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125話 王女の1日

※今回は主人公以外の視点からの話です。

 途中で語り手が変わりますので、お気を付けください。




「――護衛など必要ありません!」



 1人の女の子が自分の父親に向かってそう言い放つ。


 未だ体は小さく、成長しきってはいないが、綺麗な銀髪や顔の造りなどは父親が溺愛している第3王女の幼い頃とそっくりであり、いずれは綺麗な女性に育つだろうと思われる。



「セレーナ、お前の才能は認めよう。だが、王太子が亡くなったのだ。お前と同じように、あいつにも才能があった。いいか、才能だけではどうにもならないことがあるのだ」



 父親ユートリウス2世は、第6王女であるセレーナにそう諭す。



「それは……分かっていますけど」



 父の言葉にある程度の理解は示しつつ、今だ腑に落ちない表情を浮かべる第6王女にユートリウス2世は更に言葉を続ける。



「お前の実力を疑っているわけではない。要は頭が切れる者を傍に置きたいだけなのだ」


「……分かりました。ただ、私がふさわしくないと判断すれば解雇しますから。それでいいですか?」



 父の言葉に何とか了解したセレーナだったが、自分の護衛としてふさわしくなければ解雇するという条件を父に突き付ける。


 ユートリウス2世はその条件を簡単に飲む。その表情から、父の護衛への信頼度が窺える。




 王太子である兄が亡くなって、彼女も王位継承権を持つ存在となってしまった。それ故に、身を守らなくてはならなくなったのだ。



 何故こうなったのか。彼女はそんな事を考えながら明日の身支度を始めるのだった。










 私、セレーナがこの世界に生まれたのは今から12年前。



 私には前世の記憶がある。前世の私は坂下南(さかしたみなみ)という名だった。私は日本の中学を卒業し、明日から新しい進路に進もうとしていた。


 私はごく普通の幸せを願った。しかし、そんな私の願いは叶わなかった。


 





 私はごく普通の人間だった。


 勉強は並み以上には出来たが、運動も平均的であり容姿も普通。その辺の人を適当に選んで平均値を取ったような、そんな人間だった。



 だけど、そんな私にも大切な人がいた。



 その人と出会ったのは小学生の時。


 私は当時ひどいいじめを受けていた。上履きがなくなるなんて日常茶飯事だったし、時には私が入っているトイレの個室の上から水をかけられたことだってあった。


 周囲は皆知らん顔をして、私に話しかけてくれる人は一人もいない。誰からも見放された私は、いつも校舎の隅で泣いていた。



 そんな時、ある人が私を救ってくれた。


 

 その人は私よりも一つか二つ年上の男の子で、いつも私の話を真剣に聞いてくれた。その時、その人に言ってもらった言葉は今でも心の奥底にしまっている。


 名前も知らない、私のヒーロー。







 ふと気が付いた時、私は真っ暗な空間に立っていた。


 理由は分からないし、今の自分の状態も分からない。それどころか、名前も……何も思い出せない。



「……私、え、ここは、いや、私の」



 私は頭の中に浮かんでくる言葉を制御できずに、無茶苦茶な言葉を呟き続ける。言葉は話せるし、何となく自分の事は分かる。手を動かしたら指は動くし、脚を動かせば歩くことだってできる。


 しかし、自分の名前や記憶などは一切なかった。


 私はどんどん怖くなっていく。世界にたった一人取り残されて、何も考えられない。それは、あの時の壮絶ないじめの渦中にいた自分のようだった。


――あれ、いじめ? ……そうだ、私はいじめられていたんだ。それで確か。



『いいかい? 君はいつだって一人じゃないんだよ? 君の中には君を生んでくれたお母さんやお父さん、そしてそのずーっと前に2人を生んでくれたおじいちゃんたちの想いが体を巡っているんだ』



――そうだ、私は一人じゃない!!



 私の強い意志によって、真っ暗な空間に亀裂が入る。そして、私は重い瞼を開けたのだった。






 そして、私は第6王女セレーナとして、第2の人生をスタートさせた。




 私には「神の加護」が授けられていた。


 創造神の加護。前世では神様など信じはしなかったけれど、この世界には当然のように神が存在するらしい。



 神様の加護のおかげか、私には2つの特殊な能力が授けられていた。



 1つは、対象人物のステータスを覗くことができる能力。それによって、私は相手の称号やHP、MPの量を勝手に覗くことが出来た。


 最初は皆同じなのかと思っていたが、すぐに自分の特異性には気が付くことが出来た。そのため、この能力はまだ誰にも気が付かれていない。



 2つ目は、相手の性質を「色」で見る能力。


 これは1日に使用できる回数に制限が設けられていた。一度限界まで試してみたら10回が限度らしかった。


 その人の性質、例えば善人だったら白に近い色が映し出され、悪人だったら黒に近い色が私の目には見えるのだ。



 この能力は、ひどく心を痛める。


 一見すると善人のような人が真っ黒に見えた時などは、私は何を信じていいか分からなくなってしまった。そのため、本当に気になった時だけ使用するように、と自分の中で決めていた。







 私は何の不自由もなく暮らしていた。



 最初はどうなるかと思っていた人生も、自分の体のスペックが高いおかげで魔法や武術にもかなり高い能力を発揮した。いつからか周囲は私を「天才」と呼ぶようになり、私も期待を裏切らないように努力を続けた。


 王位継承権は長男である第1王子にあり、数年前に王太子として国民に発表された。その事もあり、王族の中でのギスギスとした王位継承問題などは起こるはずもなく、私は悠々自適な生活を送っていた。



 しかし、事件は起こった。


 王国騎士団が南方のダンジョンでの遠征のために行軍するのに、王太子である第1王子が同行した。王族が騎士団の遠征に同行することは珍しいことではあったけれど、団員の士気を上げるという理由で王太子自ら志願したのだ。


 そして、王太子は亡くなった。聞く話によると戦死だったそうだけれど、私の中では少し違和感が残っていた。



 それは、父親の過保護すぎるほどの対応によってより色濃く私の中に巣くっていく。父は私に「頭の切れる者を傍に置きたい」と言った。つまり、王太子の死は……。







 父ユートリウス2世の推薦によって私の護衛に任命されたのは、私と同い年の男子生徒だった。



 馬車から見て、すぐに誰なのか分かる。


 周りは私と同じ赤い制服を着た者ばかりなのに、その中に1人だけ青っぽい色の制服を着た生徒がいる。おそらく、あの生徒が私の護衛に選ばれた者なのだろう。



 私は馬車を降りてその生徒に近づく。


 顔は、うぅ、タイプだ。いや、こういう人に限って性格が悪いことが多い。



 礼儀作法は素晴らしく、文句のつけようがない。そこで私は少し厳しめの口調で「馴れ馴れしくするな」という言葉を発してみた。しかし、彼は怒るどころか低姿勢を崩すことなく私に敬意を示している。



 顔善し、性格善し。となると……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



アルフォート・グランセル(12)

種族:人間

称号:グランセル公爵家3男 神童

HP:3,000/3,000

MP:2,000/2,000

魔法適性:火・風



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




――あれ、思ったより普通だ。


 それが彼のステータスを見た私の感想だった。「神童」という珍しい称号を持ってはいるものの、意外と普通なステータスをしている。


 ただ、私は彼のステータスに何となく違和感を覚えていた。




 

 彼のお兄さんは非常に有名な人物だったらしく、教室に入るや否やその話題がクラスを埋め尽くしていた。


 私はそれまで気にしたことがなかったが、王国でも5本の指に入る宮廷魔術師のベルという人物が彼の兄にあたるらしい。宮廷魔術師は家格を気にしないため、その事に気が付かなかった。


 

 彼は自分のお兄さんを本当に尊敬しているようで、嬉しそうに兄の賞賛を受け止める。


 私は初めて彼に興味を抱いた。


 素直な性格で1点の曇りもない晴れた空のような人物。そんな彼の「色」が気になって仕方がなかった。



 私は自分の特殊能力を行使して、彼を見る。本当は少し怖かった。もし、彼が真っ黒な人間だったならば、もうこの能力を使う事は出来ないかもしれない。そう思うほど、恐怖を感じていた。


 しかし、私は自分の目に飛び込んできた「色」に驚く。



 それは、何の色もついていない「純白」だった。


 これまで何度もこの眼で人を見てきた。


 基本的には善人らしい人にしか使ってこなかった能力だが、今まで一人も「白い色」をした人はいなかった。



 彼は本当に何なのか。私は彼から目を離すことが出来なかった。









 王城に帰り着くと、すぐに私は父のもとへ連れていかれた。


 父は難しい表情で書類を睨んでは頭を抱えていたが、私の存在に気が付いてそれらの書類を一旦机に置く。



「――セレーナ、彼はどうであった?」



 父は唐突にそう尋ねる。「彼」が誰なのか。そんなことは聞かなくても分かっていた。



「何故、あの者を護衛に選ばれたのか、先に教えて頂いても?」



 私はそう尋ねてみた。彼の「色」を見た時、私はその事が気になって仕方がなかった。何故、父は彼を私の護衛に任命したのか。何を根拠に彼を抜擢したのか、と。



 父は少し考えこむ。そして、固く閉ざされた口をゆっくりと開いた。



「……あの者とは謁見の間で一度会って話をした。……ひどく賢く、そして恐ろしく綺麗な少年であった。もし『神』がこの世に降臨されたなら、あのような姿形をしているだろうと真面目に思ったほどだ」



 父はそう言い切った。


 その「眼力」に私は高い評価を与えずにはいられない。私の目で見た彼の「色」と、父の見た彼の「人間性」とは合致していた。


 だが、それ故に言わなくてはならない。



「彼は確かに綺麗でした。ただ、あの者を囲うような真似だけは決してなさらないでください。……いいですね?」



 私はそう言って部屋を出ていく。彼は、おそらく「神」に愛されている。そう私の中の「記憶」が言っていた気がした。








 自分の部屋に戻ると、クラリスが私の部屋を掃除していてくれた。


 彼女は私が戻ってきたのを確認し、すぐに掃除道具を片付けてお茶の準備を始める。本当に手際が良く、ものの数分ほどでお茶が入ったティーカップが私の前に出される。


 私は今日1日を振り返りながら、ティーカップを傾ける。



「……殿下、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか」



 クラリスから突然そのような言葉が飛んでくる。彼女がそんな事を言うのは珍しい。


 私は首を縦に振る。すると、彼女は小さく頭を下げる。



「殿下は、何故あの者をお認めになったのですか?」



 彼女の質問は、馬車に乗る直前の出来事を指しているようだった。


 私は彼を「護衛として」合格だと認めた。その後、彼がどんな顔をしていたかは見ていないけれど。



 私は少し考えを巡らせる。


 私自身、どうしてあんな事を言ったのか分からなかった。前世の「記憶」上の私なら、あんな事は言わなかっただろう。おそらく、今世のセレーナの精神に引っ張られたのだ。


 私は一度カップに口をつけて喉を潤す。そして、前世の「記憶」を思い返す。



「――クラリス。貴女にもし人を色で見分ける力があったとすれば、あの者は何色だと思う?」


「……そうですね。青……いえ違いますね。黄色でも赤でもないような気がします」



 私の問いかけに、彼女は少し困ったような表情を浮かべたが、すぐに自分なりの意見を出そうとする。しかし、今日1日一緒に行動してみても彼を的確な色で表現することは難しそうだった。


 そんな彼女を見つめながら、私は自分の答えを彼女に話した。



「私は『純白』。それが彼を認めた理由」



 私の答えに、彼女は少し腑に落ちないような表情を浮かべる。


 だけど別にいいのだ。私だけがその理由を知っていれば。



「……私のヒーローは何色だったのかな」



 私は、前世の私を救ってくれた「ヒーロー」の顔を思い浮かべながらそう呟いた。


 もう今となっては知り得ないことだけど。






 執務室に残されたユートリウス2世は、セリーナが出ていった出入口を見つめていた。そして、嬉しそうに笑いだした。



「――ふふふ、我が娘ながら強く、優しく育ってくれた」



 彼は、さも自分は悪者だと言わんばかりにそう呟く。


 自分の娘とは思えない、そういう意味に取れる言葉は彼の古い記憶と合わさって、より戻しの波のように再度彼に襲い掛かる。


 

 ユートリウス2世は扉の方に歩き出し、部屋の外に控えていた衛兵に声をかける。



「宰相を呼べ。話がある」



 その衛兵は「はっ!」と短く返事をしてその場から消えていく。


 ユートリウス2世は、嬉しいような、寂しいような表情を浮かべながら自室で宰相を待つのだった。







今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


年末年始はドタバタで最新話の更新が出来ないかもしれません。一応、今のうちに書ける分だけは書くつもりですが……。


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