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120.5話 ユリウス冒険譚(12)剣聖編

※『ユリウス冒険譚』の続編になります。

本編には大きな影響はございませんので、興味のない方は読み飛ばしていただいても構いません。

本日2話目の投稿なので、まだ読まれていない方は一つ戻って読んでいただけると嬉しいです<(_ _)>




 剣聖グラッゼを先頭に、一行は「盟主の王城」を目指して歩き続けています。



 「盟主の王城」とは、大陸の真ん中に聳え立つ大きなお城のことで、以前はそこに大陸を統べる盟主が生活していました。しかし、魔族の襲撃にあって今では魔族によって占拠されていました。


 剣聖グラッゼたちの第一の目的は「故郷」の奪還ですが、根本的な解決を望むのであれば、「盟主の王城」をも奪還することで、人が魔族と戦うための旗印となる必要がありました。また、「盟主の王城」にいると言われている「魔王」の討伐も彼らの目的の一つでした。


 

 しかし、彼らの中には少しの「違和感」がありました。


 それは、今まで何の知性も理性も持ち合わせていないと思っていた「魔族」についてです。彼らにも「家族」や「仲間」という存在があり、それを守るのに必死なのです。


 ただ、だからと言って先に侵攻を始めた魔族を許すことなどできません。


 

 彼らは、そんな複雑な思いを抱きつつ歩みを進めます。




 


 例の魔族との一件から1週間ほど経った時、剣聖グラッゼたちはある集団と鉢合わせました。



 それは、魔族と同じ真っ白な髪を持つ10数人の集団であり、その集団は剣聖グラッゼたちを見据えてこちらに歩いてきます。


 魔族と同じ白い髪に、剣聖グラッゼたちは否が応でも身構えます。しかし、彼らは特に変わった動きなどせず、ゆっくりとこちらに歩いてきます。



 その時でした。


 剣聖グラッゼに随伴していた一人の騎士が飛び出しました。彼は以前の航海で兄を亡くし、魔族に対して強い恨みを抱いていた人物でした。



 剣聖グラッゼは彼を引き留めましたが、彼の勢いは止まらず、ついにその集団に剣を突きつけました。


 もはや戦闘は避けられないかと、剣聖グラッゼは嘆きましたが、その集団は彼の攻撃を避けたりいなしたりするだけで、反撃をしようとはしませんでした。それどころか、話し合いにて何かを伝えたいような、そんな雰囲気を感じ取りました。



 剣聖グラッゼは、その騎士と集団の間に割り込み、例の騎士の剣をはじきます。その騎士は少し驚いたような表情を浮かべますが、剣聖グラッゼの次の行動に言葉を失いました。



 彼は片膝をつき、その集団に頭を下げました。それは、随伴していた他の騎士たちにとっても予想外の行動であり、驚きを隠せません。



「――我が騎士が無礼を働いた。申し訳ない」



 剣聖グラッゼは謝罪をしました。すると、一人の少女が集団の中から前に出てきて、彼と同じように膝をついて腰をおりました。



「私たちは魔族と人間の『ハーフ』であります。その騎士様が見間違えるほど、私達の容姿は魔族のそれと似ているのでしょう。私は未だ魔族と遭遇したことが無いので分かりませんが。――私はナノと言います。我が主『異端の魔導士』より命を受けてこの地を訪れました」



 真っ白な髪に少し浅黒く焼けた肌をしたナノという少女は、剣聖グラッゼに自分の名と目的を包み隠さず全て話します。彼女の目には「異端の魔導士」への絶対的な信頼が映し出されていました。


 剣聖グラッゼは彼女からその気持ちを感じ取ります。



「我が主は南の地に何か異変が起こるとお思いの様で、私達をこの地に派遣しました。私はその異変をあなた方の事だと想像しますが、お間違いないでしょうか?」


「……我が名はグラッゼ。ここより更に南の海からやって来た。目的は『魔族の討伐』であり、『魔王』をうち倒すことが今回の第一目的だ」



 剣聖グラッゼは自らの目的を伝える。


 剣聖グラッゼにも、彼女が嘘をついていない事、そして彼女の「主」への信頼の気持ちは何となく伝わってきてはいましたが、完全に彼女たちを信頼してはいませんでした。


 だから、あえて「魔族の討伐」という彼女たちを試すような目的を口に出しました。その言葉を聞いて、彼女たちがどんな反応をみせるかを知りたかったからです。


 しかし、彼女たちはそれに対して少し微笑むだけで特に変わった反応を見せません。



「――となれば、私達の目的と通ずるところがありますね。では、私達と『盟主の王城』への進行を共にしませんか?」



 ナノはそう言い切りました。


 当然のように剣聖一行からは反対の声があがります。彼らから見ても、ナノという少女の主への信頼や信念は伝わってきていました。そして、以前遭遇した魔族とは肌の色が異なることも分かっていました。


 しかし、極度に植え付けられた魔族への「憎悪」がそれを認めません。



 剣聖グラッゼは悩みます。


 部隊の指揮権を持っているのは剣聖グラッゼであり、彼が出した結論に対しては皆が絶対に付き従わなければならなかったからです。


 そして、彼は決断します。



「――いいだろう。ただし、あくまでも進行を共にするだけだ。『盟主の王城』での戦闘まで共闘するとは限らない」



 剣聖グラッゼは悩んだ末にそのような決断を下しました。


 これからの戦闘を考えた時に、戦力が今より倍増するというのは、任された部隊の生存を考えると魅力的な提案であり、またそれとは別に、彼女たちの「信頼」の強さに興味がわいたからでした。



「……それで充分です。私たちの守りたいものはたった一つなので」



 ナノという少女はそう言って快諾しました。それから、二つの集団は共に「盟主の王城」を目指すのでした。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は外伝なので、次回からまた本編に戻ります。


「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけたなら、ブックマーク登録と評価ボタンの方を押していただけると嬉しいです<(_ _)>

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