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128話 3人の落ちこぼれ(1)

※今回は主人公視点ではありません。




 ソーマ、リリー、クリスの3人は、前回と同様に馬車に揺られながら「ノースダンジョン」へと向かっていた。


 落ちこぼれ組と称されるEクラスからの参加者は彼ら3名だけであり、DクラスやCクラスの参加者も前回と比べると格段に少なくなっていた。



 馬車に揺られる3人の間には、独特の雰囲気が立ち込めていた。普段通りなのはソーマだけで、リリーとクリスの表情には緊張感が色濃く映し出され、声を発することすらなかった。そんな二人を見ながら、ソーマだけはアルから貰った片手直剣の手入れをしている。


 この剣を使いこなすための筋力はまだ十分とは言えない状況ではあるのだが、前回の演習を終えてからソーマの身体能力は幾分か上昇した。それは、クリスやリリーも同じだったようだが、ソーマの中ではその変化はとても喜ばしい事だった。



 そのため、こうしてアルから貰った剣を使おうという気持ちになったのだ。


 といっても、昨日アルから言われて使う気持ちに踏ん切りがついたのだが。







「本日は参加者が一気に減少したためにパーティー編成が難しくなったクラスがあるという事なので、人数の制限をなくし、課題も多種多様に設定した。……各自、メンバーと課題を今一度確認してから演習に入るように。」



 今回も前回同様にC、D、Eクラスの合同野外演習という事だったが、今回は担当教官の数も激減しており、Dクラスの担当教官が仕切って進行していた。


 そんな中、その担当教官はEクラスのソーマ達に目掛けて、あえてそのようなセリフを吐く。彼の担当クラスであるDクラスも同様に人数は減っているのだが、それでも5人以上の生徒が参加している。Eクラスだけが4名以下の参加者という事で「腰抜け」というレッテルを貼っているのだろう。



 クリスは彼の不適切な発言に少し表情を強張らせる。


 ソーマ達は特に目くじらを立てることはないが、正義感が強く騎士の心を貴ぶ彼女からすれば、教官の発言は受け入れがたいものだった。しかし、それに対して今文句を言っても仕方がないので、何とか出かかった言葉を胸の奥にしまい込む。



「――さて、パーティーについては私達3人で潜るということでいいですか?」



 リリーは一緒にこの場にいる2人にそう確認する。勿論、その二人とは共に訓練をする仲であるソーマとクリスだ。



「俺もこのメンバーで良いと思うぜ!」


「私はそれで構わない。デイビット教官も他のクラスとの混合パーティーはお勧めしないと言っていたし」



 ソーマとクリスは「当然だ」と言わんばかりにリリーの提案を受け入れる。リリーは二人の言葉を受けて、一つ頷いた後に課題が張り出されている掲示板の方に視線を移す。



「分かりました。次は課題ですけど……」


「これは、けっこう厳しいな」



・月結晶の採取

・スライム10体とゴブリンもしくはコボルト5体の討伐

・ゴブリンもしくはコボルト10体の討伐

・上位種3体の討伐



 課題が張り出された掲示板には4つの課題が書き記されていた。


 前回と同じなのは月結晶の採取だけで、他の課題については必要討伐数が増えている。おそらく、パーティーメンバーの人数の制限をなくしたことによる数値の変化であろうが、ソーマ達のように人数が減ってしまったパーティーからすればたまったものではない。


 しかし、だからと言って他のクラスの誰かをパーティーに引き込むのも難しいだろう。



「……前回は運よく最奥まで行くことが出来ましたが、今回はそう上手くは行かないでしょうし、この月の結晶は諦めた方がよさそうですね」


「――そうだな。それに、3人での戦闘ならばあまり奥に進むのもやめた方がいいだろう」



 リリーとクリスは今回の課題に難色を示す。


 前回はオークとの戦闘以外は殆ど戦闘することなく最奥まで進めてしまったが、今回はそう上手くいくとは思えない。それに、彼らのパーティーは前回よりも人数が減ることで、そもそもの戦力や手数が減ってしまっている。


 しかめっ面で掲示板を睨みつける二人に対して、ソーマだけはあっけらかんとした表情を浮かべていた。



「まぁ、とりあえず中に入って魔物を狩っていこうぜ!」



 ソーマの声に、2人は顔を見合わせる。


 確かに、ここで掲示板とにらめっこをしていても状況は何の変化もない。そもそも、遭遇できる魔物をこちらが選べない以上、ダンジョン内に潜るほか道はないのだ。



「……そうだね。クリスさんもそれでいいですか?」


「私も異論はない。今回のリーダーはリリーだから、貴女の判断に従うわ」



 クリスは判断をリリーに委ねる。


 今日の野外演習にアルが参加できないという事が決まった時点で、3人の間で誰をリーダーとするかの話し合いがもたれていた。その中で、冷静に周りを見ることができ、3人の中で唯一魔法を駆使できるリリーがリーダーに選ばれたのだ。


 リリーは今一度気持ちを入れ直す。


 これまではアルの後ろについていくだけでよかったが、今回はアル抜きで戦闘を行わなければならない。その事に、リリーの中で強い緊張感が走る。



「――よし、じゃあ潜りましょう!」



 そう言って3人はダンジョンに潜っていく。しかし、すぐに前回の異常さを身に染みて感じることになる。










「――どうなってるの?」



 少し荒れた息を整えながら、リリーはそう呟く。


 眼前には、3体のゴブリンからドロップした「ゴブリンの腰巻き」とゴブリンの上位種であるホブゴブリンからドロップした「ホブゴブリンの棍棒」が落ちている。息絶えてから、ゴブリン達の体はダンジョンの地面に回収されたが、こうして討伐証明になるアイテムだけは地面に転がっていた。



 クリスはそのアイテムを拾いながら、用意してきたポーチにそれを突っ込む。既に、スライムゼリーとゴブリンの腰巻が5つにコボルトの爪が3つ、そして先ほどのドロップしたホブゴブリンの棍棒が1本ある。



「前回に比べて魔物との遭遇率が異常に高い。まるで、前回は避けられていたみたい。」



 ここまで、まだ1時間も潜っていないはずだが、すでにスライムとゴブリンが5体ずつにコボルトが3体、そして上位種のホブゴブリンが1体の計14体との魔物に遭遇している。


 これは前回とは比べ物にならないエンカウント率だった。



「――前回はアルにビビって出てこなかったんじゃないか?」


「「……」」



 ――それは有り得る。


 

 ソーマの発言に、2人はそのような考えを抱く。


 前回の異常な早さでの1階層の突破に加え、異常な頻度の魔物との遭遇率。これらの2つが全くの無関係であるとは少し考えづらい。


 そんな中、前回と違うのはアルの存在の有無だけ。そうなると、自然と選択肢は狭まってくる。



「……まぁ、いない人の話をしても仕方がないので、作戦を練り直しましょう」



 リリーはそう言ってこれからの戦闘について話し合いを始める。



「私は魔法については無知だからな、剣で先頭に立って戦うのが一番良いと思う」



 クリスは自分の戦闘スタイルを考え、盾役やタゲ取りを申し出る。それは、おそらくこれまでの戦闘を見て、ソーマの攻撃力を見込んでの事だろう。


 リリーもクリスの発言に首を縦に振る。



「……そうですね、ソーマの剣の攻撃力は相当高いだろうから、動きつつ隙を見て攻撃できる位置にいるべきだと思う。……そうなると、私は後方から魔法での支援と指示を出す役になるけど……」



 そこで言葉が途切れる。


 後方支援と指示役。それは、パーティーの中枢であり、相当に重要なポジションであった。それを自分が出来るだろうかと、急激な不安がリリーを襲う。



 ただ、他の2人は違った。



「リリーなら大丈夫だ!」


「――えぇ、私もそう思うわ」



 二人の声に、リリーは元気づけられる。今日は一緒にいないが、おそらくアルも「大丈夫ですよ」と言ってくれただろう。



「分かりました! では、そのように意識しながら次からは戦闘していきましょう」



 リリーは覚悟を決めて、そう宣言した。その声の後に、2人も一緒に覚悟を決める。


 3人は課題をクリアするために、再度歩き出した。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は主人公抜きの話でした。やはり、物語において主人公抜きの状態で、他の登場人物はどのように会話して、どのような関係を築いているのかは語られるべきだと思い、このように書かせてもらいました。


次もこの話の続きを書くつもりなので、もう少しお付き合いください。

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