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112話 負の感情




 アルがアリアに思いを伝えてから、1週間が経った。


 春の陽気も少し落ち着き、夏に向けて少しずつ気温も高くなっていた。王都は大陸の大陸部にあるため、そこまでジメジメとした湿気は感じない。


 過ごしやすい気候の中、悠々自適に自室で本を読むアルだったが、最近少し頭を悩ませる事案があった。それは、アリアに思いを寄せているというオリオール伯爵家の長男、ルーベルトの存在だった。






 時は数日ほど遡る。


 アリアに想いを告げて、アリアとの仲を確定的にさせたアルは、初めて「恋」というものを感じていた。以前からアリアの事を好きだという感覚はあったが、自分の想いを伝えてアリアに受け入れられたことが、嬉しくて仕方がなかったのだ。



 しかし、そんな浮ついた気持ちを引き戻すように、アルの在籍する教室の扉が大きな音を立てて開かれる。


 そこには、男性にしては長めの金髪が印象的な男子生徒が立っていた。彼の傍には、召使の様に付き従う男子生徒が数人いて、いかにも偉そうにふんぞり返っている。制服はアルと同じ紺色だから、剣術科の生徒であることは分かる。そして、腰に携えた剣はいかにも高価な品であり、彼の身分の高さもヒシヒシと伝わってきた。



 彼は教室を一望する。そして、アルの存在に気が付き、ゆっくりと近づいて来る。


 彼は同年代の中では高身長な部類に入るアルと同じくらいの背丈があり、少し吊り気味な目も異性を引き付ける魅力がある。そして、その鋭い眼光からは野心の強さを感じさせる。



 彼が近づいて来る時間、アルは鑑定眼で彼を見る。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ルーベルト・オリオール(13)

種族:人間(種族値C)

称号:オリオール伯爵家長男

HP:2,500/2,500

MP:500/500

魔法適性:風

罪状:傷害罪(軽)

状態異常:なし


――――――――――――――――――――――


野心:95 忠誠度:0

レベル:12(攻+30,俊+20,他+5/毎)

攻撃力:380

防御力:140

知力:145

俊敏力:280

スキル:片手剣(1) 槍術(3) 体術(1) 戦術(3)

    礼節(2)

ギフト:主の器(眷属の数によって能力UPの数値が変動)

加護:??の加護



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アルは瞬時にその人物の情報と、これまでに聞いてきた記憶とを照合させる。



 ルーベルト・オリオール。


 彼はアリアに気がある男子であり、新進気鋭で飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大させているオリオール伯爵家の跡取り息子である。親ほどではないが頭も切れ、腕も経つ秀才という噂を聞く。


 それがアルの持つ彼に対する情報だった。



 しかし、実際はどうだろう。偉そうにふんぞり返って歩く姿、周囲への気配りの稚拙さ。貴族の跡取りという事でいい気になっているだけの坊ちゃんにしかアルには見えない。


 確かに、能力は高いしギフトも強力なものがある。そして何より、転生者の孤児であったアーネットと同じ「??の加護」を持っている。警戒しなければならない人間であることは確かだった。



「君がアルフォートか?」



 ルーベルトは座っているアルを見下してそう言う。表情には自分の勝利を確信しているかのような雰囲気を感じさせる。おそらく、アルが剣術科のEクラスに所属しているという事に対して何か優越感のような物を感じているのだろう。


 貴族の家格的にはグランセル公爵家の方が高い。

 しかし、アルが3男であり爵位を継げないという事を知っているルーベルトは、自分の方が将来的には高い身分になるのだと考えている様子で、特にアルに対して敬意を示すようなことはしない。本来ならば問題のある行為なのだが、アルもその事には特に触れるつもりはない。



「初めまして、グランセル公爵家3男のアルフォートです。お初にお目にかかります、ルーベルトさん」



 アルはルーベルトの態度に多少思うところがあったが、態度に出すことはない。親の権威や自身の能力、そして自分が思いを寄せている人物と懇意にしている男子という事もあり、素直に相手を認めることができないのだろうということは容易に想像ができるからだ。


 しかし、アルの態度を受けてルーベルトは全く違う受け取り方をする。顔には、雲一つない空の様に一点の曇りもない自信の色が映し出され、アルを下に見る気持ちを増長させる。



「……一度も会ったこともなかったというのに、私の名はそれほどに轟いているということか」


「その通りで御座います! ここにいる者達は全てルーベルト様を尊敬しているのですよ!!」


「えぇえぇ、その通りで御座います!」



 ルーベルトの呟きに、そば付きの男子生徒たちが過剰に持ち上げる。その言葉を受けて、ルーベルトは余計に自信をつけていき、自分との差をアルに植え付けるかの如く見下す。


 しかし、アルはそれをジーと見ているだけで賛同も否定もしない。それよりも重要なのは、何故ルーベルトがこの教室にやって来たのかという事だからだ。


 アルが無反応なのを感じ取ったルーベルトは少し不機嫌そうな表情を浮かべる。



「……君、私のアリア姫と懇意にしているそうだね?」



 ルーベルトは冷ややかな視線でアルの方を睨みつける。アルが思っていた通り、彼がここに来たのはアリアとの事が関係しているらしい。ルーベルトは未だ何か言いたそうにアルの方を見ているので、アルは黙って次の言葉を待つ。



「アリア姫の友人であるノーラを抱き込んで接触したのだろうが、私は君の行動を容認できない。今すぐに手を切り給え」



 ルーベルトは冷ややかな視線をアルに向ける。


 言いがかりも甚だしい。何より、このような公共の場で自分より家格が上である貴族家の子息を貶めようとするとは。何の証拠もなくこのように糾弾するのは侮辱罪に相当する。


 といっても、相手は新進気鋭の貴族家の跡取りだ。この場を穏便に済まそうとアルが口を開こうとしたとき、隣から思わぬ声があがる。



「――それは侮辱罪に当たると思いますが。何か証拠でもあるのでしょうか」



 声を上げたのはクリス・ブラウンだった。彼女は、鋭い眼光でルーベルトの事を睨みつける。



「……君は?」



 ルーベルトは他からの横やりに少し不機嫌そうな表情を浮かべながらそう尋ねる。それに対して、クリスは特に物怖じした様子はない。


 それほどに、自分の正しいと思う事柄からルーベルトの言い分はずれていたのだ。



「私はクリス・ブラウンです」


「……ふっ、ブラウン男爵家の令嬢ごときが私に意見するとは! こんな面白いことはない」



 クリスが男爵家の令嬢と知り、ルーベルトは大きな声を上げて笑う。なにがおかしいのか、そば付きの人間たちですら笑い始める。彼らは2人とも男爵家の出身であり、少なくとも彼らは笑える立場にはないはずだ。それなのに、虎の威を借る狐の様に一緒になってクリスを笑いものにしている。


 クリスは少し苦い表情を浮かべる。自分の家の事を言われると、もう何も言い返せないからだ。


 アルはそんなクリスの表情を見て、胸に何か黒い感情が込み上げてくるのを感じる。



「――ルーベルトさん、僕の級友が何かおかしなことを言ったでしょうか?」


「いやいや、男爵家の出の者がこの私に意見をするというのが見のほど知らずと思っただけだ。……そうだろう? 身分に差があるのだ――ッ!?」



 まだ何か言葉を続けそうだったルーベルトだったが、アルから溢れる威圧感に口を閉ざす。そして、息をするのも忘れてしまうほどの恐怖をアルから感じ取る。



「――私は貴族という立場を誇示する人を是としません。……良いですか? 私の級友に手を出したら」



 そこまで言ってアルはルーベルトの顔を見上げる。そこにはさっきまでルーベルトがアルに向けていた冷ややかな瞳があった。それは相手を軽蔑した目。


 ぱっと自分の足元を見る。すると、無意識的に2、3歩くらい自分が後方に退いていたことが分かった。



「――ちっ、行くぞ!」



 そう言ってルーベルトは教室を出る。何が起こったのか分からなかったそば付きの生徒たちは、視線を1、2往復程させてからルーベルトの後を追う。



「お騒がせして申し訳ありませんでした」



 アルは周囲の生徒たちに頭を下げて謝罪する。そして、脇に置いてあった剣を腰に下げて教室を出ていく。



 アルは初めて胸に込み上げてきたこの負の感情を持て余していた。


 自分のことを馬鹿にされても、特にいら立ちを覚えることはなかった。しかし、自分の身近な人間を馬鹿にされるのは我慢ならない。無意識に威圧感を周囲に振りまいてしまった。



「……僕もまだまだということですね」



 アルは小さな声でそう呟く。自分の中で、何かが変わった。そんな気がしていた。



 今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


 いつもご愛読ありがとうございます<(_ _)>

 先月ほどではないのですが、沢山の方が読んでくれて本当に嬉しく思っています!


 更新速度が落ちてしまい、本当に申し訳ないとは思っているのですが、必ず完結まで書き続けるつもりです!応援よろしくお願いします!!

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