20.5話 ユリウス冒険譚(2)勇者編
ユリウス冒険譚の続編です!
東の荒廃した村で「勇者」が生まれたのです。
勇者ユリウスは、とても古く今にも壊れてしまいそうな小屋で産声をあげました。彼が生まれたその瞬間、空には無数の流星が流れ、月はまん丸に満ちていたそうです。
彼は他の子たちより順調に育っていきます。
5歳になると、大人の中でも彼に勝てる者はいなくなり、東の果てでは最強の存在になりました。
しかし、それは「人族」のなかだけの話でした。
彼は自分と魔族の間に計り知れないほどの力量差が存在することを分かっていました。
力がある故に、他の誰よりもはっきりと。
勇者ユリウスは魔の森へ行くことを決心したのでした。
勿論、周りの人々はそれに反対しました。
彼がいくら強いとはいえ、まだ5歳の子供であり、彼らにとって勇者ユリウスは希望だったからです。
しかし、勇者ユリウスは反対を押し切って魔の森へ入っていきました。
魔の森は、魔物たちによって支配された魔窟です。入ったものはたちまち魔物の餌食になり、入ったら最期出てくることはできないと言われていました。
ユリウスは魔の森をどんどん進んで行きます。
入ったばかりで、何匹かの魔物がユリウスを襲いました。
ユリウスは自慢の剣の腕で魔物をバッサバッサと切ってしまいます。
しかし、多勢に無勢。すぐに彼は魔物に囲まれ少しずつダメージを受けていきました。
ユリウスは必死に戦い、一部魔物の包囲を破って逃げ出しました。
これが、勇者ユリウスの初陣です。
ユリウスは命からがら逃げ出し、森の泉にたどり着きました。
そこでユリウスは喉を潤し、一休みすることにしました。
周りには魔物の気配はなく、ほっと一息つきます。思い出しただけでも怯んでしまいそうな初陣に、ユリウスは体を強ばらせます。
──本当に生き残れるのか?
ユリウスの心のなかにそんな不安が渦巻き始めます。しかし、彼はその不安を無理やり心の底へしまい込んでしまいました。
ふと、泉に視線を向けると、綺麗な泉の傍に小さな飛行体が群がっていることに気が付きました。
ユリウスは不思議に思い、その飛行体に声をかけます。
「君たちは何をしているの?」
その飛行体たちはユリウスを認識し、すぐに泉のなかへ逃げ出してしまいました。
ユリウスは泉を覗き込みながら、
「驚かしてごめんなさい! 僕は君たちとお話したいだけなんだ」
と呼びかけました。
すると、泉のなかから一人の妖精が浮かび上がって来たのです。
「私たちは勇気ある存在が助けに来るのを、ここで待っているのです」
妖精はユリウスにそう言います。
「何かお困り事ですか?」
ユリウスはそう聞きます。妖精は森の奥を指さして。
「森の奥で魔物が暴れているんです。私達ではどうしようもありません」
妖精は泣き出してしまいました。
ユリウスはさっき死にかけたことをすっかり忘れ、妖精を助けてあげようと思いました。
「分かりました。僕がその問題を解決して見せましょう」
ユリウスは妖精にそう言います。
「あなたは本当に勇気のある方ですね。私たちは貴方の様な勇者を持っていたのです」
妖精はそう言って、ユリウスに聖剣を与えました。
ユリウスはその聖剣をもって、どんどん奥へ進んでいきます。
途中で何体もの魔物たちに遭遇しましたが、ユリウスは簡単に倒してしまいました。
ユリウスは勇者へ覚醒したのです。
森の奥に着くと、そこには大きな猪の魔物がいました。
「あなたが暴れ回っている魔物ですね! 妖精さんたちが困っていましたよ!」
ユリウスは猪の魔物にそう言います。猪の魔物はユリウスを一瞥し、大きく鼻を鳴らします。
「ふん! 弱い者は強い者に搾取されるのだ。それが自然の掟よ!」
そう言ってふんぞり返っています。
「いえ、あなたは間違っています。強い者は弱い者を尊敬し、庇護するべきなのです!」
ユリウスは猪の魔物にそう説きます。しかし、猪の魔物はユリウスの話など聞こうとはしません。
「ええい、うるさい!」
猪の魔物はユリウスに向かって突進してきました。ユリウスは咄嗟にその突進を避けます。すると……。
──ドンッ!!!!
猪の魔物は、自ら大木に激突していまいました。
猪の魔物はそれから一時間くらい気を失ってしまったのです。
一時間が経ち、猪の魔物は目を覚ましました。
「なぜ、お前は私を殺さなかった?」
傍らにいたユリウスに猪の魔物はそう尋ねました。確かに、ユリウスは簡単に猪の魔物を退治できたでしょう。しかし、ユリウスはそうしませんでした。
「私はあなたを倒しに来たのではありません。話し合いに来たのです」
ユリウスの言葉に猪の魔物は涙を流しました。
「あなた様こそ真の勇者でございます。私はあなたについて行きます」
猪の魔物はユリウスを主人と認めました。
ユリウスは泉に戻り、妖精たちに事の顛末を伝えます。
「あなたは私たちが与えた聖剣を使って退治するのではなく、話し合いによって問題を解決したのですね」
「貴方こそ、私達が望んだ方。聖剣は貴方のものです。貴方こそ真の勇者様なのですね」
妖精たちはユリウスを褒めたたえ、聖剣をくれました。
ユリウスは猪の魔物に乗り、聖剣を片手に人族の村へ帰っていきました。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回はユリウス冒険譚の続編を投稿しました。
勇者ユリウスはどのような冒険をしていくのか…。とても気になります!
さて、次回はアリア目線での話の続編です!