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131話 剣術大会(1) 始動




 学園入学から約3か月が経過し今日から新しい月が始まろうとしていた時、アルにとある情報がもたらされた。それは、いつものようにソーマ達と個別訓練場での訓練に参加している時だった。



「――学年剣術大会?」



 アルはソーマ達の会話の中に出てきた「学年剣術大会」という単語に反応する。その様子を見て、クリスはポンと手を叩いて状況を把握する。



「ここ一か月ほど魔術科の授業に参加しているので、知らないのでしょう。確か、先週私たちに告知されましたから」



 クリスの発言を受けて、リリーも小さく頷いている。


 確かに、最近は魔術科の授業に参加しているので、アルは剣術科の方については殆ど情報が入ってこない。



「学年剣術大会とは1学年の中で剣術の腕を確かめ合う催しで、クラスから代表を3名選抜してクラス対抗で戦闘するのです。この大会が今学期の最後の行事で、これを終えたら長期休暇に入るそうです」



 なるほど。クラス対抗の大会なのか。


 しかし、リリーの説明にアルは疑問を覚える。



「長期休暇って一年に一度だけではないのですか?」



 確か、兄であるベルから聞いた話では長期休みは年に一度という話だったはずだ。アルの記憶では、それは年の丁度半分くらいだったはずだ。



「魔術科はそうです。しかし、剣術科は一年に3度長期休暇が与えられます。……ただ、休暇内にこなさなければならない課題は出されますが」



 アルの質問に、リリーが答える。長期休みの数に差がある事に少し驚いたアルだったが、剣術科の場合は教えるよりも経験で強くなる事が多いだろうから、長期休みで個々に訓練する方がいいのかもしれない。


 アルは何となく頭の中で噛み砕きながら刷り込んでいく。そして、また新たな疑問が浮かんでくる。



「そういえば、代表は誰になったのですか?」


「まだはっきりとは決まっていませんが、おそらくソーマとクリスさんは確定でしょう」



 アルの質問に、リリーが素早く返答する。しかし、その言葉の中にリリー自身の名前が入っていない。



「リリーさんは?」


「この大会は魔法は使用禁止なので、私は候補から外れると思います」



 なるほど……。確かに魔法禁止の大会となるとリリーは厳しいかもしれない。


 リリーの剣術は決して悪くないのだが、クリスと比べると非力であるし、ソーマと比べるとその技の習得速度やセンスに大きな差がある。その差を魔法でカバーしているというのが現状だ。



 リリーの回答に小さく頷いていると、ソーマが少し神妙な表情を浮かべて口を開く。



「……というか、たぶんアルも代表に入るぜ?」


「――え?」


「当然でしょう。私達よりも強いのですから」



 ソーマの突然の言葉に驚いた表情を浮かべるアルに、クリスは「何を当然のことを」と言わんばかりの表情でいた。確かに、ソーマやクリスと比べるとステータス、技術ともに勝っているのは確かだが、授業に参加していないアルが選ばれるということはないと勝手に思っていた。


 しかし、この学校には成績優秀者は授業を受けなくてもいいという制度まであるくらいだし、そもそもアルは王女の護衛の任務を受けているわけでもあり、特例措置が与えられるべきでもあった。



「……剣術大会か」



 アルは学園の行事に少し心が惹かれる。


 あまり目立ちたくないという気持ちはあるが、学園生活を楽しむというのも重要なことだ。それに、魔法を使わない大会ならばそこまで悪目立ちすることもないだろう。



 あとは王女の護衛の任務がどうなるかだが――。









「別に参加していいわよ?」



 まさかの快諾だった。


 2週間後の剣術大会の日は魔術科の授業が無いらしい。学園の行事といっても、練習用の木刀での戦闘ではなく真剣を使うらしいので、回復魔法が使える魔術科の教官が複数人待機するためだそうだ。



「貴方は魔術科の生徒ではなく、剣術科の生徒なのだし。……ただ、今回の長期休みはないと思いなさい。私は学園に通わなければならないのだから、貴方だけ休ませるなんて許しませんから」


「分かっています。ちゃんと仕事はこなします」



 どうやら今年の長期休みは一度だけらしい。


 アルは少し苦笑いを浮かべつつ、剣術大会への参加を快諾してもらえたことに礼を言う。最近はソーマ達と一緒に居られる時間が減っているので、こうして剣術大会という行事を共にできることが嬉しいのだ。








 

 第6王女セレーナの護衛の任務を終え、アルはいつもの様に個別訓練場へ足を運ぶ。最近は殆どアルが利用するというよりもリリーたち専用の訓練場になりつつあるのだが……。


 今日は訓練というよりも剣術大会の細かい情報の共有を行っている。



「剣術大会は勝ち抜き戦になっています。そこで、先鋒が私で中堅をソーマ、そして大将を――」


「――アルだな!」



 クリスの説明に被せるようにソーマが大きな声でそう言う。クリスもソーマの言葉に小さく頷いている。



「他のクラスは一番強い人を最初に出して一人抜きさせる戦術を取ってくるようですが、アルフォート様を最初に出してしまうと私たちに出番が回って来ませんからね」


「そうだな。俺も大分力をつけてきたし、筋力だけじゃない剣術で勝ってみせるぜ!」



 ソーマは力拳を作ってみせる。


 未だ非力な部類に入るソーマだが、ここ最近の野外演習での経験からか成長が著しい。「状態異常:呪い」によって未だステータスは制限されているのだが、アルとの組手から技術を盗み、「片手剣」のスキルは相当に伸びている。


 ソーマの「呪い」を解消することは未だできていない。一応、王立図書館で調べてはみたのだが、そもそも「呪い」という事象について詳しく書かれたものはなかった。何とかしてあげたい気持ちはあるが、今はどうしようもないというのが現状だ。 



 ソーマ同様に、クリスやリリーたちも目を見張る成長をしている。


 以前のクリスは、自分の可能性に蓋をして愚直に努力を続けるだけだったが、今は強者であるアルから教えを乞い、ソーマとの組手や野外演習での経験によって自信もつき始めている。リリーも剣術、魔法ともにバランスよく伸びているし、かなり成長している。最近では魔法陣の勉強も自分で始めているようで、いつかアルの魔法陣に頼らない、自分だけの魔法を身につける日も来るだろう。



 他クラスの生徒の力量は分からないが、もしかするとアル抜きでも勝ってしまうかもしれない。アルはそう思っていた。



 そんなアルの考えとは裏腹に、ソーマとクリスは入念な準備運動をしてアルの方に視線を送る。その視線は真剣そのものだった。



「――ということで、今日も組手頼むぜ!」


「私もよろしくお願いします」



 2人は訓練用の木刀ではなく真剣を持ってアルと対峙する。本来ならば危ない訓練方法なのだが、アルに対してだけこの方法で訓練を行っている。


 2人の成長は目を見張るものがあるが、未だ一度たりともアルに剣が届いたことはない。そして、アルも彼らに怪我を負わせたこともない。



 力量差ある組み合わせだからこそ、この訓練は成り立っているのだ。



 アルが腰から剣を引き抜くのを合図に、2人は一気にアルに切りかかる。


 訓練は日が傾くまで続き、いつものように汗一つかいていないアルと、疲労から地面に倒れ込む2人の姿が個別訓練場にあったのだった。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回から「剣術大会」編に突入します!

一話完結ではなく連続した話になるので、しばしお付き合いを。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「分かっています。ちゃんと仕事はこなします」 護衛の報酬って支払われていないと思っていたよ
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