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24話 王都への道




「準備はできたかい?」



 話があってから一週間後、レオナルドが王都へ行く用事のタイミングで、アルも一緒についていくことになった。


 後から聞いた話では、5歳から洗礼を受けられるらしいが、その判断は親に一任されているようだ。子供の教育に厳しい親だと、子供が精神的に未熟だと判断すると5歳になっても洗礼を受けさせないようにしているらしい。しかし、貴族家の子どもであればたいていは5歳になってすぐに洗礼を受けるようだ。



「初めての外出だから、さぞ緊張しているだろうと思ったけど。アルはそうでもないようだね」



 使用人の方たちが荷運びをしている間、暇を持て余していたアルにガンマが話しかけてきた。



「緊張はしてますよ。でも、楽しみの方が大きいかもしれません」



 アルはそう答える。これはアルの本心だった。



「大丈夫、道中は騎士団が守ってくれるし、王都に行けばベルだっているんだからね」


「そうですね。王都へ行けばベル兄様にお会いできるかもしれません」



 アルの緊張をほぐそうと、ガンマはみんなが近くで守ってくれると勇気づける。


 確かに、道中は魔物も出るだろうし危険と言えば危険なのだが、アルはそこには何の不安もなかった。







「アルフォート様! 今回は私も同行できる事になりました!」



 ガンマがアルのそばを離れると、次にカインがやってきた。カインは騎士団として今回の旅路に同行するらしい。



「そうなんですか! それは心強いですね」



 カインは騎士団の中なかでも剣の腕だけなら上位に食い込むだけの力があるそうだし、仲の良い団員なのでいるだけで嬉しい。



「はい! ようやく貴方をお守りできますね!」



 洗礼を受けるアルよりも、彼を守る立場にあるカインの方がわくわくしている様子だった。


 アルはそんなカインを見て、少し微笑んだ。






 荷づくりが終わるころ、ミリアがアルの元へ歩いてくる。



「アル、初めての外出だけど。……怖くない?」



 年の割に落ちついていて賢いアルだが、ミリアからするとお腹を痛めて産んだ一人目の子供であり、アルのことが心配で仕方がなかった。しかし、王都での洗礼は貴族家のなかではよくあることであり、ミリアもアルと同じ年の頃に王都へ洗礼を受けに行った。


 しかし、親になると子供の無事をこうも願ってしまうのだと痛感していた。



「はい! 何か母上に似合いそうなものがあれば買ってきますね」



 心配そうにしているミリアに、アルは元気よく答えた。そして、アルは母親からの愛を感じつつ馬車に乗り込む。






「うわぁ! あの植物はなんて言うのですか?」



 馬車の旅は、アルの好奇心を刺激するもので溢れていた。植物に関係する本は屋敷には少なく、前世では見たことのない植物たちに、アルは心躍っていた。



「ふふっ、あれはマビールだね。マビールを使ったポーションのレシピもあるし、戦場では応急処置にも使われるんだよ」



 レオナルドは興奮しているアルを見て、初めて年相応な反応を見たと感じていた。


 普段は大人びていて賢い子なのだが、好奇心には勝てないところは年相応の反応だと感じたのだ。



「では、あの建物は?」


「あれは魔力塔だね。あの塔には常に魔術師が控えていて、敵襲時は結界を張る砦になるんだ」


「では、あの──」



 アルの好奇心は尽きることなく、このようなやりとりが王都までの道のりである四日間続いた。






 流石に疲れてしまったレオナルドは、出発前にニーナから渡されていた本をアルに渡す。

 それはまだアルが読んでいない新しい本で、アルは馬車の中でその本を読み始めた。そして、レオナルドはようやくアルの質問攻めから解放されたのだ。



「──アル、あれが王都だよ」


「へぇー、とても大きいですね!」



 レオナルドの言葉に反応し、アルは馬車から目の前に見え始めた王都を眺める。アルはその本をたったの一日で読み終えてしまった。流石のレオナルドも、そのことに驚きを通り越して呆れている様子だった。



 王都の人口は約50万人。


 東京都の人口が約1400万人と考えると、かなり少ないように感じるが、高層ビルなどはなく一軒家が普通であるこの世界においてはかなりの大都市といえる。


 ちなみに、1100年代のローマ帝国の首都では、人口120万人を超えていたらしい……。それだけで、かなり栄えていたことが簡単に予想できる。







「グランセル公爵様ですね。どうぞお通り下さい」



 検問は想像していたよりも簡単に通された。レオナルドが領地と王都を頻繁に行き来しているため、門番が顔を覚えているということもあるが、冒険者や商人に対しても厳しいチェックはしていないようなので、これが普通なのだろう。前世の知識を持つアルからすると、かなり不用心であるように思える。



「綺麗な街並みですね……」



 検問所を通り過ぎると、王都の街並みが目に飛び込んでくる。白色を基本ベースとして、ベージュや茶などの色をした建物が綺麗に並んでいる。道も石造りで建物の雰囲気とマッチしていた。


 フランスのパリでは、建物の色や高さを管理して町をきれいに保っていると聞いたことがあるが、この街でもそういった規制がされているのだろうかと興味を抱いた。



「この道をずっと進んでいくと王城に辿り着くんだけど、今回はアルの洗礼が目的だからね」



 レオナルドは馬車の窓から食い入るように風景を眺めていたアルにそう伝える。今回の目的は洗礼を受けることで、王都には今日だけ滞在して明日には帰ることになっていた。



「そうですね。これから教会に向かうのですか?」


「そのつもりだけど。……疲れてしまったかい?」



 アルの質問を受けて、少し休憩するかとレオナルドが提案する。しかし、アルも別に疲れているわけではなかった。ただ……。



「……いえ、疲れてはいないのですが、母上やガンマ兄様、あとニーナにもお土産を買いたいと思いまして」



 ミリアやガンマは何度も王都へ来ているから、お土産をあげて喜ぶかは分からないが、ニーナは王都に来たことがないと言っていたので、ぜひお土産を買ってあげたいと思っていたのだ。



「そういうことか。うん、時間もまだ早いし少し買い物をしていこうか」





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は家族から心配されるという、家族からの愛を受けるアルのお話でした。


家族から過度な心配されることが大嫌いだった作者ですが、すこし年を重ねていくとそれが愛情であったのだと感じるようになりました……。



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