120話 野外演習(2)
今日は2話投稿です。
『ユリウス冒険譚』の方を22:00に投稿しますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです!
アルは周囲を見渡して、状況を瞬時に整理する。
後ろにいる二人は恐怖から足が震えており、もはや戦える状況にない。ふと隣を見ると、ソーマですら眼前の敵に恐怖を抱いているようだった。
ただ、後ろの二人に比べるとまだマシな方だった。
「――ソーマ、まだ動けるよね?」
アルはソーマにそう問いかける。
思わぬ声掛けに、ソーマは少し驚いてアルを見る。そして、アルの表情を見てさらに驚くこととなる。
そこには、こんな最悪の状態であるのに「笑顔」を浮かべる仲間の顔があったからだ。
もしかしたら、自己防衛の一種なのかもしれないアルの表情の変化だったが、ソーマからするとその表情を「英雄」のそれと重ねる。小さい頃に憧れたそれと。
「あぁ、俺はまだ動けるぞ!」
ソーマはアルから勇気を得た。アルからすれば無意識の表情の変化だったが、ソーマからすればそうではなかった。
ソーマの目から「覚悟」を感じ取ったアルは、ソーマを戦力として含めた作戦を考える。
「――ソーマは後ろの二人を守りつつ、隙を見て攻撃をしてほしい」
アルはじりじりと近づいて来るオークを目視しつつ、ソーマにこれからの指示を与える。
ソーマは黙って小さく頷く。そして、アルから伝えられた保護対象である2人に視線を移す。
「――二人には?」
ソーマはそう尋ねる。
ソーマはアルの力を知っているし、信頼もしている。しかし、眼前にいるのは自分たちではどうしようもない相手であり、アル一人で倒し切ることは不可能だと考えていた。そのため、後方の二人にも戦闘に参加するように伝えるべきではないかと暗に伝えているのだ。
しかし……。
「今の彼女たちは戦える状態にない。それに――」
グゥワァァァ―――!!!
オークの咆哮によってアルの言葉が遮られる。オークはアル達が攻撃してこないのを感じ取り、本格益に捕食対象として見据えたようだった。
「――まずは守ることを重視してほしい。いいかい?」
「――分かった! ……死ぬなよ?」
ソーマのその言葉に、アルは笑って応える。
すると、それを挑発と受け取ったのか、オークがアルをめがけて突撃してくる。オークは自身の体重と遠心力をうまく活用して、右手に握った棍棒を勢いよく振り回す。
アルはその棍棒の攻撃を片手直剣で受け止める。
危険度Cの魔物というだけあって中々に重い攻撃だった。しかし、ステータス的にはアルの方が高いはずだ。
アルは攻撃を極力受けないように、器用に立ち回る。
オークの攻撃は事前の動きを見ていれば何となく予想がつく。大ぶりな動きで棍棒を振り回すか、比較的早い動きである武器を持たない手による殴打。偶に足払いなども繰り出してくるが、それはそこまで脅威ではない。
アルは攻撃を避けつつ、オークの動きを分析する。
オークを倒すのは簡単だ。アルの腰に携えた剣を引き抜いて一太刀浴びせれば、おそらく一撃でけりが付くだろう。しかし、今回はそれが目的ではない。
アルはチラッと後方を見る。その表情は「教師」のそれだった。
オークの姿を見て、クリスは恐怖のあまりその場から動けないでいた。隣にいたリリーも同じようで、2人して前にも後ろにも進めない、傀儡となり果てていたのだ。
オークは本来一階層に出てきていい魔物ではなく、Dランク冒険者のパーティーでの討伐か、単騎ならばCかBランクくらいの実力が必要な敵だった。本来ならば逃げるしかないような相手であったが、オークは既に自分たちをターゲットとしている。
もはや絶望的な場面となっていた。
何とか逃げなくては。クリスはそう考えて前方でオークに睨みを利かせているアル達を見る。すると、アルだけを残してソーマがこちらに走ってくる。
「下がってろ、ここは俺が死守するから!」
ソーマはリリーたちに背を向けて、オークと彼女たちの間に立ちふさがる。
すでにアルはオークと戦闘を開始しており、オークの攻撃を何とか防いでいた。
「なんて無謀なことを……。すぐにここから逃げるべきです!」
クリスは動けないでいる自分を棚に上げて、アル達の下した判断を否定する。
彼女には「恐怖」に打ち克つ術がなく、一刻も早くここから逃げ出したいという「生存欲求」が彼女の精神を占領していた。
そんなクリスに対して、ソーマは不敵な笑顔を浮かべてこう呟く。
「――あいつは『無謀』だなんて思っていないみたいだぜ」
ソーマの視線はアルとオークの戦闘に釘付けだった。
一見すると、アルが一方的に攻撃を受けているように見えるが、最初の一撃以外はオークの攻撃を完全に避けきっている。それどころか、どことなくその動きに余裕すら見えるのだ。
恐ろしい才能だ。
ソーマは眼前で繰り広げられる戦闘を見てそう感じる。
「……ソーマ、私を隠しながらオークに近づける?」
アルの戦闘に心が動いたのはソーマだけではなかった。
リリーは覚悟を決めた目でソーマにそう尋ねる。それに対して、ソーマは深く頷いて見せる。
「まだ練習中だけど……例の魔法を試してみる」
例の魔法。
それは最近アルがリリーに教えていた魔法だ。魔法陣が複雑であり、その上かなりの魔力が必要という事もあり、中々成功していない魔法だ。
そのため、アルは実践には導入できるレベルにないと判断し、使用を禁止していた。
ただ、現状を考えるとこの魔法ほど最適な物はない。
「――分かった。で、あんたはどうする?」
ソーマはクリスにそう尋ねる。
「私は――」
本心はここから逃げ去りたい。そう考えている。
ただ、このままの自分で良いのかと、クリスの中にある小さな勇気が叫ぶのだ。
これまで「劣等生」や「落ちこぼれ」と揶揄されて悔しい気持ちを抱きつつ、どこかで自分の可能性や未来を否定していた。以前、アルに指摘されてついカッとなって言い返したのは、アルが言っていたことが真実であったからだ。
――いつまでもこうして逃げ回るのか。それでいいのか。
クリスは自問自答を繰り返す。そして、ぱっと眼前の戦闘を見据えた。
「――私も行く。もう、『落ちこぼれ』と揶揄されるのは嫌だもの」
クリスの言葉を受けて、ソーマは小さく頷いて動き始める。
ソーマの動きに合わせてリリーは追随しつつ空中に魔法陣を描き始める。それはとても複雑で、一瞬の気のゆるみも許されない。
魔力の持続時間が刻一刻と迫ってくる。もうミスは許されない。
「間に合って!」
そう叫びながら最後の一節を書き切ったリリーは、ありったけの魔力を魔法陣に注ぎ込む。すると、魔法陣は青い光を帯びて発動する。
魔法陣から飛び出したのは「冷気」だった。
その冷気はオークの足元へ向かい、標的の足を地面に縫い留める。彼女は、水属性の応用魔法を成功させたのだ。
「――今だ!!」
リリーの魔法が成功したのを見て、クリスたちは同時に攻撃を開始する。
先頭に立ったソーマがまず一撃をオークに与える。ただ、彼の筋力では致命傷になり得る傷をオークに与えることは出来ない。
後から走り出したクリスは、眼前の強敵を見据える。
自分よりもはるかに大きく、強い敵。今までならば対峙することすらなかっただろう。
しかし、今は違う。仲間が作ってくれたこの好機を、何とかものにしなくてはならないのだ。
すると、今までにない感覚がクリスを支配する。やけに体が軽く、動きが鋭い。握った剣の感覚も今までのそれとは違い、より洗練された感覚がクリスを襲う。
剣を振り上げる。スムーズ過ぎて自分の体ではないみたいだった。
クリスの剣はオークの腹を切断する。生々しい肉を切り裂く感覚が彼女の手に残る。ただ、そんな嫌な感覚を忘れるほど、彼女には達成感が満ちていた。
己の弱さを克服し、強敵に立ち向かった「勇気」。そして、勝てるはずもない強敵に傷を負わせたという「誇り」。それらが彼女を震えさせた。
――実感したのだ、自分の成長を。
「――よく頑張りました」
そう言ってアルはオークの首を両断する。かくして、アル達は強敵オークを打ち倒したのだ。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回で120話という事で、今日は「ユリウス冒険譚」も併せて投稿します!!
一応時間は22時にずらしますが、そちらも一緒に読んでいただけると嬉しいです<(_ _)>




