130.5話 ユリウス冒険譚(13)魔導士編
※『ユリウス冒険譚』の続編になります。
本編には大きな影響はございませんので、興味のない方は読み飛ばしていただいても構いません。
本日2話目の投稿なので、まだ読まれていない方は一つ戻って読んでいただけると嬉しいです<(_ _)>
異端の魔導士は、「盟主の王城」の周囲に広がる森を一人で進んでいます。魔族たちの影響があったのでしょう。周囲の木々は毒々しく紫色に変色していました。
ここまで彼と行動を共にしていた「忌み子」達と別れた後、彼は魔物が沢山ひしめくこの森を、たった一人で進んできたのです。彼の精神状態は徐々にふさぎ込んでいき、周囲に気を配り続ける日々は彼の精神を蝕んでいきました。
しかし、彼は歩みを止めることはありません。
彼にはある信念があったからです。
紫の森を進んでいくと、少し開けた場所に辿り着きました。
ここまで進んできて、幾度となく戦闘を繰り返してきた彼の体はひどく疲れており、彼はその場所で眠りにつきました。すると、急に彼の目の前に不思議な存在が現れました。
その存在は紫の森の中でひどく目立つ真っ白な飛行体で、小さな羽根が背中についています。一見すると妖精のような存在でしたが、彼の特別な目には全く別のものに見えていました。
「あなた、疲れているのね」
その妖精のような存在は、ぐったりとその場に倒れ込んでいる彼を見下ろしながらそう言います。その笑顔はとてもきれいで、まるで作り物のようでした。
そして、尚も言葉をつづけます。
「……あなたが望むなら、私の力を貸してあげてもいい。そうすれば、あなたは大いなる力の加護を得られるでしょう」
作り物の笑顔のまま、その存在は異端の魔導士に向かってそう言います。
大いなる力の加護。それこそ、異端の魔導士の信念を成し遂げるのに最も必要な物でした。しかし、話はそう簡単ではありません。その光の存在は尚も言葉を続けます。
「ただ、そのためには貴方の信念を曲げてもらわなければならないわ」
その光の存在は、異端の魔導士の真の目的を理解していました。そのために、このような言葉が飛び出してきたのでした。
異端の魔導士は少し答えに窮します。
彼の本来の目的は、盟主の王城に居座っている魔王の討伐でした。しかし、彼には他にも真の目的を持って行動してきたのです。
大いなる力の加護を受ければ、直近の目的である魔王の討伐には大きな力となるでしょう。しかし、それ故に彼の信念を曲げなくてはならないということに、魔導士は首を縦には振れなかったのです。
彼は悩んだ末に一つの答えを導き出しました。
「……信念を曲げることはできない」
異端の魔導士は、その光の存在に向かってそう答えます。
自分の今の力だけで魔王を討伐できるかなど分からないけれど、自分の信念を曲げてまでも力を欲するようなことはしたくなかったのです。
「――そう。では、貴方に力の加護を与えることはできない。でも、私はあなたが気に入ったわ。だから、特別にこれを貴方にあげる」
その光の存在は、異端の魔導士の出した答えを聞いてどこからともなく少し古びた杖を取り出しました。そして、その杖を魔導士に手渡します。
「これは、魔法の杖。でも、ただの魔法の杖じゃないの。いつか、これが貴方を助けてくれるでしょう」
光の存在はそれだけ言ってその場から消えてしまいました。
異端の魔導士は、試しにその杖を使って近くにあった木に向かって簡単な魔法を放って見せます。その魔法は普段道理の規模で、そして普段通りの威力で飛んでいきます。
なんてことはない、ただの古ぼけた杖だったのです。
しかし、異端の魔導士はそれを大事そうに胸にしまいました。彼がその杖の重要性を分かったのかは今となっては知りようもないことですが、それはいつか魔導士の大いなる力となったのです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
少し短いお話でしたが、少し謎な雰囲気を楽しんでいただけたら幸いです。




