122話 最悪の知らせ
第四章が長くなりそうだったので、ここで切ります。
ここからは、第五章「王位継承編」を開始します!
(前回部分で、少し書きぬかっていた部分があったので末尾に一文だけ付け加えています。ごめんなさい<(_ _)>)
アイザック王国の空はどんよりと曇っていて、今にも泣きだしそうな空模様を描いていた。
季節は移り、少しずつ気温は上がっていき雨の多い時期へ移っていく。そんなある日、とあるショッキングなニュースが王城に届けられた。
宰相は急いでその知らせを現王に伝えに行く。しかし、その内容の重さに否応なく速度は落ちる。
宰相はノックもせずに王がいつも執務をこなしている部屋に入る。現王、ユートリウス2世はあまりに取り乱している宰相を見て、何か良くないことが起こったのだと確信する。
宰相は、荒い息を整えることもなく王に知らせを届ける。
「――王太子殿下が、騎士団との遠征先で……お亡くなりになりました」
宰相の言葉に、ユートリウス2世は言葉を失う。
王太子である第1王子ルイスは、王都から馬車でひと月ほど離れた場所にあるダンジョンの調査に向かっていた。
調査といっても、ダンジョン内に入るのは王国騎士団のメンバーであり、王太子である彼は付き添いという名ばかりの参加であったはずだった。
「……死因はなんだ?」
ユートリウス2世は真っ白になった頭を無理やり回転させながら、ふと気になったことを尋ねる。
宰相は苦い表情を浮かべて、重い口を開く。
「……『毒』だそうです」
王太子の死因は「毒」による窒息死だった。ユートリウス2世は頭を抱える。
王太子である第1王子が毒を盛られた。このことが市井に広がれば、民はどう思うだろうか。そして、この事実はとある推測を生み出すものだった。
「……このことは伏せるように。民には戦死と伝えるのだ」
ユートリウス2世は宰相にそう告げる。宰相は深く頭を下げ、部屋を出ていく。
「――何故だ。何故……」
一人部屋に残されたユートリウス2世は、重く瞼を閉じて思考を続ける。その時間は長く、彼にとって延々と続く迷宮のようだった。
王太子ルイス第1王子の死というニュースは瞬く間に王国全土へと広がっていった。
どこに行くにも話題になるのは「王子の死」であり、それは学園でも同様だった。
「聞いたか? 王太子殿下が亡くなったって話」
「あぁ、『戦死』だってな。第1王子は剣の達人だって話なのに、どうして……」
王太子殿下が亡くなられたという情報が伝えられた翌日、アルが学生寮の食堂で朝食をとっていると、どこからともなくそんな声が耳に届けられる。
第1王子は剣の達人であり、この学園では剣術科Aクラスを首席で卒業していた。頭もよく人望も厚い、誰もが認める王太子だったのだ。それだけに、今回の知らせは民を不安にさせる最大の要素たり得た。
「……アルフォート様、レオナルド様から本日は屋敷に戻るようにと言付かっております」
食事を終えて食堂を出ると、アルの使用人のシャナからそう告げられる。
「分かりました。事が事なので、仕方がないでしょう」
大体どのような話があるのかは理解ができる。アルも今回の件については疑問を抱いていた。
今日の授業は午前中の座学のみで、午後の実技訓練は中止となった。
どうやら、王太子殿下の死という知らせは学園にも大きな影響を与えるほどだったらしく、今日一日、教官たちは忙しなく動き続けていた。
アルは想定よりも早い時間に学園を出た。
王都のグランセル家の屋敷に辿り着いたのは丁度昼食が終わった時間帯だった。アルが屋敷に入ると、使用人たちが忙しそうに使用済みの食器類を片付けていた。
すると、一人の使用人がアルの存在に気が付き、急いで食堂がある方向へ走っていく。そして、1分ほどでレオナルドがやってくる。
「……アル、少し話がある」
レオナルドは暗い表情を浮かべながらそう言う。その声はとても低くかった。
アルはレオナルドの部屋に通される。執事のセバスがお茶を入れたかと思うと、すぐに部屋を出ていく。どうやら、執事のセバスにすら話せない内容のようだ。
「――王太子殿下がお亡くなりになったのは知っているね?」
「はい」
レオナルドは一口お茶を口に含んで喉を潤す。
その後、レオナルドは何も言わずに一点を見つめていた。どうやら、アルが予想以上に早く帰ってきたことで、これからの話をどう伝えようか悩んでいるようだった。
そこでアルは、とある「予想」を口にする。
「『戦死』ではない。……そうですね?」
アルの言葉にレオナルドは驚く。しかし、すぐにいつもの表情に戻す。
アルが断片的な情報だけでその結論に至ったことに対して一瞬驚いてしまったレオナルドだったが、すぐに「そういう子供」だと思い返したのだ。
「……おそらくそうだろう。王太子殿下は遠征に付き添うだけでダンジョンに潜る予定ではなかった。それに、王国騎士団が付いているのに戦闘でお亡くなりになるとは考えづらい」
「……となると、『暗殺』ですか?」
レオナルドは苦い表情を浮かべる。
「……分からない。ただ、私はそう考えている」
分からないと言いつつ、レオナルドは何か「確信」めいた物を感じているようにアルには見えた。おそらく、アルの知らない情報をレオナルドは握っているのだろう。
レオナルドは、ぱっとアルの顔を見る。そこには、いつものような優しい顔だけではなく、どこか「懇願」するような雰囲気が映し出されている。
「……アル、お前を呼び出したのは頼みたいことがあるからなんだ」
「――頼み、ですか?」
レオナルドから直接的に何かを頼まれるのは初めてだった。
そのため、アルは何となく身構えてしまう。一体何を頼まれるのか、予想もつかなかった。
「学園には第6王女殿下が居られる。お前と同じ年の王女だ。その王女の身辺警護をお前に頼みたい」
レオナルドからの予想外な依頼に、アルは少し怪訝な表情を浮かべる。しかし、すぐにレオナルドが言わんとしていることを理解した。
ただ、どうして自分に白羽の矢がたったのか。それだけがよく分からない。
アルの表情から何かを読み取ったのか、レオナルドは言葉を続ける。
「……現在、王位継承権を持っているのは王子4人と第6王女だけ。今回の一件が暗殺だとすると、王女殿下にも危険ある。……了承してくれるかい?」
今年のうちに第5王女も婚約されたので、今現在王位継承権を有しているのは王子4人とまだ婚約をしていない幼い第6王女のみ。
レオナルドは今回の一件で、王位継承権を奪い合うような展開になるのではないかと予想していた。
一応「アイザック王族法」によって王位継承権については細かい記述がなされてはいる。しかし、その継承順位も上の順位の者が亡くなってしまえば関係がない。
一見すると、継承順位が一番低い第6王女には関係が無いような話に思えるが、王にふさわしくないと判断された場合は下の順位の者に継承権が移るとされている以上は無関係とはいえないのだ。
アルは少し考えを巡らせる。
今回の人生は自分の為に生きることに決めている。しかし、それを理由に見捨てられるほど人でなしでもなかった。それに、これは自分をこれまで育ててくれた父親からの頼みでもある。
「――分かりました。ただし、陛下にお話をつけてください。話は――」
「――これは陛下からの指名だ」
アルの言葉を遮るように、レオナルドから衝撃的な発言が飛び込んでくる。
まさかの情報にアルは言葉を失う。
そして、アルは何故陛下が自分を指名したのかと、答えの見えない考えを巡らせることとなった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
第五章開始という事で、ここからまた物語を展開させていきます。是非お付き合いよろしくお願いします<(_ _)>




