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154話 イーストダンジョン(2) 覚醒




 イーストダンジョンの構造はいわゆる典型的なダンジョンと同じで、下層へ行けば行くほど難易度があがるようになっている。


 高難易度ダンジョンという事もあり、国中の猛者たちがこぞってやってくるダンジョンではあるのだが、広大なマップのせいかあまり冒険者と行き会うことはなかった。



 ここまで聞くと普通のダンジョンと大して変わりないようにも思えるが、実はこのダンジョンにはいくつかの特異な部分がある。


 まず、このダンジョンには複数の出入り口が存在している点だ。他のダンジョンは、大体一つの出入り口しかないものばかりなのだが、このダンジョンは「魔の森」の下にも続いており、この国のダンジョンの中で最大級の広さを誇るため、色々な所に出入り口が出来ている。


 アル達が入ってきたのはライゼルハークにほど近い、魔の森でも東部に位置する入り口なので、出入り口には殆ど人気がなかったが、ダンジョン西側の入り口には大規模の街が出来ている場所もあるという。どうして東西でこうも違うのかと言うと、西側の方が地下2階へと続く階段が近いからという理由があるからだ。



「――そういえば、マッピングはアル君がやっているのか?」


「そうですね。普通は地図を買うか、紙にマッピングをしながら進むのが一般的なようですが、僕の場合は頭の中に記憶できるので。……ただ、もしはぐれた時に困りますね。後で道順を示しておきます!」



 キースは小さく頷く。

 普通なら道順を全て記憶できるものなど中々いないのだが、アルのパーティーには記憶力に関して飛びぬけている人間が二人いたため、今まで大して気にしていなかった。ただ、確かにもしアルとリリー以外の人物がはぐれてしまった時には大変なので、地図を用意するのは大切だ。



「――っと、前からゴブリンが3体やってきますね。接敵は約一分後です」


「了解!」



 ソーマは戦闘準備に入る。岩の洞窟は基本的には一本道になっているため、アルの言う前方とは今向かっている方角しかない。細かい方角を示す必要もなく、アルの短い言葉で皆がそれぞれ準備を始めていた。


 アルの予告通り、約一分が経過したところで苔むしたダークグリーン色の魔物――ゴブリン3体が姿を現した。以前も言ったようにアルの「鑑定眼」では固体の詳細なステータスまで覗くことができないので、魔物の姿を捉えてアルも気を引き締める。



 黄色の目がアル達を見据えると同時に、気味悪い叫び声を上げてゴブリン達はアル達に襲い掛かる。


 基本的な前線の役割は盾役をソーマとクリスが担っており、その後ろにルージュが控えている。キースはそもそも相手と鍔迫り合いをする戦闘スタイルではなく、一刀で仕留めていく為さため、基本的には単独で行動する。ソーマ達3人は連携した戦いかたをしているため大崩れする心配はないので、アルはキースの方を主にサポートしていた。


 

 ゴブリン達は2体と1体に分かれている。単体のほうをキースが請け負い、複数の方をソーマ達が請け負う形となった。しかし……。



「――ソーマ、後ろの方の固体はいつものより大きいから気を付けて対処して!」



 ソーマ達の方に行った2体のうち、後方に控えている固体は今までの物よりも幾分大きい。種族名は変わらず「ゴブリン」であるが、見るからに強そうだ。


 アルの指示を受けて、ソーマもその個体を確認する。



「確かに、あれはヤバそうだな!」



 ソーマは瞬時に思考を巡らせる。この場合の最善手は先に弱そうな固体を倒してから3人であの個体と相対することだろう。しかし、そうしようとすれば必ず大きめの固体は邪魔してくるだろう。


 ソーマは小さく頷く。



「俺があいつを引き付けるから、クリスとルージュで小さい個体を倒してくれ!」


「え……」



 戸惑いの声を上げるクリスだったが、ソーマはそれだけ言い残して一気に前方へと飛びだしていく。小さめの個体を一瞬で抜き去り、大きめの個体の前に飛びだして、1、2回剣で攻撃を裁く。



「クリスさん、私のこの細い剣じゃ攻撃を受けるのに適していないので、盾役をお願いします!」


「そうですね……。私もしっかりとしないと……」



 ルージュの真剣な目に当てられて、クリスは自分の奮い立たせるようにそう言う。



 クリスにも、ここまで自分が役に立てていないことは何となく分かっていた。


 普通に考えればソーマをキースの盾役に据えて、クリスとルージュでコンビを組んだ方が効率よく戦闘を進めることが出来るはずだった。しかし、そうしなかったのはクリスの自身の剣への迷いと、それを察している皆の配慮ゆえだ。


 この現状でアルが何もしないのも、ソーマに、クリスに戦闘を任せているのも、アルなりの配慮だと彼女には分かっていた。



 クリスは大きく一つ深呼吸をして、敵を見据える。ゴブリンの黄色い目が、暗い洞窟の中で光る。彼らにどれだけの知能があるかは不確かだが、その目には一切の恐れはなく、目の前のクリスたちをどう始末しようかと算段する、いやらしい光だけが映っていた。



 気味悪い眼光と叫び声を残して、ゴブリンはクリスたちのほうへと飛び込んでくる。このダンジョンの個体は、ノースダンジョン1階の個体とは違い、小さめの刃のついたダガーのような武器を持っている。しかし、クリスの持つ剣の方が刀身が長く、それにゴブリンはクリスよりもかなり身長が低い。


 つまり、距離を取っていなしてしまえば問題なく攻撃を裁き切れるはずだ。クリスはそう考えて、一歩後ろへ下がろうとする。


 しかし、それは間違いだった。



「――――っ!」


 

 ――速い。


 そう思ったのと同時に、黄色い目がクリスをロックオンしていた。想像よりもゴブリンの俊敏性が高く、一瞬で距離を詰められてしまったクリスは、その気味悪い黄色の光に身を震わせる。


 怖かった。


 これまでは誰かが助けてくれたが、この現状ではその助けは見込めない。良ければ後ろのルージュに攻撃が入るため、ここを動くわけにもいかない。しかし、ゴブリンの小さな刀身から繰り出される剣技を全て裁き切れる自信が、クリスにはなかった。


 クリスは目を閉じた。最悪、一撃受ける覚悟で後ろのルージュにだけは攻撃が入らないようにという意図だった。しかし、甲高い金属音が耳に届き、いくら待っても来るはずの痛みはやってこない。


 ぱっと目を開けると、そこにはさっきまで後方にいたはずの級友の背中があった。黒い刀身が、ゴブリンの小さなそれを押さえつけている。



「――クリスさん、初めての野外訓練の感覚を思い出してください!」



 はじめての野外訓練。


 第1階には本来いないはずのオークとの戦闘の事を指していることはすぐに分かった。確かに、あの時は自分の体じゃないくらい感覚が研ぎ澄まされていた。


 ただ、今は逆に錘でも付けられているように足が動かなかった。


 

「あの時、何を感じましたか? ソーマやリリーさんを見て、何か感じませんでしたか?」



 アルの大きな声がクリスの脳を支配する。


 弱いのに勇敢に立ち向かったソーマに、自分よりも剣技は劣るが魔法と言う自分だけの手段で立ち向かったリリー。そして、なりたいと思った背中があそこにはあった。


 クリスは柄を強く握りしめる。あんなに怯えて委縮していた心に炎が灯り、錘のついた足は羽根の様に軽かった。今なら何でもできるような、そんな気すらしてしまう。



「――クリス・ブラウン。行きます!!」



 その掛け声とともに、クリスは飛びだす。そして、アルと入れ替わるようにゴブリンと相対し、ゴブリンのそれよりも長い刀身を器用に扱って、ゴブリンの剣技を全て裁き切る。


 自分の剣を「古い」と言われて悩んでいたことが嘘のように、思い通りに剣が扱えた。そんなクリスの動きを見て、ゴブリンに動揺の色が見えた。そこをクリスは逃さない。



 さっきよりも一歩踏み込んで、ゴブリンの小剣を思いっきり弾く。



「――今です!」



 クリスがそう言うと、後ろに控えていたルージュの鋭い一撃がゴブリンを襲う。剣を弾かれたゴブリンにそれを防ぐ手立てなどなく、ルージュの細い剣先がゴブリンの急所を貫く。


 鈍い音を立てて転がった骸は、一瞬で魔石とドロップアイテムだけを残してダンジョンへと吸い込まれていく。その様子を見て、言い知れない達成感がクリスを襲う。


 しかし、すぐに気を引き締め直す。



「――もう一体、行きます!!」



 クリスは大きな声でそう宣言して、ソーマが相手をしている大きな個体の方へと飛び込んでいく。その足取りに迷いはなく、勇敢な面持ちの少女は強く地面を蹴っていった。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


最近更新遅くてすみません。執筆自体は今まで通り続けていきますが、更新自体は遅くなるかもです。

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