルにも関係する重要な話でもあります!



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