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136話 剣術大会(6) 怪物

※本日、もう1話投稿します。一応、次の話で剣術編は終了です。




 舞台はソーマの勝利という余韻に浸る時間もなく、すぐに次の試合が始まろうとしていた。


 先の対戦によって負傷したソーマはその場で棄権し、次の対戦は大将のアルとAクラスの副将であるルージュ・ボーフォートというカードである。ソーマの容態を確認していたため、アルは遅れて舞台に上がる。



「『神童』と名高いアルフォート様に、私の様な若輩者がお手合わせ願うなど一生の誉と存じます!」



 ルージュは左手を胸に当ててそう告げる。その格好は正に忠誠を誓った騎士のそれであり、一学生が同い年の少年に向けてする行動とは思えなかった。



「……ルージュさん、そんなに畏まらなくても」


「いえ! 私は以前よりアルフォート様のことを尊敬しておりました。忌々しいクロムウェル伯爵の事件さえなければ一緒のクラスで学べたものを……本当に忌々しいことこの上ない」



 ルージュの発言にアルは眉を顰める。


 これまでの発言からしてアルに対しての異常な忠誠心は垣間見えていたが、いくら何でも情報を知り過ぎている。


 クロムウェル伯爵家の一件を知っているのは国の上層部とその事件に関わった者達だけだ。それを知っていること自体おかしなことではあるのだが、何よりアルが元々剣術科を志望していることを知っている事に驚きを隠せなかった。


 このことを知っているのはグランセル公爵家の使用人であるクランと教官のデイビットのみ。それ以外の人物にはアルが元々剣術科を志望していたことは伝えていなかった。



「ルージュさん、今は試合に集中しましょう。……お話はその後に」


「……はい!! そうですね、クラスは違えど私たちは同じ学園に通う同志なのでした! ……どうしてこんな事に気づけなかったのか」



 アルの言葉にルージュは嬉しそうにそう言う。しかし、アルの言う「お話」と彼女の考える「お話」には多少の誤差がある。


 ルージュは一度表情を締め直す。目を閉じて大きく深呼吸を一つする。そして再度目を開けた時、そこにはさっきまでの尊敬の瞳ではなく、騎士の非情な瞳があった。



「――では、私の全てを以って挑ませていただきます!」



 そう言って彼女は腰に下げていた剣を引き抜く。


 針金の様に刀身が細い、いわゆるレイピアに近い剣であった。彼女は右手に握ったその剣を左右に数回振ってみせる。すると、風を切る音と日光を反射するまばゆい光がアルに届く。



「――なるほど。これがボーフォート家の剣術ですか」



 アルがそう呟いた時、既にアルの剣と彼女の剣が触れ合っていた。


 光が届いたと思った時、既に彼女の体は動き出しており一瞬でアルとの距離を詰めていた。力は決して強くはないし、当たり所を悪くしなければ致命傷になり得る剣ではない。しかし、彼女の俊敏性と速さ、手数を追い求める彼女の剣術との相性は抜群だ。



「流石はアルフォート様。初撃を簡単に止めてみせますか」



 ルージュはすぐに後ろに退き、体勢を立て直す。アルに対する対抗心というよりも、自分の剣術を認めてもらいたいという気持ちの方が強いようで、その剣に迫力はない。


 アルは少し小さな息を吐く。


 アルは剣を両手で握り、ゆっくりと切っ先を相手に向ける。そして徐々にその距離を詰めていく。そのスタイルは前世で学んだ剣道に近いが、厳密に言うと少し違う。


 アルはゆっくりと近づいていく。そして、アルの剣先が彼女の喉元に止まる。



「――え?」



 ルージュは驚きを隠せなかった。


 アルの動きは目で追える速度だった。それ故に、アルの動きを予想しつつ備えていたつもりだった。しかし、いつの間にかアルの剣の切っ先は自らの首もとを捉えていた。


 訳が分からないままに敗北してしまったルージュはその場で剣を落とす。甲高い金属音が会場に響き渡る。その音を合図に、息をするのも忘れていた観客たちが声を上げる。それはどよめきを含む歓声だった。


 しかし、そのどよめき交じりの歓声を一人の男の笑い声がかき消す。


 

「……ふっ、フハハハハハ!!」



 その男は凶暴なほどに大きな大剣を手に高笑いをしながら舞台に上がってくる。さっきまでの無関心な表情ではなく、そこには子供の様に無垢でありながら殺人鬼の様に凶悪な表情があった。



「面白い……こんな気持ち久しぶりだ! いいか、俺には手を抜く必要はない。俺も殺すつもりで行くからな!!」



 そう言ってエルメスはアルに襲い掛かる。未だ放心状態のルージュが舞台に居るにも関わらず、エルメスは大技を放つ。



「――ッ!」



 アルは咄嗟にルージュの前に立ち、彼の剣を受け止める。


 重く鋭い感覚が手に残る。その衝撃は、これまで対峙してきたどの人物よりも重くて鋭い。魔族であるグラムをも超える攻撃であった。


 アルは彼の剣を弾き返し、すぐに「鑑定眼」を発動させステータスを確認する。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



エルメス・ノースウォーク(13)

種族:人間(種族値:B)

称号:ノースウォーク公爵家五男、怪物

HP:4,000/4,000

MP:300/500

魔法適性:土

罪状:なし

状態異常:筋力強化


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


野心:95 忠誠度:0

レベル:30(知+5、防+10、他+20/毎)

筋力:680(+200)

防御力:390

知力:245

俊敏力:680

スキル:大剣(5) 礼節(1) 筋力強化(2)

ギフト:なし

加護:なし




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アルはまさかのステータス値に驚愕する。


 まず目を見張るのは彼のレベルだ。レベルが30に至るまで、彼は実戦経験を積んだという事になる。ソーマ達のステータスの変動を見る限り、魔物との戦闘が一番経験値が入りやすいという事は分かっているので、彼もおそらくは魔物を倒し続けて今のレベルに到達したのだろう。


 そして、彼はアル以外には初めて見る「筋力強化」をしている。


 この大会は魔法は使用禁止だ。しかし、筋力強化というものは一般には広がってはおらず、アルが独自に見つけ出した魔法になる。おそらく彼は無意識に「筋力強化」を行使しているのだ。



――怪物。正にその通りだった。



 アルが彼のステータスを確認している間にも、彼は幾度となく攻撃を仕掛けてくる。


 ノースウォーク家の剣術は恵まれた体格から振り下ろす大剣技がメインだ。しかし、その質量と遠心力を器用に使った横切りや足払いなど、厄介な技も併せてくる。それに付け加えて、アルの後ろにはルージュが居る。つまり、筋力強化をした相手に対して、アルは後方の庇護対象を想定しながら戦わなければならないのだ。



「――へへっ、これも防ぐか。それならこれはどうだぁ!?」



 エルメスは血走った眼を大きく見開きながら次の攻撃を準備し始める。その準備とは、一度引き抜いた大剣を鞘に納め、重心を下にするというもの。そして、彼の手から大量の魔力が大剣に流れていく。


 これは以前、アルが実験していた魔力を剣に流し込むというものである。そして、この場でそれを知覚できるのは、「魔眼」を持つアルだけだった。



 アルはルージュを抱きかかえ、舞台の端に向かう。その瞬間、ルージュから「きゃっ」という可愛らしい声があがっていたが、そんな事に気を取れないほどにアルは急いでいた。


 アルは舞台上からルージュを地面に下ろす。すると、後方に強い殺気を感じ取る。



「おら、いくぞぉぉぉ!!」



 アルの目に、魔力暴走寸前までため込まれた彼の大剣と、狂気的な表情を浮かべるエルメスの顔が映る。もはや周囲への配慮など彼にはない。眼前の敵を倒す、強者を打ち倒す快感を得るという欲望だけが彼を突き動かしている。


 アルは剣を構える。そして、エルメス同様に剣に魔力を送り込む。



 エルメスはアルに向かってその剣を引き抜き振り下ろす。距離は約10Mほど離れており、その剣がアルに届くわけがない。しかし、アルも剣を横に振る。


 すると、二人の剣から斬撃が飛んでいく。その斬撃は二人の丁度真ん中で衝突する。



「――何!? 俺の剣技が押されているだとっ!?」



 二つの斬撃は衝突し拮抗するものの、若干エルメスの方が押されている。その事に、エルメスは驚愕を隠せない。


 エルメスは自分の持つすべての魔力を剣に注ぎ込んでいた。倒れ込みはしないまでも、視界が少し霞み始めるほどに彼の体は悲鳴を上げている。そんな最終必殺技を放ったにも関わらず、自らの斬撃が負けているのだ。


 エルメスは二撃目を放とうと再度剣を納刀する。しかし、それは叶わない。



「――それ以上は止めた方がいい。貴方の体がもちません」



 いつの間にかエルメスの眼前に移動していたアルによって、大剣が納刀されることはなかった。



「お前、強いな……。ははっ、こんなに強い奴が近くに居るなら、学園に通うのも悪くはねぇ」



 エルメスの視界は霞み、朧げな影だけが目に映る。しかし、その姿は脳に強く焼き付いた。


 初めて負けた。


 初めて、エルメスは敗北の味を知ったのだ。しかし、存外悪くない。ただ、愚直に魔物を倒し、機械的に騎士を屠るよりも、何倍も彼を突き動かす。



「俺の負けだ。だが、次はお前の首を貰うからな……」


「えぇ、またいつでもお相手しますよ」



 アルの言葉を聞き、エルメスはいつぶりかの和やかな笑顔を浮かべる。そして、張り詰めていた糸が切れたかのように、意識を手放すのだった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

これにてAクラスとの戦闘はお終いです。

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