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123話 出会いと可能性




 アルは今、学園のとある施設の前にいた。


 それはとても大きく綺麗な施設で、施設の入り口付近に大きな盾をモチーフとした紋章が刻み込まれている。その施設に、臙脂(えんじ)色の制服を着た生徒たちが続々と入っていく。それに対して、アルの制服は紺色(こんいろ)であるため、この場所においてアルの存在はひどく目立つものだった。



 なぜアルがここにいるのか。それは、少し時間を遡る。








「――え、護衛は授業中も含まれるのですか?」



 アルは父親であるレオナルドからの依頼の詳細を聞き、そう聞き返す。


 レオナルドが言うことには、第6王女の護衛という任務は授業中も含まれているらしく、常に傍仕えとして同行しなければならないというものだった。てっきり王城と学園との生き帰りを護衛するだけの仕事とばかり思っていたアルは、その異常と言えるほどの過保護ぶりに驚きを隠せない。



 彼女はアルとほとんど同じ時期に生まれた王女であり、魔法の才能に長けていると聞く。その魔法の才は以前宮廷魔術師として働いていたアルの兄であるベル・グランセルに匹敵すると言われていた。



 また、彼女は非常に賢く、今年の入学時試験も主席で通過したらしい。


 そんな彼女に同級生の護衛を付けること自体、かなり変であると思われるのに、それを剣術科Eクラス、通称「落ちこぼれ組」の生徒を一日中置くという事にアルは理解ができないでいた。



「私も陛下にそう尋ねたが、陛下はそこを一切譲らなくてね。どうも、第6王女のことが気がかりで仕方がないようだ」



 それに対してはレオナルドも同意見だったらしいが、現王ユートリウス2世からの命とあらば首を縦に振るしかなかったようだ。


 ユートリウス2世が何故アルをそこまで評価するのか。それについて、アルは以前の謁見での一件を思い浮かべる。



「……やはり、謁見での受け答えが原因でしょうか」



 アルの発言に、レオナルドは神妙な表情を浮かべつつ首を縦に振る。


 ユートリウス2世とアルとの接触は「謁見」の時のたった一度だけ。それ以外にアルの噂を聞き及んでいるかもしれないが、直接的な交流はその一度しかなかった。


 アルの受け答え、礼儀作法は父であるレオナルドから見ても「完璧」であった。当時は、家庭教師のギリスによる教育が素晴らしいのだと何となく納得していたが、ライゼルハークでのアルがあげた「功績」を知ると、よりその「才能」が浮き彫りになった。



 アルが領地経営に関与していたことは殆ど知られていない。しかし、ベルの学園在籍時の成績を見ると、誰かが裏で手助けしているという事は一目瞭然だっただろう。そして、謁見での振舞を見た陛下がアルをその誰かに当てはめたとしても何ら違和感はなかった。



「……第6王女殿下には王太子殿下と同じほどの戦闘能力を有しているという噂だ。アルへの護衛依頼は、おそらく『その()()を用いて守ってみせよ』ということなのだろう」



 レオナルドは陛下の考えをその様に捉える。


 レオナルドはアルの能力について知らないので、腕っぷしよりも賢さを買われての事だろうと予想していた。ユートリウス2世もアルの能力など知る由もないため、おそらく同じような考えだろう。


 しかし、アルは何となくユートリウス2世の考えを深読みしてしまう。



「あ、あと気を付けておいてほしいのだが。第6王女殿下は――」










「――『変わり者』で『人を選ぶ』か……」



 アルはレオナルドからの言葉を小さな声で呟く。


 第6王女について、あれから少し調べてみた。すると、なぜか人格面の情報はほとんど出てこなかった。


 何でも、綺麗な女性の使用人を一人つけているだけのようで、同級生とは殆ど交流を持っていないらしい。ただ淡々と授業をこなし、実力の差を周囲に感じさせるだけ。なれ合いや協調を好まないタイプの人間に思える。



 アルがそんな事を考えながら「魔術科第一校舎」の前で待機していると、一際豪勢な馬車がこちらに向かってくるのが見えた。


 赤色を基調とし、金色の刺繍が各所に散りばめられており、一見するだけで高貴な人物が中にいることが分かる。車体を引っ張っている馬の毛並みも良く、相当な名馬である。


 馬車はアルから約20mほど離れた場所に止まる。そして、車体の扉が開かれると一人の使用人が先に降りて来て、主人の手を取り降車を補助する。


 アルはすぐにその人物が王女だと理解する。理由は簡単で、アルの義理の姉にあたる第3王女のラウラに容姿が似通っていたからだ。



 車体から降り終えた第3王女は一人の使用人を引き連れてこちらに歩いて来る。アルの制服を見て、存在に気が付いたようだ。


 アルは、即座に「鑑定眼」を行使して第6王女のステータスを確認する。そして、その内容に驚いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



セレーナ(12)

種族:人間(種族値A)

称号:アイザック王国第6王女 天才 (転生者)

HP:1,500/1,500

MP:3,000/3,000(10,000/10,000)

魔法適性:水・光(闇)

罪状:なし

状態異常:なし


――――――――――――――――――――――


野心:46 忠誠度:0

レベル:5(各+50/毎)

攻撃力:300

防御力:300

知力:300

俊敏力:300

スキル:苦痛耐性(10) 精神耐性(10) 魔法効率(2) 

    礼節(2) 槍術(3) 剣術(1)

ギフト:心彩眼(その人物の性質を色で見ることが出来る。

        一日に5度まで)

    鑑定(相手の情報を見ることが可能)

加護:創造神の加護



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アルは、彼女のギフト欄にある「鑑定」に焦りを覚える。


 そして何より、彼女がアルやアーネットと同じ「転生者」である事と、この世界に来て初めて見る「創造神の加護」を受けている事に対して驚きを隠せなかった。



 アルはすぐに自分のステータスをいじる。


 彼女の「鑑定」が、アルの持つ「鑑定眼」とどれほどの差があるのか分からないので、これまでいじってこなかった下線部以降についても全て変更する。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




アルフォート・グランセル(12)

種族:人間(種族値S)

称号:グランセル公爵家三男 神童 〈神の使い〉

HP:3,000/3,000

MP:2,000/2,000(50,000/50,000)

魔法適性:火・風(水・地・闇・光)

罪状:なし

状態異常:なし


――――――――――――――――――――――


野心:4 忠誠度:ーー

レベル:16(各+100/毎)

攻撃力:200(1,600)

防御力:200(1,600)

知力:250(1,600)

俊敏力:200(1,600)

スキル:片手剣(5) 魔法効率(4)→(2) 〈融合魔法(3)〉 

    礼節(3) 菜園(2) 教育(3) 体術(3) 事務(3) 

    調査(3)

ギフト:〈鑑定眼(2)〉〈魔眼〉〈ギフト無効〉

    〈毒の使い手〉

加護:〈創造神の加護〉




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 これで良いはずだ。


 アルはこちらに向かって歩いて来る王女に勘付かれないように素早く自分のステータスを改変させる。



 数秒後、第6王女がアルの前に到着する。そして、物珍しそうにアルを見る。

 

 

「貴方がアルフォート・グランセルかしら?」



 アルよりも幾分か身長が低い彼女は、アルの顔を見上げるようにそう尋ねてくる。アルはその場に膝をついて礼をする。



「――はい。グランセル公爵家の3男、アルフォートで御座います」


 

 アルは最大限の礼を尽くして挨拶をする。


 しかし、彼女は特に礼儀作法については関心がないようで、少し仏頂面を浮かべつつ小さな声で愚痴を言い始める。



「……護衛などいらないと言ったのに、あの親ば――」


「――殿下、口調が乱れております」



 彼女の愚痴に使用人から指摘が入る。彼女の言葉が途中で遮られたため、その後にどんな言葉が続くはずだったのかは彼女自身しか知り得ない事だが、「あの親ば」の続きを想像すると……おそらく。


 使用人からの指摘に、第6王女は小さな手で口を覆う。おそらく、あれが彼女の素の口調なのだろう。



「……んんっ、取り合えず同行は許可します。ただ、あまり馴れ馴れしい態度は取らないでください。私は貴方など眼中にありませんので!」



 第6王女はそう言い切る。


 いわゆるツンデレなのかと思われるセリフだが、どうやら本心から言っているようだった。彼女の中で何か大きな存在があるようで、本当にアルの事を拒絶しているように感じる。



「はい、心得ました」



 アルは一度小さく頭を下げてそう言う。


 短気でプライドの高い貴族の令息ならば、王女の物言いに腹を立ててしまいかねないが、アルはそうではなかった。



 王女はアルの低姿勢な態度に対して何か思うところがあったのか、じっとアルを見つめる。そして、一瞬視線がアルの右側に移動した。



「――ふーん、案外普通ね」



 彼女は、値踏みをするようにそう呟く。


 おそらく今、彼女のギフトである「鑑定」を使ったのだろう。



 王女はそれだけ言ってアルに興味を失ったのか、アルを通り越して校舎の方に歩き始める。アルもその後ろを追って歩を進める。しかし、その時あることが頭にひっかかる。



――あ、そういえば……。



 アルは自分のステータスを見返す。そして、自分の失敗に気が付く。


 それは、レベルの部分を一切変えていなかったことだ。レベルは16のままで、上昇値もそのままの数値にしていた。


 アルはそこで、ある可能性が頭に浮かぶ。



――もしかして、全てが見えているわけではない?



 彼女はおそらくアルのステータスを確認していたはずだ。それ故に「案外普通ね」という言葉を発したはずだ。しかし、アルのレベルと上昇値を見ていればその異常性に気が付くはず。



 いくつかの可能性が考えられる。


 本当はステータスを見ていなかったという可能性、または見ていて敢えて知らない演技をしたという可能性。そして、全ては見えていないという可能性……。



 彼女の視線の動きから、ステータスを見ていなかったというのは考えづらい。それに、共に行動することになる初めて会う相手のステータスを確認しないというのも。



 では、演技という可能性はどうだろう。


 ただ、それについては今の所何とも言えない。アルはそれほどに彼女のことを理解しているわけでは無いからだ。



 アルは彼女の後ろについて一緒に行動する。そして、色々な可能性を模索するのだった。




 今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


 登場人物が増えてきて分かりづらくないように、一応説明文を本文内に付けつてはいますが、章の末尾にその章の主要人物を書いた部分をありますので、参考にしていただけると幸いです。

 本来はそんなものを見なくても分かるように書かなければならないのですが、やはりまだ実力不足なので……。


 これからも応援よろしくお願いします<(_ _)>

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