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153話 イーストダンジョン(1) 報告




 イーストダンジョンは、ノースダンジョンと同じ地下へ潜っていくタイプのダンジョンだ。


 目の前に「魔の森」があることから、「魔の森」と混同してしまいがちではあるのだが、公的に「ノースダンジョン」と名付けられている。


 伝承では、「魔の森」の主として『ユリウス冒険譚』に描かれている猪の魔物が作り出したダンジョンとはされているが、それもどこまで事実かは分からない。ダンジョン内に出てくる魔物は基本的にはノースダンジョンと同じでゴブリンやコボルトなどで、その辺りも「魔の森」とは違うところだった。



「――3日間で5階を目指すんですか!?」



 リリーの驚愕の声が馬車の中に響き渡る。他の面々、特にEクラスの三人は同じような顔をしている。ただし、Aクラスのキースとルージュは特に驚いた様子もなく、疑問符を頭の上に浮かべていた。


 ただし、今回の件についてはEクラス三人の反応の方が正しい。



「キース君とルージュさん。お二人はノースダンジョンで5階まで降りていると聞きましたけど、イーストダンジョンとノースダンジョンとは別の場所と思った方がいいです」


「……? どういうことでしょうか」



 ルージュは怪訝な表情を浮かべる。



「イーストダンジョンは危険度が他のダンジョンよりも高いです。1階の魔物はノースダンジョンの3階相当で、5階になるとノースダンジョンの10階相当と思ったほうがいいです」


「へぇー、それは知らなかったよ。――で、どうして5階まで行くことに?」



 勘のいいキースは、アルに他の目的があることと気が付いているように思える。しかし、まだ確証には至っていないようで、探るようにそう言う。



「一応の目標としてあげているだけで、実際にそこまで行けるかは分かりません。ただ、僕の予想だと不可能な数字ではないと思います」


「……そう言われると引き下がれませんね」



 アルの発言を受けて、クリスは瞳に炎を灯す。ソーマやルージュも同様に、アルの言葉に奮起しているように見える。ただ、リリーだけは未だ不安そうにしていた。



「そういう事なら、俺も期待通り頑張らないとな」



 そう言って笑みを浮かべるキースだったが、アルの目から見ると未だに何か引っかかっているように思えた。








 ライゼルハークの街を出て、約一時間ほど馬車に揺られると、うっそうと茂った森の傍に小高い山が見えてくる。そこまで大きな山というわけでは無いのだが、その山の麓には大きな割れ目のような洞窟の一口があって、そこが高難易度ダンジョンと言われているイーストダンジョンの入り口だ。


 アルはちらっと右に視線を送って何かを確認すると、小さく頷いてみんなの方を見る。これからダンジョンに入るにあたって、アルは皆に伝えなければならないことがある。



「ダンジョンに入る前に、お話しなければならない事があります」



 皆の視線がアルのほうに向く。一応、周りに人がいないことは確認済みなので、遠慮なく話ができる状態ではある。アルは、一呼吸分の間を取ってから言葉を続ける。



「皆さんのことを信用してお話しますが、僕は古代魔法の一つである『収納魔法』を使用できます。この3日間の食料などは全て収納魔法の中に保管しています」


「――え?」



 皆の感想を代弁したかのように、リリーの小さな声が零れる。そして、キースはようやく謎が解けたかのような表情を浮かべ馬車の方を見る。おそらく、ずっと「3日分の食料はどこなのだろう」と思っていたのだろう。


 勿論、3日分の食料は全てアルの収納魔法にある。ただ、キースの疑問はそこだけではないだろうことはアルにも分かっている。そもそもの目的自体には一切触れられてはいないからだ。


 しかし、キースはその話題には触れずに他の疑問をアルにぶつける。



「古代魔法を使用するには光と闇の2属性が必要だったはずですだけど……」



 キースの言う通り、古代魔法を使うには光と闇の2属性が必要だ。使い手を選ぶからこそ古代魔法は廃れて行き、今では使う人間が殆どいないのだ。



「これは完全に伏せてほしいことですが、僕にはその両方の属性への適性があります。証拠としては……」



 アルが「収納魔法」を唱えると黒い渦が目の前に出現する。そして、アルは物怖じせずにその渦の中に右手を入れて一本の剣を引き抜く。それは、昨晩「魔の森」でB級の魔物を一太刀で切り伏せた漆黒の剣であり、異様な威圧感を周囲にまき散らす。


 アルは皆にその剣を見せた後、すぐに黒い渦の中に収める。そして、手を引き抜くとその黒い渦は霧散するように消え去った。



「「……」」



 眼前で繰り広げられた一幕に、みなが声を失う。そして皆の中で、アルへの認識がもう一段階跳ね上がったのだった。







 イーストダンジョンの1階は、相当な広さを誇っている。アルが事前に仕入れていた情報通り、ノースダンジョンよりも魔物のレベルは高いようで、同じ魔物でも大きさと強さが桁外れに高い。アルの「鑑定眼」では、「種族名」と「危険度」、そしてその魔物の特徴は見ることができるのだが、魔物の詳細なステータスまでは見ることができないため、同じ種族名でも気を抜くことはできない。


 しかし……。


 一体、また一体と地面に転がる魔物たち。青い刀身を器用に扱うソーマと、狭い洞窟の中で長い刀を器用に振るキース。そして、ルージュも針金のように細いレイピアで魔物の急所を的確に貫いていく。クリスも負けずに奮闘しているが、他の三人には見劣りしてしまう。


 かくいうアルとリリーは、後方で魔法を撃ちつつ援護射撃を続ける。


 魔物の集団を屠り終えて、ソーマは嬉しそうに声を上げる。



「アルがいるだけで戦いやすさが全然違うな!」



 その言葉にリリーとクリスも首を縦に振る。どうやら、想像以上にノースダンジョンでは苦戦を強いられていたようで、ダンジョンに入る前のリリーの不安そうな顔の理由が分かった。といっても、ルージュとキースが加わっていることも大きい。


 それに付け加えて、ソーマの成長も著しいようにアルには思えた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ソーマ(12)

種族:人間(種族値A)

称号:平民 G級冒険者

HP:2,100/2,500

MP:500/500

魔法適性:火

罪状:なし

状態異常:呪い


――――――――――――――――――――――


野心:72 忠誠度:85

レベル:19(知+5,攻+40他+25/毎)

攻撃力:820(170)

防御力:550(170)

知力:190

俊敏力:550(170)

スキル:両手剣(1) 片手剣(6) 

ギフト;剣の道(剣術のスキルが伸びる)

加護:なし




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 未だに「状態異常:呪い」の影響でステータスは制限された状態ではあるのだが、片手剣スキルが伸び続けていることで見えない部分で能力が向上しているようだ。以前はアルが与えた剣を振るのでさえおぼつかない様子だったが、スキル上昇に伴って問題なく扱えているようだ。


 ただし、クリスの方は少し問題があるようで……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




クリス・ブラウン(13)

種族:人間(種族値:B)

称号:ブラウン男爵家次女 劣等生

HP:900/1,200(1,500)

MP:1,600/1,600(2,000)

魔法適性:水

罪状:なし

状態異常:なし


――――――――――――――――――――――


野心:38 忠誠度:60

レベル:13(知+25、他+15/毎)

筋力:224

防御力:224

知力:320

俊敏力:224

スキル:片手剣(3) 礼節(2) 手芸(3)

    両手剣(1) 弓術(1)

ギフト:熱血(感情の起伏によって知力と筋力に補正)

    封印の珠(常時ステータス値×0.8、

        解放時ステータス値×1.5)

加護:なし




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 レベルの伸び方もスキルの伸び方も、ソーマとは比較できないほどに低い。スキル上昇に関していえば、ソーマのギフトの影響もあるので何とも言えないのだが、以前にはなかった「両手剣」や「弓」スキルが生えていることにも、彼女の悩みが見て取れる。


 クリスの性格を考えると、このまま放っておいて良いとも考えられない。


 アルは本来の目的と共に、クリスの事にも目を光らせながら歩みを進めていった。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回から「イーストダンジョン」編です。

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