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150.5話 ユリウス冒険譚(15) 剣聖編

※『ユリウス冒険譚』の続編になります。

本編には大きな影響はございませんので、興味のない方は読み飛ばしていただいても構いません。

本日2話目の投稿なので、まだ読まれていない方は一つ戻って読んでいただけると嬉しいです<(_ _)>




 剣聖一行とナノたち10数人はともに「盟主の王城」を目指して旅をつづけました。


 ナノたちは不用意に剣聖一行に近づこうとはしませんでしたし、剣聖一行も注意深く彼らと接していたので、特に大きな諍いなどは起きませんでした。剣聖グラッゼは正直、その事にホッとしていました。



 南方の地に降り立った彼らは、大陸の中央にある「盟主の王城」を目指して北上していきます。一度目の戦闘以降、魔族と鉢合わせることはありませんでしたが、その地に巣くう強大な魔物などとの戦闘は数えきれないほど経験しました。


 それは、「盟主の王城」へ近づけば近づくほど数を増やし、彼らは徐々に疲れを蓄積させていきました。しかし、どんなことがあろうとも二つの集団が共闘することはなく、ただお互いに近くにいる魔物を屠るだけでした。



 ともに行動を始めてから、約一か月が経過しました。彼らは、魔族が占領している「盟主の王城」の周囲を覆っている紫に変色した森に辿り着きました。



「……これが『盟主の王城』へ続く道か?」



 剣聖は信じられないようにそう告げます。紫に変色した植物が非常に気味が悪く、剣聖たちは足を止めます。


 しかし、ナノたちは足を止めることなく進んでいくので、彼らもその後をついていきました。


 


 大体4日ほど歩いたでしょうか。


 紫の森の中では、強大な魔物がうようよとそこらかしこを歩いていて、幾ら倒してもキリがありませんでした。部隊は徐々に疲弊していき、未だ余裕があったのは剣聖グラッゼと魔法に長けていたナノだけでした。


 このまま進むと、少なくない被害が出ます。ナノの言うことには、森は半分以上突破していて、もう少しで「盟主の王城」へたどり着きそう。


 剣聖グラッゼは悩みます。


 ここまでの道中、幾度とも繰り広げられてきた死闘によって、剣聖グラッゼは驚異的な成長を見せていました。それは周囲のものたちも簡単にわかるほどの成長であって、彼一人ならばこの森を進むのも難しくはないと思っていました。


 そのため、剣聖グラッゼはある決断を下します。



「我はここから一人で王城へ向かう。お前たちは森の入り口あたりで待っていろ」



 奇しくも、剣聖グラッゼが出した答えはナノたちが慕う「異端の魔導士」と同じものでした。


 当然、騎士たちはその考えに異を唱えます。彼らとて、自らの故郷を奪われ、家族を奪われた被害者であり、その仇を取るために強大な魔物たちと死闘を繰り広げてきたのですから。しかし、彼らの主張は剣聖グラッゼの一言で退けられます。



「お前たちには家族がいる。もし、お前たちが死んでしまったなら、また新たな争いの火種になる。魔族を打ち倒した後に、我らのこの勇敢な意思がどこへ向かうのか。私は、決して誰も死なせない」



 剣聖グラッゼは皆を説得します。


 彼らは、剣聖グラッゼの言葉の真意を汲み取りました。彼らの胸の中に渦巻く「憎悪」は決して消えません。しかし、その憎悪が魔族を打ち倒したからといって、拭い去ることもできないのです。


 憎しみによって振るわれた剣は、また新たな憎しみを生みます。


 剣聖グラッゼには家族がいません。だから、彼が死んでしまっても誰も悲しむものはいないのです。しかし、彼らは違います。皆、南方の島々に待っている家族がいます。



 彼らは素直に頷きました。


 彼らだって、自分たちが居ても剣聖グラッゼの邪魔にしかならないことを理解していました。彼らを突き動かしていた勇敢なる憎悪は、形を変えて剣聖グラッゼに受け継がれます。



 ナノたち「忌み子」も同様に、ナノとそれに次ぐ実力者だけを引き連れて、それ以外は剣聖一行とともに森を出ていきました。


 

「貴方は、私達の主によく似ています」



 ナノは剣聖グラッゼにそう告げます。初めて、彼女の口から主の人格面に関する話題が出てきました。ナノという少女は、尚も言葉を続けます。



「……私たち、魔族と人間のハーフ、この大陸では『忌み子』と呼ばれる者たちは、生まれた時から蔑まれる存在です。私たちの主も同じ『忌み子』ですが、あのかたは私たちでは想像もできない大きな信念に突き動かされているのです」


「それは、魔王を討伐するという信念か?」



 剣聖グラッゼはそう尋ねますが、ナノは小さく首を横に振りました。



「魔王の討伐は、あのかたにとっては通過点に過ぎません。もっと崇高で、もっと果てしない信念です」



 剣聖グラッゼはその崇高で果てしない信念に非常に強い関心を抱きました。そして、その信念を持っている彼女たちの主にも。


 しかし、ナノはそれ以上は話すつもりはないようで、部下らしき随員に指示を出します。



「少し話過ぎてしまいました。もうじきに日が暮れます。このあたりで火を起こします」



 そう言って、彼女も元の集団のもとへと戻っていきました。初めて、語られた彼女たちの主について、剣聖グラッゼは思いをはせていました。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は外伝なので、次回からまた本編に戻ります。


「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけたなら、ブックマーク登録と評価ボタン、いいねの方を押していただけると嬉しいです<(_ _)>

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