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152話 報告




 真っ暗な自室で、ベルは一人ベッドに横たわっていた。


 アイザック王国第3王女であるラウラを娶ったのだが、寝所は別々にしてある。

 ラウラとは昔からよく知る仲であり、恋愛感情も抱いてはいるのだが、どちらかと言うと親愛の情のほうが深い。

 女性としての魅力は十分すぎるほどに感じるのだが、一年間で劣情にかられることはなかった。



 ベルは小難しい顔で傍らに雑に置かれている資料を手に取る。


 正直、ベルには政治的手腕も難しい状況を打破する頭脳もない。

 それはベル自身よく知っていることであり、だからこそ自分の長所である「魔法」を極めてきたのだ。


 しかし、こうして自分の領地を持ち、守るべき領民や家族がいることで、何かしなければならないという焦りは感じていた。

 しかし、いかに頭を捻ったところで、そう簡単に良い手が浮かぶはずもなく、己の情けなさに頭を抱える。


 すると、扉が小さくノックされた。



「――誰だ?」


「夜遅くにすみません。アルフォートです」



 その声を聞いて、ベルは警戒心を解く。ベルにとってアルは一番信頼のできる人間であり、アルの声を聞くだけで安心してしまう。


 ベルは当然の様に入室を許可する。

 すると、金色の髪をした青年が部屋に入ってくる。しかし、ベルは入ってきた青年の姿を見て、少し訝し気な表情を浮かべる。

 この夜分にもかかわらず、外に出られるようなしっかりとした衣服を身にまとっていたからだ。


「今からどこかへ行くのか?」


「いえ、ついさっき魔の森を見てきたところです」


「……はぁ、もう行ったのか。俺はお前の力を知ってるからもう驚きはしないが」



 ベルは少し呆れたような表情を浮かべるが、これこそアルだと思い直す。

 自分の得意な魔法ですらもアルの足元にも及ばないという事実を知っているため、自分が成し得ない事をアルが悠々とこなしても、もはや驚きはしない。


 アルはそんなベルの顔を真剣に見つめながら、魔の森についての報告を続ける。



「魔の森の調査を少しだけ行いましたが、どうやら魔族が関与しているみたいで」


「……魔族か」



 ベルの呟きにアルは一つ頷く。

 


「魔族はおそらく一人ですが、僕の『鑑定眼』が発動しなかった人物がもう一人いました。その人物は魔物の数を詳細に把握できる能力を持っているようです。

 あと、もしかしたら空間干渉系の古代魔法にも精通しているかもしれません」


「……面倒だな。場所が『魔の森』なのが余計に面倒だ」



 魔の森は元々魔物が多く湧く特殊な場所だ。

 その魔物の数を詳細に把握できる存在と言うのは非常に厄介だった。

 もし、魔物を従える術を持っているならば尚のこと厄介なのだが、アルの「鑑定眼」が発動しなかったことで、そこまでの情報を得ることはできていない。情報が得られれば取れる対策も考えつくのだが。


 ベルは少し考え込む。

 これまで、殆ど伝承の中にしか出てこなかった魔族が、ここ最近で活動を活発にしている。そして、魔の森にまでその手は伸びており、魔物の多い場所を占拠されると色々と面倒でもある。



「――アル。お前は奴らの目的は何だ思う?」



 ベルはそう尋ねる。ベルには魔族の目的が一切分からない。勿論、魔の森を取られることは面倒極まりないのだが、アルのいう魔族は他の街に侵攻していない。戦力的には十分可能であるのに、だ。



「現時点で確定はできませんけど、周辺の街の力を削いでいる事は間違いないと思います。そこから考えられる最終的な目的は、来たる人間界への侵攻だと思いますけど……」



 アルは一旦言葉を止める。そして、真剣な目でベルを見据えた。



「――今回は、ベル兄様を狙っていると考えるべきだと思います」


「……そうか」



 ベルは目を細めてアルを見る。そして、小さくため息をついた。



「――やはり、お前の読み通りという事か」



 その言葉に、アルは頷く。現状は、夕方にアルが言っていた内容に合致していた。魔族によるものだと仮定した時に、その目的は「ベル」であると。



「えぇ。ですから、夕方にお話しした方向で動いてください。魔族の方は僕の方で何とかします」


「……分かった。ただ、戦闘には俺も参加する。その方がアルもいいだろう」



 ベルの言葉に、アルは申し訳なさそうに頷く。ベルが言っているのは、王都の件の様にベルを隠れ蓑にするという事だった。実力を秘匿しているアルにとっては、ベルの提案はとても嬉しい。



「そうですね。またベル兄様を盾にして申し訳ないですけど」


「それはもういい。お前の本当の力がバレるほうがまずいからな……」



 それから二人は、これからの事について話し始めた。話が終わるころには、もうすぐそこに朝が近づいていた。







「――今日はダンジョンへ行きましょう!」



 寝不足のはずなのに、いつもと変わらない綺麗な顔でアルはそう告げる。朝食を食べていた級友たちは、一瞬あっけにとられるが、勢いよく立ち上がったソーマの一言が食堂に響く。



「よっしゃ! 久しぶりのダンジョンだぜ!」



 それを皮切りに、皆概ね良好な反応を見せる。最近は馬車の旅やグランセル領での訓練だけで、魔物との戦闘は殆どなかったため、ダンジョンでの戦闘に飢えていたのだろう。――とアルは考えていたのだが、彼らの心中では、アルとダンジョンへ行ける事への嬉しさが強かった。


 そんな彼らの心の声はアルには届いておらず、アルはこれから伝える事項への不安が芽生えていた。



「ただ、今回は3日ダンジョンに潜り続けるつもりです」



 一瞬、場が静まりかえる。みなどういうことか分かっていないという感じだったのだが、キースが冷静にその言葉を咀嚼する。



「……なるほど、遠征の練習でもあるってことか」


「そうです。ただ、女性にはきついかもしれないしれないので、今回は自由参加で」



 女性にはダンジョンでの野宿はきついだろうという事で、今回は自由参加としたのだが、すぐにクリスが立ちあがる。



「私は平気です」


「私も気になりませんよ」


「私も。……ただ、あまり近づかないでほしいのです。その、匂いとか気になりますので。いや、アルフォート様がお気になさらないのなら、いいのですけど……」



 クリスとリリーは快諾するが、ルージュだけは少し気にしているようだった。どちらかと言うとルージュの方が真っ当な反応のような気がするのだが、この場においては彼女が一番おかしい反応を取っているように映る。


 そんなルージュは別として、女性陣も快諾してくれたようでアルはホッとする。



「分かりました。馬車や食料などの準備はもうできてますので、皆さんの装備が準備ができ次第出発します。……そうですね、一時間後くらいを目途に各々準備してください」



 アルは皆にそう伝える。


 今回の3日間で、アルは彼らを強くするつもりだ。今は何があってもおかしくはない。そんなご時世だからこそ、自分の知り合いには死んでほしくはない。


 アルはもうじきアイザック王国を離れる。しかし、その前に彼らを強くさせたい。


 

 アルはそんな気持ちと、朝方まで話し合った計画とを併せ持ちながら、何事もなく作戦が成就することを祈っていた。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


再びダンジョンへ。更新速度落ちてすみません。

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