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116話 MPと決意




「『魔力の増加術』ですか?」



 リリーは「魔力の増加術」という言葉に首を傾げる。


 先ほどまで泣いていたリリーだったが、強くなりたいという決意を固めてアルに教えを乞うた。そして、アルが彼女に提案したのが「魔法」という選択だった。


 その時にネックとなるのがリリーのMPの最大量だった。しかし、彼女の反応を見る限りでは「魔力の増加術」という方法自体試したことがない様子だった。



「『魔力の増加術』とはMPの最大量を増やす方法のことです。お腹の左側あたりにある魔力壺と呼ばれる魔力を生み出す器官から、体中にその魔力を通す管を張り巡らせるようにすることでMPの最大量を増やすことが出来るんです」



 アルは簡単に説明する。アルの説明に、リリーは逐一相槌を打ちつつ真剣に耳を傾ける。


 そして、一通りの説明が終わったところで彼女は少し納得がいかないような表情を浮かべる。



「そんな方法があるんですか。でも、私は1属性しか魔法の適性が無いのですが……」



 リリーの魔法適性は「水」のみしかない。


 本来、魔法適性が一属性のみの者は魔法の訓練を受けようとはしない。

 なぜなら、1属性のみしか行使できないものは魔法の才能はないという昔からの「常識」があり、魔法よりも他の戦闘技術や学者や商人と言った戦闘を必要としない職業を目指すのが普通だったからだ。


 しかし、アルはそうは思わない。

 なぜなら、アルには「鑑定眼」というギフトがあるために、魔法の才能と言える「知力」の値を見ることが出来るからだ。それに、アルにはMPの活用方法としてただ魔法を放つ以外の方法があるという事をしている。



「学園では魔術者と剣術科に分かれているため、どちらか一つを極めようと考えがちですが、1属性であっても魔法を使えるのと使えないのでは大きな違いがあります。……それに、MPというのは魔法を使うだけしか能がないわけではありませんし」



 アルが以前グランセル公爵領で実験していた「身体強化」はMPを属性変化せずに活用する方法だ。つまり、MPとは魔法を放つだけの存在ではなく体の力を強めたりできるという事をアルは知っている。



 しかし、何も知らないリリーはアルの説明にきょとんとしている。


 それは仕方がないことである。リリーは魔法の才能がないと言われ、これまで魔法に関わることすらなかったのだ。その中で急にMPの活用法など教えたところで理解できるはずがないのだ。



「まずは、『魔力の増加術』をやっていきましょう。とりあえず一週間ほど、暇があればやってみてください」


「分かりました!」



 まずは「魔力の増加術」を用いてリリーのMPの最大量を増やすことが一番重要である。それからのMPの活用方法は、その都度教えていけばいいのだから。


 そんな事を考えていたところで、アルはとあることを思いつく。



「あ、あと明日からはソーマ君も一緒に訓練しましょう」



 アルは明日からソーマも一緒に訓練を行う事を提案する。まさかそんな事を提案されるとは思っていなかったのか、リリーは不思議そうな目でアルのことを見上げる。



「……いいのですか?」


「えぇ、ソーマ君はリリーさんと仲が良いですから、いずれ僕たちが一緒に行動していることに対して違和感を持つでしょう。それならば、先に話しておくべきでしょう」



 ソーマはリリーと仲が良く、学校終りなどは一緒に冒険者活動をしているらしいので、いずれは何かしらの違和感を覚えるはずだ。それならば、先に話しておいて一緒に訓練した方が良い。


 それに、アル自身もソーマの事は気になっていた。種族値Aという稀有な存在であり、「剣の道」という今までに見たことのないギフトの持ち主でもある。そして何より「状態異常:呪い」というのも気になっていた。



「確かにそうですね……。分かりました、私から誘ってみます。それに……」



 そこでリリーは一旦言葉を飲み込む。そして、何かを決意したように重々しい閉ざされた口を開く。



「……私の過去についても話してみます。ソーマなら、アルフォート様のように受け入れてくれる気がしますし……」



 リリーにとってソーマとの繋がりは相当大切なものだった。


 両親に裏切られて、逃げて王都にやって来た。その中で、唯一行動を共にできると判断した人物。それがソーマだった。


 アルのことは信頼しているし頼りがいのある人物だと思っているが、ソーマには自分の弱い部分を知られたくないと思っていた。しかし、アルに自分の弱さを受け入れてもらえたことで、彼女の中で一種の勇気が芽生えたのだ。


 アルは彼女の決意を後押しする。しかし、そんな中であることが引っかかる。



「その、呼び方は変えられませんか? 同級生に様付けされるのは、むず痒いのですが……」



 ずっと思っていたことではあったが、リリーは頑なに様付けを止めようとはしない。ソーマなんて、一貫して「お前」呼びなのに。


 別にソーマほど砕けた関係を望んでいるわけでは無いのだが、それなりに親しくなったと感じていたアルの中で、彼女の呼び方は少し気になった。


 アルの言葉を受けて、リリーは一瞬目を大きく見開いた。



「それは無理です。諦めてください」



 彼女は笑ってそう言う。その笑顔は少し悪戯っぽく、今まで見たことがない笑顔だった。


 彼女は「また明日もよろしくお願いします!」と言って訓練場を出ていった。その足取りはとても軽かった。





 リリーが帰った後、アルは一人訓練場に残る。


 そして、空中に指で何かを書きつける。すると、アルの指の軌道に沿って光る文字が空中に浮かび上がる。それは魔力によって生成された物であり、数秒後に跡形もなく消え去る。



「……やっぱり、これが一番リリーさんの戦い方に合っているよね。あとは……」



 アルは小さな声である言葉を発する。すると、アルの目の前に黒い渦のような物が発生した。アルは何の躊躇いもなくその渦に自分の右手を突っ込む。そして、その渦の中から何かを引き出してくる。


 黒い渦から出てきたアルの右手には、白銀に輝く刀身に青い波のようなレリーフが刻まれた柄が特徴的な片手直剣が握られていた。



「……ソーマ君の才能については未だ未知数。少し楽しみかな」



 そう言ってアルは少し表情を綻ばせる。それは、人を導く「教師」のような表情であり、自分の知的好奇心を満たそうとする「学者」の表情でもあった。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

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