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171話 月と湾曲




「──ぁ、はあぁ!」



 鞘から銀色の輝きが覗く。それは刹那に瞬き、直後甲高い金属音を生む。細い刀身は白と黒のグラデーションを持ち、白銀の切っ先は目の前の青白い輝きを持つ刀身と交わる。


 鋭い一撃を受け止めた青い剣を持つ男子は、ニカッと快活に笑う。



「いい一撃だな! でも、俺だって負けないぞ!」



 そう言って、彼は交わらせていた剣を弾き返し、上段、下段、横なぎに3連撃を見舞う。しかし、対峙する男子は少し長めの細長い刀を器用に扱い、一撃も体に触れさせない。それも、ただ防ぐだけではなく、少しでも気を抜けば手痛い反撃を見舞わせようとしていた。


 しかし、相手もそれを知ってかまったく隙のない立ち回りを見せる。神速のような3連撃の後も、青い光は留まることを知らない。訓練場に響き渡る金属音は、二人の戦闘の過激さを表していた。



 瞬間、金属音が止まる。


 両者は少し距離を取り、しかしそれでいて一切の隙すら見せずに向かい合う。一見チャラそうな男子生徒は、白黒の刀身を相手に向けつつ目を細めて笑う。



「……いいね。立ち回りといい、流れるような太刀筋といい。少し嫉妬してしまうよ」



 事実、一連の攻防を客観的に見れば、向かい合う男子生徒が押しているように見える。白黒の刀身は非常に長く、連撃には向かない。それに対して、相手の持つ青い刀身は、見た目以上に軽い素材で作られているのか、強くない腕力でも相当な速度の剣戟を可能にしている。


 はっきり言って、相性が悪い戦いだった。しかし、彼は不敵に笑う。



「──でも、俺も負けてない」



 彼はそう言って、くいっと手首を返して切っ先を地面へ向ける。そして、軽く膝を曲げると飛ぶように前へと走り出した。長い刀を地面に擦りつつ、神速の一撃を相手へと繰り出す。流石の相手も、この神速の一撃を受け止めることはできないと判断したのか、剣を交わらせることを避けて後方へと飛びのく。



「お、おい。模擬戦だぞ!」



 まさかの一撃に、後方へ飛びのいた男子生徒は声を荒げる。しかし、熱を持った剣士が戦闘を避けられないように、目の前の男子の耳に彼の言葉は届いてはいない。それどころか、さっきよりも短い距離から同等の速度の一撃が飛んでくる。


 流石にこの距離での攻撃を避けることはできず、青い刀身でその攻撃を受け止める。筋力と攻撃の勢いに差があり、交わった剣はじりじりと押し込まれている。



「──っく、そっちがその気なら、俺だって!」



 青い刀身がかすかな光を灯す。しかし、そこで大きな声が訓練場に響き渡った。



「──ストォォォップ!!」



 声とともに、大きな水の塊が二人のほうへ飛んでくる。二人をそれを避けるように、互いに後方へと退くと、丁度彼らの目の前で水の塊は霧散(むさん)する。これが、魔法によるものであることは確かだ。


 距離を取った二人の間に、緑色の髪の女子生徒が割り込む。



「ちょっと、なに本気でやり合ってるの! ソーマも、馬鹿なの!?」



 青い剣を握った男子生徒──ソーマは、自分だけに向けられた罵倒に対して不服そうな表情を浮かべる。



「だって、コイツが本気でやりはじめっから」


「ごめんねー、ちょっと熱くなってしまったみたい」



 不満を吐露するソーマに対して、対峙していた男子生徒──キースは刀を鞘に収めながら即座に謝る。口調はひどく軽々しく、あまり反省しているようには見えなかったが、それもキースの特徴だ。


 先に謝られて、ソーマは目を泳がせる。緑髪の女子の視線は「お前も謝れ」という意味が込められていることを、彼も感じ取っていた。



「──分かったよ。俺も熱くなって悪かったよ!」



 視線に折れて、ソーマも謝罪する。緑髪の女子生徒は、「やれやれ」と首を数度横に振った。







 訓練場を後にした3人は、学園を出て城下町を進んでいた。空はほんのり赤色を帯び始めてはいるが、まだ日が落ちるまでには時間がある。 



「アルはもう着いたかなー」


「まだ先だろうね。今はちょうど王国を出るかどうかってところじゃないかな」



 ソーマの疑問に、キースが返答する。さっきまで真剣を使用して斬り合っていたとは思えないほど、温和は雰囲気である。


 アルが王都を出てまだ2か月経つかどうか。そろそろアイザック王国の最西端にある「べランゲの谷」に到着する頃合いだった。「べランゲの谷」には、太古に作られた一本橋が架かっているのだが、そこを通るような者は一人もおらず、実際は開墾(かいこん)され厳重な検問所があることで有名な南の山脈を進むことになる。



「うへー、結構長旅なのな」



 ソーマは指折りしつつげんなりとした表情を浮かべる。アルを快く送り出したソーマだったが、やはりアルがいないと退屈で仕方がなかった。アルがいない間は今日のようにキースと手合わせをしたり、ダンジョンに潜って研鑽(けんさん)を積んではいるが、やはりアルに指導を受けている時に比べて成長が遅いように感じていた。


 アルが戻ってくるまで、まだまだ時間はある。その間に、アルに負けないくらい強くなるつもりだったが、このペースでは到底アルには追いつけない。そんな焦りのような気持ちがソーマのなかで生まれていた。



「──あ、クリスさん! 待たせてごめんなさい」



 城下町の一角、ソーマやリリーがたまに利用する飲食店に見知った顔があった。いつから待っていたかは分からないが、テーブルに置かれたグラスに入った飲み物は半分くらい無くなっている。



「あ、いや、別に待ってなんかいないけど」



 クリスは、少し頬を赤らめながらそう言う。普段は憮然とした表情を浮かべていることが多いのだが、今日は何となく頬が緩んでおり、手を後ろに隠してもじもじとしている。



「……なに、照れてるの?」


「う、うるさい! 別に、友人との初めての待ち合わせが気恥ずかしいとか、そんなことではありませんから。──それに、貴方には言っていないわ!」



 キースの軽口に、クリスは強く反発する。ただ、こうやって友人と外で会うことや、待ち合わせに飲食店を利用するということが彼女のなかでは非常に新鮮で、舞い上がってしまった感は否めない。クリス自身、自分の発言が失言だったことにようやく気が付いたのか、今は顔を真っ赤にして顔を伏せている。



「そういえば、最近ルージュさんを見ませんね」



 ルージュについて、リリーは最近学園で見ることが無くなり、ずっと気にはなっていた。今回、集まるにあたって帰り際にAクラスを覗いてみたのだが、そこにルージュの姿はなかった。



「あぁ、ルージュなら成績優秀者で授業免除されたから、もう学園には来ないよ」


「え?! そうだったんですか?」


「まぁね。もともと頭はいいし、アル君のおかげで戦闘技術も飛躍的に向上したからね。当然と言えば、当然かな」



 ルージュはもともと学力が高い。それに付け加えて、アルの指導により高度な戦闘技術の習得したことで成績優秀者としての資格を得たのだ。言われてみれば、納得がいく。



「──それより、どうして俺はここに連れてこられたのか、そろそろ教えてもらえないかな?」



 ここまで連れてこられた理由を聞いていなかったキースだが、ようやくその点に触れる。何か理由があるだろうことは容易に想像ができたが、わざわざみんなを集めるような内容ならばと、道中ではあえてその理由を尋ねることはなかった。

 

 ただ、店に入ってからもありきたりな世間話が主で、話が進まない現状を鑑みてあえてこのタイミングで聞くことにしたのだ。


 キースの問いかけに、リリーは一瞬回答をためらう。時間にして、コンマ何秒かの間だったが、その刹那の瞬間によって、キース達の間に一種の緊張感が走る。



「──実は、第6王女殿下から王城に招待されました」


「え、王女から呼び出し?!」


「ソーマ、声! 声が大きいよ!!」



 ソーマの大声が店のなかに響き渡るが、逆に言えばソーマの声が響き渡るほど店のなかは閑散としていて、ソーマの大声以外には陽気な店主の鼻歌だけが店のなかにあった。ソーマの大声を(いさ)めたリリーも、周りにお客さんがいないのを確認して、ほっと胸を撫でおろす。



「今日、ノーラ先輩──アル様の友人らしいんですけど、その方を通じてセレーナ殿下から。……それも、明日」


「……もしかしなくても、アルフォート様繋がりですね」



 クリスの言葉に、リリーは無言で頷く。

 

 ノーラ・ビクトル。

 彼女はリリー達よりは一学年上で、アルを通して少しだけ話したことがあるだけの存在だった。アルからかなり信頼されているようで、フレンドリーな雰囲気といい、人の懐に入り込む特殊な能力を持っているように感じた。


 アル以外に、ノーラと仲がいい者はいない。そのため、必然的にアルつながりで王城への招待がなされたことは分かる。


 場に重苦しい空気が立ち込める。王女が、そう簡単に王城へ招待するとは思えない。何か裏の事情があるのは確実である。……つまり、面倒な何かがあることは容易に想像できる。



「まぁ、ドンマイ! 俺らは関係な──」


「──いや、ソーマ達も関係あるの」



 ソーマの言葉を遮って、リリーから鋭い言葉が割り込まれる。そして、それに続く言葉をテーブルを囲んでいる者たちは、何か嫌な予感を覚える。それは、まさに実刑判決を待つ囚人のようで、言葉にためらう女子は、鎖を握る看守のようだった。


 看守は、そんな嫌な緊張感を切り裂くように、小さく、それでいて鋭い一言を言い放つ。



「えっとね、殿下からの呼び出しって、私たち5人なの……」



 時が止まったかのように空気が固まるのを身に感じつつ、店主の陽気な鼻歌だけが店の時間を刻み込んでいた。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

宣言通り、14日に投稿できてほっと一息ついているところです(笑)


昨日、いいねが1,000を越えました! 

本当に、皆さんのおかげです<(_ _)>


ブクマ件数も960件を超え、そろそろ1,000件に到達しそう。

数字のために書いているわけではありませんが、こうやって目に見える数字があるとモチベーションに繋がりますね。

これからもマイペースに投稿していきますので、応援していただけると嬉しいです!!

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