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137話 剣術大会(7) 明暗

※本日2話目です。17時頃にも投稿しておりますので、まだ読まれていない方は一つ戻ってください<(_ _)>




「いや~、まさか俺たちが優勝するなんてな!」



 個別訓練場に集まったいつものメンバーの輪の中で、ソーマは嬉しそうにそう言う。今ここにいるのは、ソーマ、リリー、クリスの3人だ。最近はアルが魔術科の授業に出ているため、この三人で集まっていることが多かった。


 剣術大会が終わり通常の授業に戻った。そのため、アルはこれからまた魔法科の授業に参加することになる。


 しかし、剣術科の生徒たちはそうではない。剣術大会が今学期最後の行事であり、今日からは長期休暇に入るのだ。



「――それにしても、まさかBクラスが棄権するとは思わなかったよね」


 

 リリーは昨日の出来事を思い返しながらそう言う。


 剣術大会はEクラスの優勝で幕を閉じた。しかし、決勝戦は行われず、Bクラスの棄権での不戦勝での優勝だった。


 Bクラスは一回戦を圧勝で飾っており、当然決勝戦も戦うものだと思われており、ソーマの負傷によっていくらアルが強いとは言え、苦戦は免れないだろうというのが大方の予想だっただけに、Bクラスの棄権というのは予想だにしない事態だった。



「そうだな。特に私は何も出来ていないから、あまり優勝したという実感はないのだが」


「それを言ったら私もそうですよ! 私なんてそもそも大会に出てもいないし」



 暗い表情を浮かべるクリスに、リリーは少し自虐的におどけて見せる。しかし、彼女の表情は暗いままだった。



「――いや、リリーには魔法がある。もし魔法も使用できるというルールなら私よりもリリーの方が選ばれていただろう」



 そう、今回の剣術大会では魔法は使用禁止というルールが設定されていた。厳密に言うと、エルメスとアルはそのルールを破っている事になるのだが、剣術と魔法が混在する剣術など未だ認知されておらず、ルールの適応外となった。


 そのような例外があったとは言え、リリーの戦い方は完全にルールによって縛られる。故に、代表にはクリスが選ばれたのだ。


 その事に対して、クリスは後ろめたく思っているらしい。そして、野外演習にてついたわずかな自信は、キースとの戦闘によって打ち砕かれた。残るのはただ実家の剣術にすがる弱い自分だけだった。



 そんな彼女を見て、ソーマとリリーは顔を見合わせる。そして、ソーマは小さく頷く。



「――よし! 長期休みは毎日ダンジョンに潜ろうぜ!!」


「「え、毎日!?」」



 ソーマの突拍子もない提案に、二人は声を合わせて驚く。


 長期休みの過ごし方は自由だが、基本的には体を休めることが求められていた。そのため、ダンジョンに潜るのは1週間のうちに多くても2,3度くらいが普通だった。そして、それ以外は自分の剣術の型を確かめたり、休暇を取るのが普通の過ごし方だ。


 しかし、ソーマはそんな二人の驚きを笑って吹き飛ばす。



「あぁ! 『悩んだときは体を動かせ』って……アルなら言いそうじゃんか!」


「アルフォート様なら的確なアドバイスを送る気がするけど……」



 リリーの呟きにクリスも同調する。この場にアルがいれば、何らかの解決策を提示してくれる。そんな期待がクリスの中にはあった。


 しかし、そう呟いたリリーも徐々に気持ちを変化させる。



「――でも、確かに戦闘で自信をつけるのは大切かも。初めての野外演習の前に、私達が同じような状態になった時、戦って自信をつけたことがあったし」



 以前、初めての野外演習に緊張しているリリーたちを見て、アルは魔物との戦闘を体験させた事があった。それも、相当に高いランクの魔物との戦闘を。


 その当時……といってもそこまで前の話ではないのだが、そこまで大したことではないと思ったりもしたが、今ではあの時の無謀さに冷や汗が出る。アルがいたからこそ、出来たことだったのは間違いない。



 その時にはクリスはいなかったが、クリスとて野外演習でのオーク戦を経験している。あの時の自分は、絶対に勝てない相手に立ち向かっていけた。その気持ちは忘れられないだろう。



「……そうだな。立ち止まっていては何も変わらない、か。――よし、私は自分の可能性を信じよう」



 クリスはそう決意する。ここで立ち止まっては成長などあり得ない。自分に何が必要なのかは未だ分からないが、何かを変えないと自分が腐ってしまいそうだった。


 クリスの決意を感じ取り、ソーマは満面の笑みを浮かべる。



「そうと決まれば、今から……は無理か。明日の朝一番にダンジョンへ行くぞ!」



 ソーマの言葉に2人も同調する。彼らの長期休みは今始まったのだ。










「――まさか、イレギュラーが発生するとはな」



 真っ暗な空間にフードを被った男がそう呟く。眼前には一人の女性が傅いている。



「はい。本来ならば決勝でエルメスの悪感情を開花させる予定でしたが。……どうやら芽を摘まれたようです」



 線が細く、未だ幼い印象を与える声色のその女性は現状を報告する。


 彼らの目的は思わぬところで頓挫した。それも、以前と同じ「グランセル公爵家」によって。



「忌々しい『グランセル』か。いつも我々の邪魔をする……!」



 フードの男の声色に少しの怒りが込められる。眼前の女性は少し身を震わせて体を小さくさせた。



「……どうされますか?」



 女は少し間を置いて男の機嫌を探るように声をかける。


 未だ怒りが収まらない様子だったが、このまま指をくわえているわけにもいかない。場が動けば、自らもまた動かなければならないのは必至。



「エルメスの魔族化は諦める。これよりプランBに移る。……お前は殿下に接触し、合意を得て来い」



 男は本来の目的を諦めるという決断を下す。いや、既に忌々しいグランセル家の者によって彼らが撒いた芽は摘まれてしまっており、方向転換はやむなしという状況になっていた。


 フードの男はプランBに移ると言い、女に指令を下す。すると、女は少し眉を上げて反応を見せる。しかし、フードの男の命令は絶対だ。



「――はい。畏まりました」



 女はそう言ってその場から消える。そして、その場にはフードの男だけが残った。


 男は胸元に手を入れて、一枚の絵を取り出す。そこには、彼が唯一欲するものが描かれていた。



「……ふん、いずれはお前を――」



 そう言って男は瞳を閉じる。そして、深い闇に飲まれるように暗闇に消えていったのだった。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


実は別のルートを考えていましたが、少しプロットを変更しました。本来ならばあと2,3話続く予定でしたが、此方の方が面白いかな?って思った次第です。


皆様の期待される展開になっているかは分かりませんが、これからも応援いただけると幸いです。感想などお待ちしています<(_ _)>

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