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133話 剣術大会(3) 希望




 「落ちこぼれ組」と揶揄され続けてきたEクラスの勝利に、会場は異様な空気に包まれていた。負けたDクラスなど、誰一人声を出すこともできないような状態であり、反対にEクラスの生徒たちは大いに盛り上がっていた。


 次はCクラスとBクラスの対戦なのだが、会場ではそれらの話題は皆無だった。


 対戦を終えたアル達は舞台を降りて控え場所に一旦下がる。会場の盛り上がりとは正反対に、アル達の間には会話はない。静かに控え場所に戻ってきたアル達は、備え付けられた椅子に腰を掛ける。



 すると、ようやく歓喜が現実に追いついてきたのか、クリスが小さな声を上げる。


 

「……勝った? 私、勝ちました!」



 彼女はそう言って表情を綻ばせる。それは、初めておもちゃを買ってもらった子供のようで――いや、この世界でいうところの初めて自分の力で魔物を倒した時の達成感の方が近いのかもしれない。


 そんな身を震わせるほどの達成感が彼女の体を走り抜けていた。



「おめでとうございます。この勝利はクリスさんの物ですよ」


「ありがとうございます!本当に、本当にありがとうございます……」


「俺にも回してほしかったのに。……まぁ、すっきりはしたけどな!」



 アルの称賛を受け取り少し涙目になっているクリスを、出番もなく舞台を降りてきたソーマが冷やかす。ソーマも自分の手で彼らとの因縁に決着をつけたかったのだろうが、どうやらクリスの勝利を心の底から祝福しているようだった。そういった人の幸福を素直に祝福できる純朴さが彼の美点だろう。


 二人からの祝福を受けて、クリスは笑顔を見せる。この瞬間が、彼女の人生を大きく変えるきっかけであったなど、今は誰も知る由のない事だった。






 三人で勝利の余韻を楽しんだ後、リリーが待っている会場の観客席に向かった。すると、三人分の席を確保して待ってくれていたリリーが手を振って彼らを迎え入れる。しかし、それだけではない。



「おめでとう! お前たちは俺らの希望の星だ!」



 一際大きな声が彼らの勝利を祝福する。それは、普段から生徒を第一に考えて、生徒の成長を心の底から祝福する教官の鏡のような姿だった。


 アル達Eクラスの担当教官であるデイビットは彼らを抱きしめる。前々から彼を熱心な教官だと思っていたアルだったが、彼の周囲の目を気にしない行動に驚きを隠せない。しかし、決して嫌な気はしない。なぜなら、これこそがアルの望んでいた「日常」だったのだから。



 その後も、Eクラスの生徒たちが順々にアル達の元を訪れては、感謝の言葉と鼓舞する声をかけてくる。今まで話したこともなかった生徒たちも、アル達の成し遂げた「偉業」に胸を高鳴らせており、普段よりも幾分か高いテンションで話しかけてくる。


 そんな彼らの言葉に対して笑顔で受け答えをするアルであったが、とある人物の来訪でそれを中断する。それは、ここ最近常に一緒にいる人物であり、来訪を予期していなかった人物でもあった。



「あれ? 殿下、どうしたのですか?」



 普段は長髪をそのまま下ろしている第6王女だったが、今日はその綺麗な銀髪を三つ編みで結っていて、顔にはほんのりと化粧が施されている。また、カジュアルではあるが品のあるドレスに身を包んでおり、学園の背景と彼女とのギャップは否応なく視線を集める。


 彼女はアルの問いかけに少し不機嫌そうに口を尖らせる。頬はほんのりと紅潮しており照れ臭そうに視線を外す。こんな表情、他の誰にも見せないものであり、アルへの信頼感の強さを感じさせる。



「何、応援に来たのよ。……悪い?」


「いえ、ありがとうございます。といっても、今回は僕の出番はありませんでしたけどね」



 アルはそう言って、今尚Eクラスの生徒たちによって形成されている集団の中心にいる人物に視線を向ける。その視線を追うように、セレーナ第6王女も彼女を見据える。



「……彼女、クリス・ブラウンと言ったかしら。どうして、彼女がEクラスなのかしら」


「クリスさんは才能だけの人ではないからですよ。彼女は人一倍訓練を行い、誰よりも沢山の戦闘を繰り返してきたのです。彼女を支えているのは数値ではなく、経験ですよ 」



 セレーナの疑問は正論である。今現在、彼女の実力は相当に高いところにある。


 しかし、それは()だからそう言えるのだ。


 彼女の実力は、彼女の後天的に身につけた技術と彼女の先天的な才能が嚙み合った産物であり、先天的な能力をどうにか伸ばそうと努力しない者との差は歴然である。それは、彼女の努力によって得た力であり、彼女だからこそ手に入れられた強さなのだ。



 アルの表情からセレーナはその本意を察知する。しかし、その発言のある一部分に対して疑問を抱いた。



「……数値、ね」



 セレーナのその呟きを聞き、アルは表情を凍り付かせる。


 本来、剣術での力を語る時に「数値」などという言葉を使うはずがない。もしその言葉を使うとすれば、見えるはずのない詳細なステータスを見ることが出来る人物だけだろう。


 アルは、クリスの成長を喜ばしく思っていた。それは、自分が目に掛けた生徒の成長を喜ぶ教員と同じで、彼には人しれない達成感を心に抱いていたのだ。しかし、それ故に気を緩めていた。



 アルは必死に頭を動かす。


 この現状をどう乗り切るべきなのか。適当にはぐらかす? いや、それは難しいだろう。彼女は異世界人であると共に「鑑定」というギフトを持っており、その手の発想力は飛びぬけた物があるだろう。だからと言って言葉を紡いだところで彼女を納得させる答えなど用意できないだろう。



「……まぁいいわ。実力によってクラス分けされているのだから、その力量差を数値として考えることもあるだろうし」



 アルが必死に状況を打破する思案を巡らせている中、セレーナは意外にも簡単に引き下がる。何故こうも簡単に引き下がったのか分からないが、アルは胸をなでおろす。そんなアルを見据えながら、セレーナは踵を返す。



「次も応援しているわ。……私の護衛なのだから、不甲斐ない負け方だけはしないように!」



 彼女はそれだけ言い残してその場を去る。後ろを向いての発言だったので、彼女の表情を伺う事は出来なかった。しかし、何となくどんな表情を浮かべていたかは想像できる。


 

「……期待には応えないとね」



 アルは小さくなっていく彼女の後ろ姿を見つめつつそう呟く。


 すると、会場に再度歓声が巻き起こる。舞台に視線を移すと、丁度その対戦の決着がついたところだったようだ。



「やはり、Bクラスは強いですね。先鋒だけで三人抜きです」



 ずっと舞台上の戦いを見つめていたリリーがアルにそう伝える。舞台には、疲労と悔しさで立てないでいるCクラスの面々と、汗一つかいていない余裕そうな表情を浮かべる一人の男子生徒が立っており、副将と大将など既に舞台上にはいなかった。それだけ、CクラスとBクラスの間には力量差があるのだろう。

 


「次はAクラスとの戦いですね。頑張ってください!」



 リリーは力強く拳を作りアルを鼓舞する。握りしめられた掌には、訓練によって出来た無数の豆があるのだろう。彼女もまた、努力を惜しまない強者である。



「リリーさんの分も頑張ってきます」



 アルはそう言って舞台へ歩き出す。ソーマ達は強くなった。しかし、相手はAクラスだ。当然アルの出番もあるだろう。



 Aクラスとの戦いは、もうすぐだ。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


剣術大会編も中盤に差し掛かってきました(思いのほか調子が良く、少し長くなってしまいましたが……)

前回同様、時間帯はずれています。これからは午前中の投稿もあるかもしれません。


誠に勝手な事で恐縮ですが、ご理解のほどよろしくお願いいたします<(_ _)>

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