15話 お披露目会(2)
レオナルドに小言を言われてからは、変な好奇心を出さないように努力した。
少し気を抜いてしまうと色々と探求したくなってしまうので、今度は他の参加者の観察を行うようにした。
今回のお披露目会に参加しているのは、ガンマが招待状を出した貴族階級の人たち、そしてその子息や息女が大半だった。
しかし、他にもレオナルドが個人的に親しくしている者たちも招待されているようだ。
例えば、サルーノのような個人で商人として活動しているものだ。
彼らはそれほど大きな事業はしないが、個人的に小規模な依頼をするときは、その軽いフットワークが有利に働く。そのため、レオナルドは彼らのような商人と仲良くしていた。
他にも、貴族とは思えないが屈強な体を持つ騎士階級の者も参加していた。
彼らはなぜか挨拶に来なかったので名前はわからないが、時折こちらへ視線を向けてくる。アルはその視線に気が付いてはいたが、あえて気が付かないふりをした。
商人たちの挨拶が終わると、アルは自由時間となった。
といっても同じ年代の子はいない。それもそのはずで、さすがに5歳未満の子を公爵家のパーティーには参加させられないだろう。
なにか無礼を働くと、飛ぶ首はその子だけでは済まないだろうからだ。
そのため、基本的には用意された席で運ばれてくる料理を攻略する。
これは最近気が付いたのだが、アルの元へ運ばれてくる料理だけ他の人たちとは違う味付けがされていた。どうもダンはアルの料理だけレシピ通りでなく、自分のアレンジを加えた物にしていたのだ。
ハンバーグの味が少しずつ変わっていたので、ダンにそのことを聞きに行った際にそのことを教えてくれた。
別に害されているわけでもないし、食べられる料理が増えるのは喜ばしい事なので何も言わないが、それを聞いてからどのようなアレンジをしているのか考えながら食べるようになった。
──今回のは普通のものより少し焼き時間が短いな。ソースもトマトの味が強くなってる。
アルはハンバーグを食べながら、アレンジレシピを解読していく。
しかし、今回のは少し難しい。
──これは、何かレシピにないものを入れている?
アルは今まで食べてきた食材を頭の中でいろいろと思い出していく。しかし、どれもピンとこなかった。
──おそらく、何か香辛料だと思うけど……。
いくら考えても答えが分からない。アルは立ち上がる。
「少し席を外します」
アルはレオナルドにそう言って、会場から出ていく。向かったのは御手洗いではなく調理場のほうだった。
「おぅ、来ると思ったぜ!」
そう言ってダンさんがニカっと笑う。その表情からは余裕さが見て取れた。
今までは翌日の午前中に調理場を尋ね、その答え合わせをしていた。そして、その答えが間違っていたことはなかったのだ。
しかし、今回はその日に尋ねてきた。そのことから、ダンさんは自らの勝利を確信していたのだ。
「これは、山椒ですね」
ダンは目を見開いた。山椒、別名ハジカミともよばれる香辛料だ。前世では、食べたことのあるものだが、今世ではまだ食べたことがなかったので、答えを導き出すのに苦労した。
「……こりゃー驚いた。最近手に入れたばかりの香辛料なんだが」
この周辺では栽培されていない植物から作れる香辛料なので、なかなか手に入らない物だった。それ故に、公爵家の食卓に山椒を使った料理は並ばない。
「食べた事はないですね。ただ、知識としては知ってましたので」
アルはそう答える。
というか、それ以外には答えられなかった。食べたことが無いことは、食事を作っているダンが1番分かっていたからだ。
「坊ちゃんには勝てねぇな~」
ダンは勝ちを確信していたので、少し悔しそうだった。
──知らないふりをしたほうがよかっただろうか?
ダンの表情を見て、アルはそんな気持ちになった。
「次はもっと珍しいのを仕入れますぜ!」
アルの気持ちとは違い、ダンは再度ニカッと笑った。悔しい気持ちはあるだろうが、ダンはまだ諦めてはいなかった。
「……負けませんよ?」
アルはそう答える。
アルにとって初めてのライバルはダンだ。
「──ここはどこなの?」
会場へ戻ろうとすると、一人の少女があたふたとしていた。アルと同じくらいの歳の子で、綺麗なドレスを身につけている。
「どうかしましたか?」
アルはその少女に声をかける。少女は声をかけてきた同じくらいの歳の男の子を見て、少し涙ぐむ。
「部屋を抜け出したら迷子になって……」
少女は溢れそうな涙を堪えながらそう答える。
──部屋を抜け出す?
ここは公爵家で、使用人の中にこんな可愛い女の子はいないはずだ。
「部屋とは、人が大勢いたパーティーの会場ですか?」
多分違うだろうが、一応確認する。
「いえ、使用人と私だけの部屋です」
やっぱり、会場へ連れて行けば良い訳ではないようだ。
──わざわざ部屋を用意するとは。
アルは彼女の身分が高いことを何となく察する。しかし、そんな身分の高い人が来ることをレオナルドは教えなかったのか、そこが腑に落ちなかった。
ただ、今はそれどころでは無い。この子を何とか部屋に返さないとな。
「何となく分かりました。僕に着いてきて貰えますか?」
アルはニコッと笑いかける。少女はキョトンとしていたが、少し経ってから小さく頷いた。
──高貴な身分のほうを待たせるなら、おそらく応接室だろう。
アルはそう判断して応接室のほうへ歩いていく。アルの後ろを追うように、少女も歩き出す。
この出会いが、少女の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回はお披露目会の続編ですね。
ヒロイン?らしき人物が登場しましたが、彼女は一体誰なのでしょう。
さて、次回もお披露目会の続きです。
出来るだけ早く投稿できるよう、作者も頑張ります!